狂神に捧げる戦い 06-07
艦底に巨獣がぶちあたったように、パルシファルは揺れる。
全天周スクリーンがホワイトアウトしたのは数秒のことで、スクリーンにはぬばたまの闇が戻っていた。
ダーナの叫びと同時に、闇を引き裂く八本の真白き柱が出現する。
ワルターは、唸った。
「あれは、なんだ」
「解析するね」
スクルドが、ワルターの言葉に応える。
光の柱は太くなり、拡散していく。明らかに、発射されたビームは分解され力を失っている。
スクルドが、解析結果を報告した。
「さっきの対艦ミサイルが炸裂した時に、金属片の混ざった粉塵を散布したようだよ。グングニルは敵艦に命中したけど、バリアに阻止されてる。予測される敵艦隊の被害は、十五パーセントの性能低下」
「やってくれるじゃあ、ないの」
ダーナが、不機嫌な声をあげる。
ワルターは目を細め、コンソールを操作する。そして虚空に、声をかけた。
「作戦参謀!」
戦闘艦橋にロキの立体映像が、浮かび上がった。
ワルターは不機嫌な眼差しを、ロキに向ける。
「敵艦隊の撒いた粉塵を迂回してグングニルを撃つのが有効か、判断してください」
ワルターの言葉に、ロキはむうと唸る。その瞬間、フランツの立体映像がロキの隣に浮かんだ。
フランツは花を撒くように、笑みを撒く。そして、口を開いた。
「パルシファルが回避行動をとっている間に、敵艦隊はビーム砲が使用できない距離に接近できます。予定通り、近接戦でミリタリーモジュールの戦いにすることを進言しますよ」
フランツの楽しげな声に、ロキの言葉が重なる。
「そういうことだ、ワルター艦長」
ワルターは凶悪な顔で、指示を出す。
「全速前進だ、航海士。砲手は、スペースカノンによる砲撃戦準備」
操舵レバーを握ったユーリが、声をあげる。
「ラジャーです、進路そのまま、全速前進ヨーソロー」
ダーナは、多少憮然とした調子で言った。
「全砲照準を敵艦隊に向け、発射準備。シールドによる防御システムを、起動」
ワルターは頷くと、今度は別の空間に向かって叫ぶ。
「戦闘班長!」
虚空に、怜悧な瞳にシリウスの輝きを宿すキルケゴールの上半身が浮かび上がる。ミリタリーモジュールに、搭乗済みであった。
「全ミリタリーモジュール、発艦用意。百二十秒後に、全機発艦だ」
キルケゴールは、薄く笑みを浮かべる。
「ラジャーだ、艦長」
「百三十秒後に、敵艦との距離が一万メートルを切ります」
キルケゴールの返答に、ヴェルザンディの声が被さる。
ワルターは、頷く。
ずん、とパルシファルの艦体に衝撃が走った。
「敵ミサイルの散布した粉塵の中に、入りました。粉塵帯から出ると同時に、一万メートルの距離となります」
ワルターはヴェルザンディに、頷いた。
「本艦は、これより近接戦に入る!」
再び全天周スクリーンが、ホワイトアウトする。大気圏に突入したかのごとく、粉塵との摩擦がパルシファルの艦体にプラズマを発生させていた。
船体の表面に生じる微細な振動は、獣の低い唸りとなってブリッジへ届いている。ユーリは狼の群の中に飛び込んだのかと、思う。
ユーリは不吉なイメージを振り払い、手元に起動したウインドウで周囲の状況と敵艦の位置を確認する。パルシファル自身は視界を失っているが、索敵ドローンが量子リンクを通じて送ってくる情報で操艦可能であった。
キルケゴールの映像が艦橋内に浮き上がり、声が響きわたる。
「ミリタリーモジュール、全機発艦する!」
ユーリの手元にあるウインドウに、小さな輝点が敵艦へ向かって飛び立つのが映し出された。
ユーリは思わずケンの無事を、こころの中で祈る。




