聖愚者の旅立ち 04-01
闇の中で砕かれ撒き散らされた宝石のように、無数に星が煌めく漆黒の海。その海に、小さな空中都市がごときコントロールデッキが浮かんでいる。
コントロールデッキの周囲に展開された全天周型スクリーンには星の海を背景として、万華鏡のように色とりどりに輝くサブウインドウが表示されていた。そこには次々と、艦隊の情報が表示されていく。
そして輝く光の要塞のようなコントロールデッキから放射状に突き出たリニアシートには、オペレータたちが十数人配置されている。それぞれのオペレータには、サポートAIのユーザインターフェースが付き添っているため結構な大人数がいるように見えた。
オペレータのひとりが、声をあげる。
「ブリュンヒルドからの返信を、入電しました」
コントロールデッキの中心に座った、若いおとこが応える。
「読み上げて、ください」
「本艦への祝福に深謝する。女神フライアとテラ艦隊の武運を祈る」
オペレータの読み上げた返信に、おとこは静かに頷く。
「浮かない顔だね、シュレーゲル参謀」
シュレーゲルのとなりに座る年嵩のおとこが、声をかけた。
はあ? という感じでシュレーゲルはそちらに目を向ける。
「あたりまえでしょう、ティーク執務官」
ティークは、少し驚いた顔でシュレーゲルを見たがシュレーゲルは冷徹な瞳を返す。
「全くなぜフライアのCIC(戦闘指揮所)にいるのがフリードリッヒ艦隊司令ではなく、一介の参謀官にすぎない僕なのか、全く納得いってないですよ」
ティークは、肩を竦める。
「わたしは総指揮官ではあるけれど、配置を決めたのはフリードリッヒ艦隊司令だからねえ。フリードリッヒ君は、ワルキューレクラスのロスヴァイゼに艦長として納まってるからなあ。連邦艦隊への切り込み隊長を、するつもりらしいね」
自らお飾りであることを認める発言に、流石にシュレーゲルは苦笑した。
「それにしてもあなた方年寄りは、なぜそろいもそろって皆死に急ぐんですか」
ティークは、微笑みを浮かべてシュレーゲルに応える。
「そりゃあ誰だって戦友を失うより、自分を失ったほうが気楽だからだよ。でも、わたしは生き延びるつもりだよ」
ほう、という顔をしてシュレーゲルはティークを見た。
「少なくとも、王陛下が帝都よりワクチンを持ち帰るのを見届けるまでは、生き延びるつもりだ」
シュレーゲルは、皮肉な笑みを浮かべる。
地下から掘りだした戦艦に乗って帝都からワクチンを持ち帰るなど、フェアリーテイルのようだと思う。
王族種はでたらめな存在と知ってはいるが、度を越している。
王陛下と肩を並べて戦った経験のある年寄りたちが王族種に持つ信頼は、絶対的なものであった。しかし、シュレーゲルにしてみれば信頼できるほどのデータは存在いないといわざるおえない。
とはいえ王を信じる年寄りの思いは信仰のようなものであるから、話し合っても無駄だと知っている。シュレーゲルは皮肉な笑みを浮かべつつも、沈黙は守った。そしてティークも、何も言わなかった。
「先行する索敵ドローンが、連邦艦隊の位置をとらえました。映像も、送られてきています」
シュレーゲルは、頷く。この先の宙域には、百以上の無人探索装置や無人戦闘モジュールがばらまかれていた。電磁的、光学的ジャミングに覆われた敵艦隊が、ようやくこちらの探索装置で把握できたようだ。
「スクリーンに情報を、出してください」
CICの全天周型スクリーン天頂付近に、天空から逆さ吊りにされた鋼の塔がごとき連邦艦隊が映し出される。既にスペースセイルは畳まれており、ガンメタルの塗装がされた巨大な鉄の神槍たちが天空に映されていた。
ジャミングの効果は完全に除去されておらず、時折映像が揺らいで消えそうになる。
「ほう、あれがインドラクラスか。ワルキューレクラスと違って三門の主砲を、備えているわけだな」
ティークが、暢気ともとれる呟きをした。シュレーゲルは苛立った眼差しを一瞬ティークに投げると、オペレータに問いを投げる。
「デコイの可能性は、ありますか?」
オペレータは、首を振った。
「センサーからの情報を解析した結果では、あれがダミーである可能性は低いです。かなりのエネルギー反応が、砲口から検出されています。あと、六百秒で敵艦の射程に入ります」
シュレーゲルは、頷いた。
「では、艦隊の全ての船にこの情報を展開し、戦闘態勢に入るよう指示を出してください。いいですよね、ティーク総指揮官」
シュレーゲルの向ける冷ややかな眼差しに、ティークは笑顔で応える。
「もちろん、全て君にまかせてるから。シュレーゲル参謀官」
シュレーゲルは、深くため息をつく。




