第28話 元良ミオとの共通点
「この広さに、中央で構えてる巨大な敵――オジサン。ここ、ボスの部屋だったりする?」
「少なくとも俺の経験上、ボスが大入道のダンジョンは見た事がないです。潮さんの見解はどうですか?」
「そうですね。お化け屋敷なら、がしゃどくろ、牛鬼、酒呑童子、九尾辺りがボス候補となります。大入道や土蜘蛛、大ムカデは、フロア内での強敵という立ち位置ですね」
「視聴者にも伝わる言い方をすれば、中ボスって奴です」
「残念。あれがボスなら、ボロ儲けだったのに」
「でも数が多いので気を抜かないでください。この部屋は異様に広いので、他にも中ボスクラスの敵が潜んでる可能性もあります」
そうこう話してるうちに、妖怪の大群が押し寄せてきた。
「炎刃 麁正!」
鏡さんが必殺技を叫ぶと、八匹の大蛇の形をした魔力が妖怪の大群に飛び掛かる。
おーおー、派手にやってんな。
「オジサンは、ああいう映える必殺技的なものは使えないの?」
「ご希望に添えなくて申し訳ありません。俺はどうも、魔力を外に出す才能がないようで」
「傘で物が斬れるのに、よくわからないわね」
「そういう華宮社長だって、必殺技ないですよね?」
「私はほら、か弱い女子高生の上に社長だもん。だから荒っぽい事は苦手なのよねー」
「二人ともー、真面目に戦ってくださいー」
ちゃんと戦ってるんだけどな。
そもそも2階の道中のモンスターがザコなので当然、拠点のモンスターもさほど変わらない。
だから体力と気力に余裕のある序盤は、こんなものだ。
ここから時間経過と共に体力と気力が削がれるにつれて、口数が少なくなる。
そうなってからが本番だ。
質はともかく、数だけで言えば、前に潜った鬼灯組のダンジョンのボス戦なんて非じゃない。
おまけに部屋の広さは、あの時の数倍はある。
……妖怪共を斬って、斬って、斬りまくっても、息つく間もなく次々と押し寄せてくる。
「天刃 群雲!!」
鏡さんが声を張り上げると、無数のザコ妖怪が一斉に細切れとなる。
あれからかなりの時間が経過してるが、鏡さんはまだまだ元気な模様。
俺は話す余裕はないけど、余力はある。
華宮社長と潮さんの表情には余裕がない。
そして、鏡さんを除く華宮不動産の面々も疲れが顔に出始めてる。
ザコは引っ切り無しだし、中ボスも大入道だけでなく土蜘蛛、大ムカデも出てきた。
救いなのは、フロアのレベルが低いおかげで難なく倒せたこと。
そうして、覚醒の時間切れが気にかかる頃合いまで戦い続けた結果、無事に拠点を制圧した。
「どうやら、この勝負――ボクの勝ちのようだね」
「そのようですね」
鏡さんのテンションは、勝者とは思えないほど冷静で、その顔には、納得がいかない、と書いてある。
正直、後半は勝負のことなんて頭から消えてたので勝ち負けよりも、誰一人の犠牲者を出す事なく乗り切ったことの方が嬉しい。
「ありがとうございます、根津さん! おかげで助かりました」
「申し訳ありません。まさか、ここまで長引くとは思わずに――」
一緒に戦い抜いた華宮不動産の面々が俺の元にやってきた。
「配信を意識するな、とは言いませんが、大群との戦いとなれば長期戦は必至。今後は、ペース配分も意識した方がいいですよ」
「仰る通りです。恥ずかしながら、こんなに長時間戦闘したの、初めてなものでして――」
「すみません、口うるさくて。まあ失点は、次に活かせばいいんです――今は、諦めずに最後まで戦い抜いた自分自身を褒めてあげてください」
「ハイ!」
「こうやって老害が生まれるのね」
「う゛ッ! そう思った矢先にツッコミを入れますか、華宮社長」
「それにしても、疲れたー! ここまでの長丁場、私のダンジョン事業で初めてよ」
「お疲れ様です」
「オジサンもお疲れ様――なにやら随分と気を回してくれたようだけど」
――ったく、色々と目ざといな、華宮社長は。
「潮さんは――って、大丈夫ですか!? 怪我ないですか!?」
「す、すみません。お恥ずかしいところを――安心したら、力がぬけちゃって」
「うーん、激闘の末、地面に横たわる美女は画になるわね」
「ユ、ユズ!? 撮らないでくださいよ」
さすがに元公安でも救護班だと、こういう戦いには慣れてないか。
「早く起きないと、垢バンスレスレの際どいアングルも攻めちゃうわよー」
「あーん、根津先輩、助けてくださーい」
「潮さん、手に掴まってください」
「――ちょッ!? オジサン!? サナとくっついてんじゃないわよ! セクハラとして処罰するわよ!」
「俺は何もしてませんよ!? だからパワハラは止めてください!」
『どけっ! せっかくいいところだったのに、邪魔すんじゃねえよオッサン!』
『戦闘以外、能無しの社会不適合者のくせに!』
『俺達の天使から離れろ!』
変態共は黙ってろ!
「やはり、どうしてもわからない。ボクと根津に、何の違いがあるのか――」
「あれだけ好き勝手に暴れたのに、物足りないんですか?」
「そこは心配に及ばない。カノンに送るカットは、十分撮れた。これでまた一つ、お兄ちゃんは強くてカッコいいことが証明されたわけだ」
イケメンっていいよな。
|手の施しようがないシスコン《あんなん》でも女性視聴者が離れないんだもん。
「こちらの事情はおいといてだ。ボクとオジサンの実力の差は、紙一重といっても過言ではない」
「おー、現役Sランクの前衛からのお墨付きを頂けるなんて、オジサン、感動で涙が出そうだ」
「故に、わからないんだ。鬼桜を抜ける者とそうでない者の差が――だから、どうにかしてオジサンを焚き付けて、その実力を間近で測ってはみたものの……余計にわからなくなった」
鏡さんは元々、鬼灯家の人間だから鬼桜に対して並々ならぬ想いがあるんだろうな。
俺に答えが分かるのなら、すぐにでも教えてあげたいところなんだけど……。
「このままでは、妹がボクの手から離れて、もっと遠い所に行ってしまいそうで不安なんだよ!」
答えってのは、人から教わるよりも、自分で探し出す方が本人のためだよな。
「ボクとオジサンの違いもそうだけど……元良さんとオジサンの共有点も分からずじまいだ」
「鏡……何で私のライバルの名前がそこに出てくるの?」
『あのクソガキ、私たちのお兄様を呼び捨てにするんじゃないわよ!』
『何様のつもりよ! コラボさせてもらっておいて、あの態度!』
『有名になったからって調子に乗ってんでしょ! あんなの、ちょっと若くて、ちょっと可愛いいだけのお子様じゃない』
「チッ……あいつの正体ばらしてやろうかしら」
弊社にとっては、コラボ相手がイケメンなのも考え物だな。
「……貴様が元良さんと肩を並べてるかどうかは疑問の余地しかないけど、彼女の名前を出したのは理由がある。それは、彼女もまた鬼桜を抜いたからさ。オジサンよりも前にね」
「へえ、それならオジサンじゃなくて、元良ミオと結婚すればいいのに――」
これも多様性の時代という奴か。
「オジサン……元良さんとの共通点でピンと来るものはないかな?」
「ホモ・サピエンス」
「……何を言ってるんだい?」
「いやだからさ、ほら人類は皆兄弟っていうだろ? だって、俺と彼女なんて、世代も性別もスキルも、どれをとってもかけ離れてるし――」
「まさか、オジサンが人間として扱ってもらえると思ってるの?」
「……へ?」
「いいかい? この世界はとてもシビアでね。『オジサン』という存在そのものが罪なんだよ」
オジサンも多様性の仲間に入れてほしいなぁ。
「男子たるもの、オジサンにならぬよう日々研鑽を積む必要があるんだ」
「無理あるだろ。誰だって年食うし――」
「ボディメイクにスキンケア、それに職場での地位の向上に家族関係の構築……どれひとつ怠っても、社会から居場所を奪われる悲しき生き物なんだよ。オジサンという種は――」
今日日、殺人犯にだって人権くらいはあるのに。
「そういうわけで、オジサンと元良さんという鬼桜を抜いた者の共通点は、未だ闇の中ということさ」
それっぽく、まとめてるのが何か腹立つな。
「今日は長期戦で消耗したし、この辺で切り上げよう。アジトを一つ潰したから、成果も申し分ないしね。――華宮エステートの皆様はどうですか?」
「異論ないわ」
「賢明な判断に感謝します」
帰還が決定したことで、パーティー内の空気が穏やかになる。
「華宮社長」
「何?」
「華宮社長から見て、元良ミオと俺に、共通点があると思いますか?」
「あるわけないでしょ。私と同時期にデビューした同年代の現役女子高生なんだから」
「ですよねー」
でも、ここまでハッキリと言われると、かえって気持ちの整理がつくというもの。
鏡さんは、俺と彼女から共通点を見出そうと画策してたけど、どう考えても1億人中1億人が人類以外で共通点は無い、と答えるに違いない。




