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第386話 マニアックの世界

Q.みんなの好きなおでんの具は?


ホーク 「全部かなあ。あ、でもカラシは苦手かも」

ローリエ 「タコですね。シーフードが好きなので」

オリーヴ 「コンニャクの食感が面白いと思う」

バージル 「餅巾着を白米に乗せて食うのが最高なんだよ」

クレソン 「全部。1個だけ選べってんなら牛すじだな」

カガチヒコ 「味のしみた大根と厚揚げにござる」

イーグル 「ジャガイモ。邪道とは言ってくれるなよ」

オレガノ 「フランクフルト。ソーセージでも可だべ」

オークウッド 「我輩特に選り好みはしませんな!」

ガメツ 「結び昆布だな。酒によく合うんだこれが」

マーリン 「なんでも好きじゃよ。たまごが特にのう」

ハインツ 「残り汁で作るうどんか雑炊が堪らぬ」

イグニス 「全てだ! 全てを等しく余は愛する!」

ローガン 「色んな出汁の出たおつゆを飲むのが好きかな」

シェリー 「つゆのしみ込んだがんもどきにございます」

「辻斬り、とな?」


「ああ。物騒な世の中だぜ」


カガチヒコは行きつけの小料理屋『しらゆき』で上等な熱燗を傾けながら、馴染みの常連客らと歓談に興じていた。しらゆきは黒い翼と濡れ羽色の長髪が美しいカラス鳥人の女将、ササメが女手ひとつで営む閑静な高級住宅街にある小さなお店である。


11月の寒風凍みる秋の夜に、よく味の染みた熱々のおでんが嬉しい。箸でやわらかな大根を割り口に運べば、口の中で溶けるようにほぐれながら優しい旨味が広がる。ゴルド邸の食卓に並ぶおでんにも引けを取らぬ美味だ。彼女の得意とする素朴な民族料理はこの国でも大いに受け入れられ、多くの常連客を作った。


「それもただの辻斬りじゃねえぞ。程よく熟れた年頃の美人ばっか狙ってよ、首でなく足首を切り落として持ち去るんだとよ」


「ひええ。おっかねえおっかねえ」


「おいよせやい。折角の女将の飯が不味くならあ」


「足首なんぞ持ち去って、一体何に使うんだろうな?」


「狂人の考えなんざ俺らに解るかよ」


ジャパゾン国出身の女将が営む本格的な和食の名店ゆえ、立地代も相俟ってお値段それなりに高くとも、とりわけ同郷の者たちが郷愁の念に駆られ夜毎に集う店内。不穏な話題に顔を顰めた老人たちがめいめいに猪口やグラスを傾ける。その中には恰幅のいいタヌキ獣人の行商人、トーナスの姿もあった。


「女将さんも気を付けなよ。オバサン扱いするわけじゃねえけど狙われてもおかしくない年代の美人さんなんだから」


「そうですねえ。近頃何かと物騒ですし」


「女将に何かあったら俺らが赦さねえ!」


「フフ。私にもしものことがあったら、仇討ちは皆さんにお任せしちゃおうかしら?」


「そんな縁起でもねえ!」


「そうですよ!」


美人女将の艶っぽい流し目が店内を流れてゆき、一瞥された常連客らは見とれたような笑みを浮かべる。店内に漂う酒香に酔ってしまったのか、子供用の椅子の上でウトウトしているホークが椅子から転げ落ちぬよう肩、いやわき腹を貸してやっているカガチヒコは、そんな女将の色香に微笑を深めるばかりであった。


「なーに、いざとなったら先生もいるんだ。なあ?」


「買い被りを。拙者はただの雇われ用心棒に過ぎぬ」


「またまた、ご謙遜を!」


「頼みますぜ、先生!」


隠居老人を装ってはいるものの、彼が相当腕の立つ剣客であることは誰もが察している。用心棒または仇討ちとあらば頼りになろう。だが、それだけでないのは誰の目にもあきらかなのだ。それを承知の上で、彼は輪の中に入れてもらっている。


――


「女の足首ばっか狙う辻斬りねえ。新手の変態か?」


「物騒な世の中にござるな」


帰路。11月の夜風吹き荒ぶブランストン王国の夜は冷え込み厳しく、火照った頬にあたる寒風が体温を奪っていく。防寒着をしっかり着込んでいても、凍えるような秋冷えだ。湯たんぽの如く体温の高い、子供の体のホークをおんぶしながら歩いていたカガチヒコは、よいせ、とずり落ちそうになる主を背負い直した。


「キャアアアア!?」


「先生!」


「ああ」


そんな時、どこからともなく聞こえてきたのは女の悲鳴。いや、絶叫か。即座に状況を判断したカガチヒコが、背負っていたホークを今度は夜空に向かって勢いよくぶん投げる。おおよそ老人の膂力腕力でなし得るものではないが、それは今のホークが『とても軽い』からだ。お得意の重力制御魔法で己の体重を極めて軽くしたホークの体が、極寒の夜空に花火の如く打ち上げられる。皮肉なほど美しい満月。黄金の光を黒く切り取った子豚のシルエットが、上空から高級住宅街を一望する。


「あっちだ!」


フワフワと風船のように滞空していたホークが、今度は重力引力に引かれて猛スピードで落下する隕石のように一瞬で近くの豪邸の高い塀の上に着地する。子豚でありながら猫のように身軽に塀の上を駆けていく主の後を、足早に追走するカガチヒコ。


「嫌ああああ! 誰かああああ!」


「大丈夫ですか!」


現場は酷い有様だった。街灯から離れているせいで薄暗い夜道。充満するのは血の臭い。足首を切断された中年の美女が、激痛とショックに悲鳴を上げながら這いつくばって錯乱している。周囲に人影はなく、彼女の他に誰もいない。犯人は既に切断した足首を拾って逃げ去った後なのだろう。


「こ、子供!? お願い、助けを呼んで頂戴!」


「分かった! 治療するからちょっと寝ててね!」


道を歩いていていきなり足首を切断される、というのは著しい恐怖であり激しいショックだろう。そこに痛みと大量出血を伴うとあらばなおさら冷静ではいられまい。錯乱する美熟女の意識を魔法で眠らせて奪い、ホークは患部に治療の魔法をかけた。みるみるうちに傷口は塞がっていくが、失われた足首から先が戻ることはない。痛々しい姿にホークの胸に憐憫が込み上げてくる。


「主殿!」


「先生! 警察に連絡!」


「承知!」


用心棒が護衛対象を置いていくんじゃない、というのは今更だろう。そもそもが今のホークに護衛など必要ないのである。それでも護衛当番を持ち回りで続けているのは彼の甘えであり彼らの親心の賜物である。ホークは光の魔法で作り出した照明弾を打ち上げる。ブランストン警察で使用される信号弾と同じ色の光に照らされ、まるで昼間になったように辺り一帯が明るくなった。


「シェリー! 事件現場一帯のスキャン頼む! 犯人の痕跡を優先的に!」


「了解致しました」


同時にマイクロマシン制御による仮初の肉体を得て実体化した老執事が、ホークの背後に音もなく現れる。老執事の瞳がキラリと緑色に輝き、そこから放たれた緑の光が周辺を3次元スキャンした。


「はあ。豚も歩けば棒にあたるって奴かねえ」


「猿と人工知能もおりますぞ」


「桃太郎もビックリのトリオだな」


辻斬り。無差別通り魔なのか、ある特定の相手を狙った計画的犯行なのかは現段階では不明だが、どちらにせよ放置するわけにはいくまい。カガチヒコ行きつけの店の近くでこんな物騒な事件が頻発してるなんていい迷惑だし、それに犠牲者が憐れだ。


(車椅子……いや義足か。オークウッド博士に相談したら、戦闘用の義手義足なんかも作り始めちゃいそうだな。ロケット噴射で空を飛べるようになる義足……まさかね?)


ともあれ今は警察の到着を待つよりない。倒れ伏した女性を重力魔法で軽くして道の端まで移動させ、警察の到着を待つ。予想外に帰りが遅くなって心配をかけてしまったら申し訳ないなあ、と彼は過保護な保護者たちの顔を思い浮かべた。

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