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Scene-4 ケット・シー


「さて、朝の続きなんだけど……どうせ理解わかってないよね。基礎知識は知っているとばかり思っていたから、多分説明不足になってると思う。一から話そうか」

 笹川は低いテーブルを挟んで貴志の向かいにゆっくり腰掛けた。

 テーブルには先程、笹川が淹れてくれたお茶があった。

「お願いします」

 貴志はまだ熱いお茶に手を伸ばしつつ、やや真剣な面持ちで言った。

「じゃあ、まずはエクソシストについて。っていうと悪魔のことから話さなきゃだね。悪魔っていうのは世間一般に言う悪魔と、多分同じだと思って良い。映画とか小説にもよく出てくるような、所謂化け物だよ」

 笹川が睨むように一瞬目を細めた。

 化け物だよ。

 その言葉が、やけに頭の中に残って反響する。

「エクソシストはそれを祓ったり、狩ったりするのが仕事。一応、国から給料は出るんだよ。微々たるものだけどね。本当に日本ってケチだよねー」

 笹川は先程の険しい顔が嘘みたいに、笑顔で冗談を言ってみたりする。

 貴志はその表情に少し安心しながら、一つの疑問点を挙げた。

「悪魔を祓うのと、狩るのは違うことなんですか?」

「基本的には一緒だ。ただその方法が違って、聖書や魔導書の詠唱か、物理的攻撃か。ちなみに前者を使うエクソシストの方が多いね、圧倒的に。まあ、その理由はそのうち授業でやると思うよ」

 授業。

 そんなことを学ぶ授業なんて、受ける予定など無かったのだが。

「授業…?えっと、十字学園はそんなことも教えるんですか?」

 笹川は苦笑して、優しい言葉づかいで教えてくれた。

「この、夜間科ではね。普通科ではそんなことしないよ。それに、そんなこと言っても信じない人が殆どだしね」

 貴志が実際にはあまり信じていないことに、笹川は気付いているのだろうか。

 普通の人間ならば、いきなりこんな話されても信じ難い。

「ニャー」

 隣でいきなり黒猫が鳴き声を上げた。

 貴志はその様子を見て、そう言えば、と思い出したことを口に出した。

「あの、この猫って…やっぱり普通の猫じゃないんですか?」

 ケット・シー

 一条家の使い魔

 確かそんなことを言われた気がするが、喋るのだからやはり普通ではないのだろう。

「え?そうだね。精霊とか言われているけど、実際は悪魔だよ。まあ、使い魔だから祓ったりする必要はないけれどね」

 笹川が言いにくそうにそう説明した。

 その黒猫を見つめながら。

「まったく、やんなっちゃうわ。下等悪魔たちとあたしを一緒にしないで欲しいわね」

 黒猫がそう言ってからそっぽを向いた。

 笹川はその様子を見て、

「あ、怒らせちゃったかな。上級のケット・シーはプライドも高いからね。一条家の使い魔ともなれば、超一流だし」

「あら、よく分かってるじゃない」

 黒猫は一気に身を翻して、いかにも偉そうに笹川を見据えた。

「この猫、一条家の使い魔ってことは…」

「そう、君の使い魔ってことになるかな。今現在、一条家の当主の席は空いているから。多分そのうち君の所に一条家の使いが行くと思うよ」

 貴志は黒猫をまじまじと見つめて、改めてこの黒猫との出会いが運命的であったと感じた。

 この猫と会わなければ貴志は西田とも会えなかったし、この猫が居なければ一条更紗の息子だとも気付かれなかった。

 たとえば今までの話が本当のことならば、これは運命的な偶然の出会いである。

「まあ、上級悪魔と言っても人とのコミュニケーションは取れないから?結局は使えない・・・・んだけどね」

 笹川が最大級の憎たらしさでその言葉を吐いた。と同時に黒猫はキシャーッと全身の毛を逆立てて「なんですってぇ!?」と笹川に敵意むき出しの臨戦態勢に入った。

 貴志は黒猫をなだめるように撫でながら、笹川に向かって言った。

「コミュニケーション取れないって、ちゃんと話すじゃないですか」

 笹川は一瞬呆気に取られた顔をしたが、すぐに何か思い当ったようでにっこりと笑い、

「まあ、ニャーニャー鳴いてはいるけどもね。人と話せなきゃ意味ないじゃないか」

 一条君も面白いこと言うねー、などと言っている。

 しかし貴志はその言葉に絶句した。

 だって貴志には聞こえているのだから。

「あら、あたし言わなかったかしら?」

 隣の黒猫があっけらかんと、そう言った。

 貴志はその事実に笹川の方をかえりみるが、その顔は平然として「どったの?」などと軽口を叩いている。

「えっ、あっとその……言葉、喋りますよね?コイツ、ちゃんと人間の……」

 ぽかーんと空いた笹川の口に、貴志は嵐の予感だった。


    * * * *


「とりあえず、君の寮あっちだから。うん、行けば分かると思う。荷物は既に搬入済みだし」

 半ば魂が抜けた状態の笹川が、そう言って校舎から貴志を見送った。

 貴志の「黒猫の声が聞こえる」と言う話は、笹川にとてつもなく大きなショックを与えたようだ。

 だが、そのことを考えていても「俺が変なのか」「まさか幻聴」と言う思考が頭の中をぐるぐるするだけだったので、とりあえず言われた寮に行ってみることにした。

 夜間科は全寮制なんだと、朝の話には聞いていた。

 だが荷物は既に搬入済みだ、と言う言葉にずっと貴志は引っかかっていた。

 何故なら貴志はこの寮に入る予定は無かったのだ。当然荷物の整理などもしていない。

 だが、そんなこと心配無用だった。

 貴志が校舎と同じく洋館のような寮に着いた時、そこには西田がいて、

「貴方の荷物、お宅から全て搬入させて頂きました。無論あのアパートは引き払っておきましたから」

 にこっと微笑みながら平然と言ってのけたのだ。

 お宅から全て搬入。

 と言うことは不法侵入では無いのだろうか?しかもアパートを引き払ってきたとなるとよもや犯罪ではないか?いや不法侵入も犯罪だけれども。

 貴志が何も言えずに突っ立っていると、横から黒猫がすり寄って来た。

「何か大事な思い出でもあったの?そのアパートに」

 別段無かった。だから黒猫にも「別に」と答え、足早に寮の建物の中へと入った。 


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