聖愚者の旅立ち 04-02
「それにしても、フリードリッヒ艦長。あなたが、こんなに我が儘だとは思わなかったわ」
フリードリッヒの隣に浮かぶ、おんなのホログラム映像が語りかける。
フリードリッヒは、艦長席に座ったままおんなの映像に顔を向けた。
おんなは燃える太陽が放つフレアのように輝く金色の髪を、炎を思わせる形に逆立てている。
その顔は若き日の美貌を残してはいるが、額には無惨な十字型の傷跡があった。
「まあそういうなよ、クリス・ローゼンクロイツ艦長」
クリスは、真冬の空が宿ったように青い瞳を真っ直ぐフリードリッヒに向ける。
その額には、渦巻く炎のような薔薇の刺青があった。その薔薇を中心にして、十字の傷跡が黒く額に走る。
「シュレーゲル君の愚痴を、小一時間きかされたのよ。このわたしが」
フリードリッヒは、猛禽のように鋭い眼光に苦笑の色を混ぜた。
「ああ、すまなかった。しかしな」
フリードリッヒは、少し口を歪める。
「有能な若者は、はやい段階で実戦を指揮する経験を持つべきだとおれは判断した。それに」
フリードリッヒは、笑みを浮かべる。
「今回の責任は、全部ティーク執務官が被るからな」
クリスは、少しフリードリッヒを睨む。
「まるで負けるつもりのような言い草ね、フリードリッヒ艦長」
フリードリッヒは、ゆっくり首をふる。
「負ける気はないが、どの程度の損害におさまるか見当がつかない」
クリスは、目を細めた。
「あなたは、実際のところパルシファルをどう思っているの」
フリードリッヒは、少し物思いに沈む顔になる。
「おれは幾度も王族種が劣勢を挽回するところを、みてきた。それも、極めてでたらめなやり方でな。今回も、例外ではないとは思う。しかし、いくら何でも」
フリードリッヒは、そっとため息をついた。
「パルシファルは、でたらめすぎる」
クリスも深紅の薔薇に飾られた顔に、笑みを浮かべた。
「まあ船の名前が、聖なる愚者ですものねぇ」
その時、ブリッジオペレータが声をあげた。
「フライアから、連邦艦隊の位置情報と映像が送られてきました」
フリードリッヒは刃の鋭さを瞳に宿し、オペレータに指示する。
「スクリーンに投影しろ」
「投影します。本艦は、550秒後に連邦戦艦インドラクラスの射程にはいります」
ワルキューレクラス戦艦ロスヴァイゼのブリッジを覆う全天周型スクリーンに、インドラクラスの映像が映し出された。
鋼の槍のような戦艦は、三つの砲口をエネルギーで赤く輝かせている。既に、臨戦態勢というわけだ。
「では、わたしも自艦グリムゲルデの指揮にもどる。ロスヴァイゼの幸運を祈るわ、フリードリッヒ艦長」
クリスは、フリードリッヒに軽く手をふる。フリードリッヒは、少し会釈した。
「グリムゲルデの武運を祈る、クリス」
クリスは深紅の薔薇に彩られた顔にそっと笑みを浮かべると、かき消すように一瞬にして去る。
それと同時に、フリードリッヒはオペレータに向かって指示をだす。
「全艦、戦闘配置につけ。第一機動艦隊全艦に指示をだし、ランダム同期運動に入る。それと」
フリードリッヒは、少し目を細める。
「主砲をいつでも撃てるよう、準備しろ」
オペレータは頷く。
「第一機動艦隊各艦に、本艦のランダム運動に同期するよう通達をだします。それと、主砲を発射準備」
オペレータは、少し躊躇いながら口を開く。
「あの、砲撃準備はしますが。ランダム運動しながらは、撃てませんよ。シュレーゲル参謀の作戦プランにも、本艦からの攻撃はありませんが」
フリードリッヒは、薄く笑う。
「かまわん、撃てるようにだけしてくれればいい」
オペレータは、諦めたように頷いた。
「ラジャーです。メインビームシステムを待機状態から砲撃可能状態へ移行します」
フリードリッヒは、静かに頷いた。




