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Scene-3 一条家


 この状況下で、貴志はしかし何となく冷静でいられた。


「一条君?聞いていましたか?」

 西田がじっと貴志を見つめて尋ねた。

 その視線には何か物を言わせぬ威圧感があるように感じたが、貴志は少ない勇気を振り絞って言った。

「大体は、把握したと思い、ます…?」

 最後に疑問符が付いてしまったのは、まだその内容を信じていないからだ。

 だが西田は目ざとくその疑問符を指摘した。

「まだ、理解出来ていないようですね。まあ、初日から遅刻してくるような人がすぐに理解できるとも思っていませんでしたが」

 西田は見た目にそぐわず皮肉屋だ。

 言葉の節々に嫌味を感じるし、何より人を見下すような言い回しを使う。

「まーまー、会長さん。どんな人でも、理解に時間がかかるものでしょでしょ」

 そう言いながら西田をいさめているのは、さっき校舎から声をかけてきた男、笹川達矢だった。落ち着いた雰囲気とは違い、性格はとても明るくはきはきとしている。

 彼は教師らしいが、見た目がとても整っていてとても先生とは思えない。むしろどこぞのモデルさんですか、と尋ねてしまいそうなくらいだった。

「まったく、この冴えない少年があの一条更紗の息子だなんて……」

 まただ。また西田からその名前が出てきた。

 貴志だってそこまで馬鹿じゃない。いまいち理解していなくても、さっきの話の内容は何となく把握している。それがどういう意味だかも分かっているつもりだ。

 だが、西田が貴志の母を知っているはずがない。

 貴志の母は本当に平凡だった、と思う。子供心に綺麗な容姿をしているとは思ったし、友達からも羨ましがられたことがある。しかし、それだけだ。

 シングルマザーと言うことで、もちろん仕事はしていたが世間に顔を知られるようなものじゃなく、ただの会社員だった。

「あの、どうして母のことを知ってるんですか?」

 貴志はおずおずと尋ねてみた。実は一番気になっていたことだ。

 その言葉に二人は一瞬驚きを見せたが、次の瞬間には笑い始めていた。

「君、さっきまでの話聞いてたんでしょ?だったら察しようよ、ね?」

「貴方、やっぱり話が分かっていないようね。一から説明した方がよろしいかしら?」

 何やら馬鹿にされている貴志は、少しむくれて二人に抗議する。

「エクソシストとかバチカンとかの話に母は関係ないでしょう!?」

 貴志が少し語気を荒げたその言葉を聞いて、水を打ったように二人の笑いが止まった。

 その直後に西田は、さも信じられないと言うように貴志に質問してきた。

「貴方、ご自分のお母様の職業もご存じないの?」

「は?母は普通の会社員でしたけど?」

 会社員、と言う言葉を西田と笹川は反復し貴志に視線を向けた。

「じゃあ、一条更紗がエクソシスト…それも歴代最強と謳われた狩人ハンターだったことも知らない?」

「知りません。初耳です」

 貴志がそう答えると、二人はピシャアッ、と雷に打たれたように驚き、しばらくの間静止していた。

 そうしてから10秒…20秒…

 貴志の限界が訪れた。どうしてもこの沈黙に耐えられなかった。

「えっと、あの……」

 そんな貴志に構わず、二人は未だに静止している。

「だから、こんなに理解が遅かったのね……」

「そうだね。確かに僕もおかしいとは思っていたんだよ……」

 二人が沈黙の中から発した言葉は、とても小さな声で、貴志には聞こえていなかった。


    * * * *


 沈黙を破った後は、笹川に急かされながら教室へと向かった。

 西田は付いて来ることなく「それでは」と言って校舎から出て行った。

「えー、遅れてきた新入生の一条貴志君です」

 笹川が貴志をクラスに紹介した。十人弱…クラスにしては少なぎる生徒数だったが、それ用に教室もこじんまりとしている。

 笹川の言葉に先程の西田と笹川同様の沈黙が広がった。

「―――一条……」

 不意に誰かがそう呟いた。それを皮切りにクラスの人間が口々に、

「一条って…」

「あの一条家…」

「まさか一条更紗の…」

「どことなく更紗様に…」

 とざわめき始めた。もちろん貴志には理解しがたい状況だったが、笹川はその反応を当然予想していたのだろう。

「はいはい、皆さん。えー、ご察しの通り彼は一条更紗さんの息子さんです」

 笹川がそう言うと同時に、全員が貴志の方を向いた。

 何か言葉を待ち望んでいるように。

「……えっと、ハイ。一条更紗の息子です」

 その瞬間教室中がどよめきたった。

 貴志はその意味がいまいち掴めず、笹川に近付いて小声で尋ねた。

「何でみんなざわざわしてるんですか?」

「そりゃあ、あの有名な一条更紗の息子だからね。みんな興奮するだろう?それに君は一条家の跡取りってことになるからね」

 笹川がさも当然と言ったように答えたが、一条更紗が貴志にとっては母親以外の何物でもなく、ましてエクソシストだったなんて知らなかったのだから実感がわかない。それどころか、

「跡取り?一条家って、え?どういうことですか?」

「まあ、詳しいことは後で説明するから。とりあえず席着いて」

 そう促され、貴志は納得できないまま、理解できないままに空いてる席へ座った。

 貴志が一歩一歩進む所もじぃっと見られて、何だか少し変な気分だった。


    * * * *


 HRが終わり、貴志は笹川に呼び出された。

 他の生徒たちは少し残念そうに貴志を見送り、自分たちは下校の支度を始めていた。


「あの、もしかしなくても一条家って相当なお家ですか?」

 ソファに腰掛けながら、貴志は笹川に尋ねた。

 笹川に連れてこられた一室は職員室のようだが、他に人の姿は無く、何となく貴志は安堵した。

「んー、確かにやんごとなき家柄だね。もっとも、特にすごかったのは一条更紗だけど」

 やんごとなきの意味がよく分からなかったが、貴志は何となく理解した。

 すごいんだろうな、と。

「それと、跡取りって?」

「ああ、それはだって、一条更紗の一人息子なら一条家の跡取りだろ?更紗さんも一条家の一人娘だし」

 今まで知らなかったことが次々に展開されていく中で、貴志が理解できたのは果たしてどれくらいだろうか。

 答え。

 全くもって理解不能、だった。

 もちろん話を把握してはいる。内容は分かっているのだが、それが真実かどうか未だ判別不能だった。

「それに、そのケット・シーは一条家の使い魔だからね」

 笹川に指差されて初めて、自分の横にいるその存在に気が付いた。

 朝出会った、喋る黒猫だ。

 しかし貴志にはいつからこの猫がいたのか分からなかった。

 校舎に着くまでは確かに後ろを歩いていた。しかし貴志が教室に着いた時には、いなかったと思う。だが今はここにいる。

 全くもって存在のつかめない猫だと思った。

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