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地球よ、永遠に  作者: ヒルナギ


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33/97

戦場乙女の帰還 03-08

 アグネス・ルンゲ少尉は報告書を書き終え、ヴァーチャル・コンソールを閉じた。

 ブリュンヒルドは、十二時間の二交代制をとっている。近衛士官は別組織に属してはいるが、ブリュンヒルドと同様のシフトを組んでいた。

 アグネスのシフトが、終わろうとしている。

 アグネスは、ワークデスクに向かって座っているダーナ・ロキの傍らに立つ。

 ダーナは、頬杖をついてぼうっとしているようにみえた。

 船の中でこなすべき教育用カリキュラムに手が着いていないようだが、それは交代する同僚にまかせることにする。


「姫殿下、わたしのシフトは終わりです。クララ・キンスキー少尉と交代しますね」

「ん? ああ、そうね」


 ダーナは、こころここにあらずな風情であった。

 アグネスは、腕組みをする。


「それにしても姫様、いつもあほづらを晒していると思ってましたが、今のざまは酷すぎませんか?」

かなり不敬な言い草に、いつものダーナであれば言い返してくるはずである。


 しかし、ダーナは苦笑をかえしただけであった。


「んー、まあねぇ」


 ダーナは、視線を宙に彷徨わせたまま言葉をつなぐ。


「わたしってほら、王族だから結婚するにしても政略結婚ていうか政治の延長になるはずでさ」


 アグネスは予想外の言葉に目を剥いたが、ダーナはおかまいなく話し続ける。


「ま、そんなわたしでも十代の小娘だから、ひとなみにドキドキすることもあるのかな、なんて」


 アグネスは、ちっと舌打ちをした。


「ぬるい、なんとぬるいことを仰せですか、姫様」


 ダーナは、驚いたようにアグネスをみる。


「姫殿下、あなたは王族なのですから、欲しいものは戦ってねじ伏せて勝ち取るくらいの気概を持っていただかねば困ります。たとえ、それが恋であってもです」


 ダーナは、一瞬ぽかんとアグネスをみたが、すぐけらけらと笑った。


「ああ、そうだね、アグネス。そのとおりだわ」


 アグネスは、びしっと敬礼すると踵をかえす。

 扉の前に立った瞬間扉が開き、クララ・キンスキーが入ってくる。

 ふたりの近衛士官は、敬礼を交わす。


「二三○○時、アグネス・ルンゲ護衛任務を終了します」

「二三○○時、クララ・キンスキー護衛任務を開始します」


 アグネスとクララは、頷きあった。

 クララは、金髪を少年のように短くし、妖精のように華奢な体格をもつ女性士官である。

 しかし鋭い目つきと華奢な身体に似合わぬ機敏な動作から、敵には回したくない相手だと感じさせた。


「連邦のヴリトラクラスとの戦闘は、報告書に顛末を全部書いたから付け加えることはないわ」


 アグネスの言葉に、クララは頷く。


「それと姫殿下は少しお疲れのようだから、休ませてあげて」

「判った。あなたもゆっくり休むといい、アグネス・ルンゲ少尉」


 クララは、少し微笑む。

 冬空にかかる三日月のように冷めた美貌を持つ彼女も、笑みを浮かべると少し穏やかな空気を漂わす。

 アグネスは笑みをかえすと会釈して、部屋をでる。

 部屋を出たとたん、アグネスの瞳が険しくつり上がった。


(誰か知らないけれど、姫様に手を出したつけは払ってもらうわよ)


 そしてアグネスは、獲物を探す猟犬の足取りで廊下を歩いていった。


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