表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

Scene-1 遅刻魔

 祓魔師―――通称エクソシスト。


 それが職業として認められるようになったのは、今はもう昔のことである。

 認められると言っても、世間一般には公開されていない。

 世界各国のトップしか知らない最重要機密である。

 エクソシストとは、主に“悪魔”を退治する人間を指す。いや、それらを退治する人間たちが自らエクソシストを名乗ったのだ。

 もともと悪魔の存在が否定され続けていた世の中で、エクソシストたちは教会の司祭などをして祓魔の仕事をしていた。しかしそれだけでは世の中の悪魔を完全には祓えず、力を増した悪魔たちは更に人間に危害を加えるようになった。

 だからこそバチカンがエクソシストを世界に派遣する形で悪魔祓いをするようになったのだ。

 悪魔が見える人間はほんの一握りだし、祓魔の力を使えるのは更に限られた人数しかいない。

 だからこそバチカンは世界各国に祓魔協会の支部を置き、才ある人間にそのための教育を施すのである。

 世界の明日を願って。


     * * * *


 祓魔協会日本支部。もっともそれは世間に隠されたものだから、正式名称は聖・国立十字クロス学園。それは一般市民が通う普通科と、エクソシストを育成するための特別夜間科が存在する国立学校だった。特別夜間科はエクソシストとして世界を守る任を負い、それに敬意を表し“夜”とかけて騎士ナイトクラスと呼ばれる。一般生徒にはその存在は隠されていて、ある選ばれた生徒だけがその教室の扉を開くことができる。


     * * * *


「さて、どうするべきだろうか」

 桜もちょうど満開になり、それと同時に新しい学校生活への期待も膨らむ4月某日。時刻は10時を過ぎたころだろうか。ある少年が一人、聖・国立十字学園―――俗称は十字学園―――のしっかりと閉じられた正門の前に佇んでいた。

 その身を包むのは、細かい装飾に凝った十字学園の制服であり、そのネクタイが青いことから一年生であると分かる。つまりは本日、入学式が行われている十字学園の新入生である。

 少年がここにいるのには、深い理由が―――ある訳無かった。ただ単に寝坊したのだ。入学式の集合時間は9時。開式は10時。この少年は「入学式当日も寝坊した遅刻魔」のレッテルを貼られることになるのだ。

 本当だったらそれは避けたかった。遅刻なんか当たり前、授業をサボることなんかしょっちゅうだった中学時代とはけじめをつけるつもりだったのだ。

「……さて、どうするべきなのだろうか」

 少年は再度呟いた。

 しかしそれに答える者もなく、ただ満開の桜の花びらが少年の視界を横切っていくだけだった。

 途方に暮れた少年は、風に踊らされる黒髪を抑えて、空を見上げてみた。相変わらず良い天気だった。


「ニャー」

 空を見上げていた少年の耳に、猫のような鳴き声が聞こえてきた。いや、それはまさしく猫の鳴き声だった。

 その黒猫は、金色に輝く瞳でじっと少年を見つめていたが、不意にそっぽを向いて歩きだした。そしてしばらく歩いた後、一度少年を振り返りまた「ニャー」と鳴いたのだ。

「付いて来い、ってことか?」

 少年は怪しがりながらも、その猫に付いて行くことにした。どうせ門の前で待っていても埒があかないと薄々気づいていたからである。


     * * * *


「ほう。あの少年、リンに気付きましたね」

 学園の最上階の窓から外を眺めている男がそう呟いた。その声はどこか艶っぽく、その瞳は細められ、新しい玩具を見つけた子供の様に輝いていた。

 グレーのスーツを身に纏った男は、その腕に一匹の白猫を抱いていた。その猫が窓の外に見える少年を見つめながら「ミャア」と鳴き尻尾を揺らした。

「そうですか、ラン。あなたも気になりますか、あの少年が」

 男はランと呼んだ白猫に向かって話した。

「彼の名は、何と言うのでしょうねぇ」

 男は白猫を撫でながら、また窓の外に視線を戻した。しかしそこにさっきの少年の姿は無く、どこまでも広がる水色の空と、その中をゆらゆらと漂う桜の花びらが見えるだけだった。


     * * * *


 少年が辿り着いたのは、学校の裏門と思しきものの前だった。もちろんそれはしっかりと閉じられている。

「こっちも駄目、か。ここまで連れてきてくれてありがとう」

 案内してくれた黒猫を見て、一応お礼の言葉を述べた。無論相手は猫だし、助けられた訳でもないがふと口にしていた。

どういたしまして・・・・・・・・

 少年は目を瞠った。その場には少年と黒猫。それ以外の存在はなく、だからこそその声の主がどこにいるか周囲に視線を巡らせた。

 しかし周りには人のいる気配がしなかった。少年は空耳を疑うが、黒猫に恐る恐る視線を戻した。

 黒猫は少年をじっと見つめて大人しく座っていた。

「今喋ったのは、君か?」

 自分でも馬鹿らしいと思った。猫が喋るなど聞いたことがない。

 しかし予想に反して黒猫は話しかけてきた。少年の思考の中に。

「あら、あたしの声が聞こえるの?」

 その時ざぁっ、と一際強い風が吹き、桜の花びらが少年の視界を埋め尽くす位に空を舞った。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ