狂神に捧げる戦い 06-03
ケン・ブラックソードはハンガーデッキで、そのミリタリーモジュールを眺めている。
機体の装甲には、漆黒の塗装がなされている。夜の闇を切り裂く稲妻のように、金色のストライプがボディに描かれていた。
間違いなく、ケンが搭乗するための機体であった。
しかし、機体を見つめるケンの瞳には困惑の色がある。
見た目は、連邦のミリタリーモジュールに似ていた。シンプルな鋭角的デザインを多用した装甲板で形成された箱を、組み立てたような外見である。
しかし、そのミリタリーモジュールはそれをさらに無骨で荒削りにしたような印象を、見るものにあたえた。
ところどころ関節のアクチュエーターが剥き出しになっており、あたかも未完成品であるかのようだ。にもかかわらず、バトルスラスターユニットが装備されておりいつでも発進できる状態となっている。
「やあ、ケン・ブラックソード。あなたの新しい機体、気に入ってくれたかしら」
ケンは後ろから声をかけられ、振り向く。そこにはにこにこと上機嫌に笑うおさげの少女、サーシャがいた。驚いたことに、その後ろにはマリア・キルケゴールが冷たい笑みを浮かべながら立っている。
ケンは困惑した気持ちを声にのせ、サーシャに問いを発する。
「こいつはこの間の艦隊戦で、鹵獲した連邦の機体なんだろ」
サーシャは、嬉しそうにうなずく。
「そうよ。奇跡的に、無事だった機体なの」
ケンは、軽くため息をつく。
「見た目は、ヤクシャーサ・モデルみたいなんだが」
サーシャは、ふふっと笑う。
「うん、ヤクシャーサ・モデルのタイプ九九九になるわね」
ケンは、戸惑っているような表情でサーシャをみる。
「ヤクシャーサのタイプに九百番台なんて、ないだろ」
サーシャは、楽しそうに解説をはじめた。
「実験機には、九百番台をふることになってるのよ。完成に近づくと、数字が小さくなっていくわね」
ケンは、軽くうなり声をあげる。
「それでいくと、こいつは実験の真っ最中ってとこだよな」
サーシャは子猫のような笑みを浮かべて、ケンを見る。
「うん、運動性能は破格だけれどとてもピーキーな設定になってるから、ベテランパイロットでもこいつを操るのにはきっと手こずると思うわね。まあ、わたしがチューニングしておいたから、安心して乗るといいよ」
ケンは、少しほっとした顔になる。
「ああ、マイルドな設定にしてくれたわけだな」
サーシャは、びっくりした顔になる。
「まさか、あなたが乗る機体にそんなことするわけないじゃあない。もっと、ピーキーにしといたよ」
ケンは、目を剥いた。何か言おうとして、口を閉ざす。そして、眉間に皺をよせ考え込んだ。
キルケゴールが、そんなケンを見て口をひらく。
「ケン・ブラックソード。君にはこの機体で、連邦のネイムドパイロットを足止めしてもらおうと思っている」
ケンは、一瞬不思議そうな顔をした。
「ああ、あの純白に真紅のストライプが入ったやつだな」
ケンの言葉に、キルケゴールは頷く。
「ブラックソード隊長、君は選ぶことができる。この機体に乗るか、別の場で別の役割をこなすか」
目を見開くケンに、鋭い眼差しをキルケゴールは投げつける。
「正直に、言おう。連邦のネイムドパイロットは、君と差し違えるつもりでくる。君が生き延びる確率は、極めて低い」
ケンは、軽く笑い声をあげた。
「おれはこの機体に乗るつもりだが、ひとつ条件がある」
キルケゴールは、頷く。
「言ってみたまえ」
ケンは、薄く笑う。
「なあ、サーシャ。こいつは、マルチロール機にファイター装備を付けてるよな」
サーシャは、頷く。
「ドッグファイト仕様に、してあるよ」
ケンは、首を振る。
「おれの条件は、こいつのウェポンベイに対艦装備を積むことだ」
キルケゴールは、軽くため息をつく。
「君は対艦仕様で、ドッグファイトをするつもりなのか。お勧めしがたいな」
ケンは、皮肉な笑みを浮かべた。
「そもそもピーキーな設定をさらにピーキーにしておいて、よくいうな。それなら、普通のファイター専用機におれを乗せろよ」
「いいよ、判った。ウェポンベイに、対艦用パイルバンカー積んどいてあげる」
ようやく、ケンは機嫌よく笑う。
「たのんだぜ、サーシャ」
サーシャは、頷く。
「でも、ひとつわたしからお願いがある。この機体は、唯一無二の出来なのよ。絶対壊さないで、帰ってきてね」
キルケゴールはサーシャの言葉に呆れ顔となったが、ケンは真面目に頷く。
「あたりまえだ、今まで機体を損壊させて帰ったことがあるか? 当然、無傷で帰るさ」
キルケゴールは嬉しそうに頷くサーシャの隣で少し複雑な顔をしたが、すぐにもとの怜悧な表情に戻った。
「では、ケン・ブラックソード隊長。作戦行動前のブリーフィングを、行う。コマンドルームに来たまえ」
ケンは、キルケゴールに敬礼を投げる。
「受諾した、戦闘班長」




