狂神に捧げる戦い 06-08
「ブラックソード隊、発艦する!」
ケンが声をあげると同時に、電磁カタパルトで加速されたミリタリーモジュールは宇宙空間へと飛び出す。
連邦軍が散布した微粒子の中に飛び込んだミリタリーモジュールの視界は、ホワイトアウトした。しかしそれは数秒のことで、機体は闇で満たされた真空の海へと飲み込まれる。
ケンは、周囲の状況を確認した。彼の装備する網膜投影ディスプレイには、暗黒の宇宙を進むミリタリーモジュールが映し出されている。
九機からなるケンの編隊は、彼の機を頂点として逆V字を描いていた。
微粒子で一瞬視界を奪われた影響もなく、しっかり統制がとれている。ケンは満足げに頷くと、さらに周囲を確認していく。
九十六機からなる、ミリタリーモジュールの大編隊が展開を終えていた。光学装置ではジャミングにより確認できないが、戦闘ネットワークに組み込まれているため他の編隊をアイコンとして確認できる。
疑似的な映像だが、ケンはその壮大な規模で編成された攻撃隊に少し眉をひそめた。
普通は半数近くを艦の守りに残すものではあるが、全機を攻撃につぎ込むという捨て身の戦法である。
鋼鉄の猛禽たちは、敵ミリタリーモジュールを速やかに食い尽くさねばならない。さもなくば、パルシファルが喰い殺されることになるだろう。
宇宙の闇に張りつめた緊張感が満ちているようにケンは感じ、唇を歪める。
さすがにピーキーな設定の機体を操るにはオペレーションに集中が必要なためか、珍しく緊張した表情で操縦するケンの視界に、彼のフェアリーであるヴェリンダが登場した。
「はぁい、ケン。ヴェリンダ、配置についたよ。それにしても今日は、なんのお祭りかしら」
夜空を纏ったように漆黒の肌をもつ少女は、夜明けの輝きを瞳に宿して上機嫌に笑う。
ケンは、苦笑する。
「聖なる愚者パルシファルの、生誕祭というところかな」
ヴェリンダが、くすくす笑う。
「それじゃあ、ひとつ盛大に連邦のミリタリーモジュールを、生け贄に捧げなきゃあね」
ケンは、首を振った。
「おれの相手は、たったの一機だ。そいつさえやれば、後はキルケゴール戦闘班長がやってくれる」
真夜中の肌を持つ少女は、驚きに目を丸くした。
「ああ、こないだの白い機体に赤のストライプの入ったやつね」
ケンは、頷く。
「そうだ。まず、やつの機体をみつけなきゃならん。ヴェリンダ、頼めるか」
にいっと、ヴェリンダは笑う。
「まかせなよ。それにしても酷いね、この機体のセッティング。ちょっと操作を誤ると、宇宙の果てに吹っ飛ぶよ」
ケンは、皮肉に笑う。
「おれにはこのクレイジーなじゃじゃ馬が、相応しいそうだぜ」
ヴェリンダは、あははと笑う。
「ま、そうかもねぇー。じゃ、ちょっと索敵に集中するから、じゃじゃ馬のお守りはおねがいするよ」
「わかった」
ヴェリンダは暗号化ネットワークで索敵ドローンとリンクしたらしく、光学的にステルス化した敵ミリタリーモジュールの情報をスクリーンに投影しだす。
光学的にもレーダーを使ってもジャミングにより妨害され正確な形態は捕らえられないので、味方の機体と同様にアイコンとして表示されていく。
連邦はおよそ、八つの隊で編成されている。おそらく、全部で八十機は出撃しているということだ。
ケンは、うなり声をあげる。
敵も我々と同様に、防御に編隊を残さず総力投入らしい。
なかなかクレイジーな艦隊司令が、トップにいるようだと思う。
ヴェリンダが、声をあげる。
「見つけたよ、一機なぜだかファイター装備だわ。そいつは、白いボディに赤のストライプが入った機体だね」
ケンは、思わず苦笑する。
ファイター装備ということはパルシファルの攻撃に参加する気はなく、ドッグファイトに専念するというわけだ。
「向こうはどうやら、殺る気まんまんというところか」
ヴェリンダは、ひゅーと口笛をふく。
「向こうもこっちを、認識したみたいねぇー。ロックオン、されてるよ」
ケンは、頷く。そして、暗号化通信回線をひらいた。
「ブラックソード機は、ホワイトファングを発見。これより、単独行動にてホワイトファングとの戦闘に入る」
一瞬小さなウインドウに、キルケゴールの顔が浮かんだ。
「了解、健闘を祈る」
ケンはキルケゴールの言葉に軽く頷くと、回線の接続先を自分の編隊に切り替えた。
「ブラックソード隊は、ここで解散だ。各機グスタフ隊長の隊と合流、以降グスタフ隊長の指示にしたがえ」
ブラックソード隊の隊員が、返答する。
「ラジャーです、隊長」
「御武運を、祈ります」
「どうか、ご無事で!」
ケンは、次々とウインドウに浮かぶ隊員たちに頷きを返す。
そしてケンの編隊は、機体を翻し近くのグスタフ隊へと合流していく。
それを見届けると、ケンはヴェリンダに声をかけた。
「いくぞ、ヴェリンダ。最大戦闘速度に、加速する」
夜明けの輝きを瞳に宿したフェアリーは、浮かれた声をあげる。
「おぅけぇぃ、ひぁうぃごぉぉぉぉおー!」
ケンが乗る特別にチューニングされた機体は、ハリケーンに巻き込まれたような勢いで加速される。まさに、操作をひとつ間違えば戦闘宙域から飛び出してしまうような加速であった。
ケンの身体を覆うジェルが手足への血流を制限したため、意識がブラックアウトすることは無かったが、ケンの視界は狭まり昏くなる。
それでも空の高みで獲物を視認する猛禽さながらに、ケンは白い機体のミリタリーモジュールを見据えていた。




