第27話 必殺技は叫んでから使うもの
2階の探索は順調だ。
道中のモンスターは、ネコマタ、ろくろ首、一本ダタラ、一反木綿、鎌鼬、雷獣とランクの低い妖怪が目立つので、ビニール傘でも余裕で対処できる。
むしろ傘のお化けである『から傘小僧』を斬った時に、同族殺しだの共食いだの悪口を書かれた時の方がダメージが大きいくらいだ。
トラップは、華宮社長の目と華宮エステートのメンバーが事前に検知するので問題ではない。
パーティのバランスも丁度良く、遠近どちらも対応可能。
この調子なら、今日は何事もなく終わりそうだ。
「根津さん、本当に傘でモンスターを斬っちゃうんですね」
何度目かの戦闘が終わり、一息ついたところでパーティメンバーに声をかけられた。
「配信で散々、披露してるんだけど」
「いや正直に言いますと、この目で見るまで半信半疑でした。今の時代、AIで簡単に加工できちゃいますので」
「まあ俺自身、傘で斬る事に執着してないので、いいんですけどね」
俺の唯一無二の個性である『傘で物を斬る』行為自体、ネット上では意見が二分しており、否の方は彼が言った通り『AIの台頭でライブ配信の映像ですら加工が出来る時代』なので、バズ狙いの演出に見られてること。
尚、賛については『バズ狙いで傘を選ぶバカがいるわけがない』が圧倒的多数なので、結局のところ、ネットにはオジサンの味方は居ない。
「それにしても、よくそこまでオリジンを鍛え上げましたね」
「オ、オリジン? えっと、斬鉄剣が?」
「オリジンをご存じないんですか!? いい年してダンジョン探索してるのに!?」
「恥ずかしながら――」
だって、つい数か月前に目覚めたんだもん。
「数年前、ダンジョン探索の開始と共に魔力の存在も明かされたんです」
「魔力は、俺達の力の源だからな」
「それで原点というのは、魔力の系統を示す5つのスキルの事を指します。装備品を魔力で強化する『魔装』はその中の一つです」
「そうなんだ。ちょっと横文字が苦手な年頃だし――いや、あのう」
華宮不動産の面々が露骨にドン引きしてる。
「詳細は、組合が管理してるダンジョン攻略ウィキにリンクありますので、時間がある時に一読してみてください」
「ここまで物を知らないのに、何でダンジョンの攻略はハイレベルなんだろ」
「もはやバグレベルですよ。傘で、ボスでも何でもねじ伏せるなんて、もはやダンジョンの申し子と言っても過言ではありませんよ」
何だよダンジョンの申し子って、いくら俺が天涯孤独でも人間の両親から生まれたんだぞ。
遺伝子検査で裏付けもとれてるから間違いないもん。
「普通は本人の魔力適正、才能、特技なんかをいくつも掛け合わせて、バリエーションを持たせるんです。俗にいう必殺技という奴です」
「あんたら、絶叫しながらモンスターをぶっ倒してたアレか」
個人勢から大手の企業勢まで例外なく、ゲームやアニメのように技名を口走ったり、中二病も恐れおののく詠唱を唱えてる探索者をかなりの割合で見かけた。
真似したいとは微塵も思わなかったけど。
公安時代に培った常識とは真逆だし、こう見えて人並みに羞恥心があるので、どうしても抵抗がある。
それに俺の場合、身体能力を少し強化するのと斬鉄剣くらいしか出来ないしな。
「根津さん、大声で叫んで攻撃するのって気持ちいいですよ!」
「ゴメン、どうしても、そんな気分になれない。悪いけどオジサンは、若い子の流行りについていけないようだ」
「絶叫しながら必殺技を繰り出す! 男の子なら誰でも一度は憧れるシチュエーションじゃないですか! それに音声をカメラに登録しておけば、AIが戦況を解析して、もっとも映える構図で撮ってくれますし」
「傘でも映える構図撮れるのかな」
「――っ、でも、せっかくの仮想空間という建て付けですから、悩むくらいなら思い切ってやってみた方が楽しいですよ! ストレスの解消にもなりますし」
「考えておくよ。適当に、アヴァンストラッシュとか家凸にBAN解とかさ」
口ではああ言ったもの、とてもじゃないが俺にとってダンジョンは、公安時代のシビアな戦闘の記憶が多くを占めてるので、そんな気分にはなれない。
それからも探索は続いた。
バトルの調子も相変わらずで、俺は寡黙に淡々とこなし、華宮不動産の方々は必殺技を叫び散らかしている。
賑やかしには丁度良いかな、と思い、彼らの戦い方に慣れた頃――先頭を歩く鏡さんが止まった。
何事かと思い、目を向けると障子――妖怪フロアにおける扉があった。
「この障子の先を探ってくれないか?」
鏡さんが同じパーティの女性に声をかける。
女性は「わかりました」と二つ返事すると、障子の前に立ち、目を閉じた。
気配でも探ってるのだろうか。
「華宮社長、障子の先にあるものが見えたりしますか?」
「透視は無理よ。こう見えて、私だって人間なんだし」
赤外線が見えるくせに。
「アキラさん、この先は物凄く広い空間に、モンスターの気配も多数あります。おそらくアジトと思われます」
アジトと報告を受けた鏡さんが、俺を見ながらニヤリと口角を上げた。
「根津さんとの決着をどうつけようか苦悩してたけど、良い方法が見つかった――この先の部屋にいるモンスターを倒しスコアが多い方が勝ち、というのはどうかな?」
「根津先輩、彼のいう『アジト』というのは、私共で言うところの『拠点』のです」
フォローのつもりなのか、潮さんが俺に耳打ちをする。
「受けて立つわ、鏡! ということで後は頼んだわよオジサン」
俺が返答しようと思った矢先、華宮社長が意気揚々と返事をした。
色々と手間が省けたので良しとしよう。
「お聞きの通り、業務命令が出ましたので受けて立ちます」
「カウントは、パーティリーダーであるボクが設定しておきました。この部屋のスコアは、これまでのスコアとは別にカウントするから安心してください」
「そういう機能があるんですね。助かります」
「お年寄りは電子機器が苦手なのが相場ですからね。後で文句を言われても困るし」
「スコアのカウントは情報収集の延長線だから、不正の入り込む余地が無いわよ」
「別にどっちでもいいんですけどね」
「ちなみに武器は、ビニール傘でお願いね。何せ期待の新星とSランク探索者の対決カードだもの。お互いの個性をぶつけないと盛り上がらないわ」
「……せいぜい頑張ります」
「根津先輩、ファイトです!」
「話がついたところで、早速開けるよ」
鏡さんが勢いよく障子を開けた。
先陣を切る鏡さんについていくように、部屋に入る。
そこは、ダンジョンというよりも広場。
天井も壁も見えない、只管だだっ広い空間。
ダンジョンの内部にある部屋は、別の空間に繋がってると言われるくらい、扉の外から見た構造と内部の構造は全く異なる。
そもそもダンジョンの存在自体は超常現象なので今更なのだが……問題はこの部屋に出てくるモンスター。
「さっそく、お出ましか」
暗闇で輝く二つの眼に、ボロ布をまとった巨人――大入道がデンと構えてる。
おまけに、無数のザコ妖怪もひしめいてる。




