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第26話 コラボ配信

 そんなこんなで始業時間になったので、ダンジョンに潜る。


 現在の進捗状況は、1階は約3割だけど2階への階段は発見済みで、2階は階段付近を少しマッピングした程度。


 そして俺達の担当は、2階北西部。


 1階入口から2階への階段まで、寄り道せずに歩いただけでも30分かかった。


 道中、鏡さんのモチベーションが懸念だったものの、仕事は真面目に取り組む性分なのか、配信が始まるとSランクの鏡アキラに戻ったので、杞憂に終わった。


「へえー、噂には聞いてたけど、本当にあるんだな。階層ごとに特色が変わるダンジョンって」


 鏡さんをはじめとする華宮不動産の面々が不思議そうに頭を振る。


 2階に広がる光景は、まるでお化け屋敷のような、暗くおどろおどろしい雰囲気の風景。


 つまり、妖怪の類が出現する階層ということだ。


 ちなみに1階は、如何にもザ・ダンジョンという階層で、出てくるモンスターもゴブリンやコボルド、オーガなどの幻想系。


「階層ごとに、世界が変わるとなると対策が面倒ね。――報酬も参加人数も、今までの案件と桁が違うのも、うなずけるわ」


 華宮社長も初めての体験なのか、目を大きくしてる。


「オジサンとサナは、慣れてるって顔してるわね」


「まあ、ね」


「ええ」


「こういう時、経験者がいるのは心強いわね」


 華宮社長のいう通り、経験済みではあるが正直いって気分の良いものじゃない。


 10年前――公安時代の、最後の任務も階層ごとに世界観が変化するダンジョンだった。


「ちょっと、二人ともどうしたの? そんな深刻そうな顔して――」


「ん? ちょっと昔を思い出してただけです」


「そんなに、ヤバイダンジョンなの?」


「そうじゃないことを祈ります。そもそも10年前とは別の場所にあるダンジョンだから、先に進んでみないとわからないですし――」


「そうね。ヤバかったら、降りればいいしね。今の私達なら、無理して危ない橋を渡ることもないし、頼みの綱であるオジサンとサナを失うくらいなら撤退するからね」


「お気遣い感謝します、華宮社長」


「ありがとう、ユズ」


「それにしても暗いわね、このフロア」


「こういう時、華宮社長の目が頼りなんでお願いしますよ。こう足元が悪いと歩くのも苦労しますからね」


「といっても、今は覚醒してないから、私もほとんど見えてないけどね」


 1階のモンスターは、華宮不動産(あっち)が全て引き受けてくれたので、俺達はまだ覚醒してない。


「ユズ、根津先輩。このくらいならカメラの明かりで、どうにかなりそうですよ」


「この浮遊物体、懐中電灯の代わりにもなるんですね。技術革新、大いに助かります」


 そしてカメラの明かりを頼りに、薄暗いダンジョンを歩き、分岐点に到着し、未踏のエリアに踏み出す時がきた。


「各員、少し早いが薬の摂取を――」


 鏡さんが自社のメンバーに向けて言った。


「サナ、オジサン。ここからは私達も働くわよ。――ということで、いつもの」


 華宮社長と潮さんがカメラの画角におさまる位置取りをしてから、薬用リップを塗りはじめた。


 いつものように、二人を称賛するコメントが殺到する。


 特に有名になってからは、挨拶コメントにスパチャも混じるようになってきており、二人は薬を摂取した後もカメラに向かって笑顔と感謝の挨拶に追われるようになった。


 ちなみにこういう時の俺は蚊帳の外である。


 これまで色々と試したけど、我が社の視聴者層に中年男性の身支度シーンの需要は皆無ということが判明したので、画面外で軟膏タイプの撃薬を適当に塗った。


 試行錯誤してる時は色々思うところはあったけど、俺の本分は戦闘なので、気にするのを止めた。


 ちなみに華宮不動産(あっち)の身支度シーンは、鏡さんが担当しており、他の方は俺と同様に画面外で薬を摂取してる。


「華宮社長、今日は武器のリクエストありますか?」


「無いから、いつものビニール傘でお願い。刀はちゃんと持ってきてるから、ヤバくなったら言ってね」


「わかりました。しかし、こうも傘が続くと視聴者に何か言われそうですね」


「日用品でモンスターを斬り伏せる画は、想像以上にスポンサーがつかないのよね」


「でしょうね。そもそも本来の用途と違いますし――」


「だから、この前、特撮ヒーローのオモチャ製造会社に営業かけてみたのよ。ほら、悪者をやっつけるから、丁度良いかなって。でも断られちゃったのよ。子供が真似したら危ないから、って


「でしょうね。子供がオモチャ握りしめて、意気揚々とダンジョンに潜ったら大惨事ですからね」


「やっぱり、ちゃんとした武器を作ってる会社に営業かけるしかないのかな」


「そもそも何で日用品やオモチャにこだわるんですか? 俺は普通の武器を使いたいんですが――」


「金のあるところに営業をかけるのが商売の常道だからに決まってるじゃない。芸能人がCM出るだけで億が動くんだし、その僅かでも頂戴できればなーって思うのは普通じゃない? あーあ、大口のスポンサーが欲しいなぁ」


「まあ、俺が武器を振り回してモンスターを倒しても、犯罪の温床にしかなりませんからね」


「今度は映像会社に飛び込んで、映画の宣伝という体で営業をかけてみようかしら」


 ほんと商魂たくましいな。


「ご歓談中のところ申し訳ありません。華宮エステートの皆様、準備はいいですか?」


 配信モードの鏡さんが催促に、華宮社長は「ええ、結構よ」と短く返す。


 こうして、お互いの準備が終わり、未踏のエリアに足を踏み入れた。

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