第24話 鬼灯カノンの実兄
「でも、あんたは若いのに良い腕をしてる。たかが刀一本で気を落とすことはないだろう」
「――気に入らないんですよ。ボクが鬼桜を抜けなかったことじゃない。視聴者が、うるさくてね。それこそ刀一本で『ボクがあなたより弱い』だの『刀も扱えないザコ』呼ばわりされるのが腹立たしいんです」
そういや、うちの配信でも、俺が他の配信者より強いだの弱いだので、不毛な争いをする視聴者を見かけるようになったな。
みんな強くていいじゃないか。
「他にも、前衛としての強さはオジサンに遠く及ばない、若いのに中年より鈍い、華宮不動産は終わった、華宮不動産の宮本武蔵(笑)は弱いから即刻クビにしろ、等々バリエーション豊富な誹謗中傷に晒される毎日ですよ」
「開示請求でもすればいいんじゃね?」
「しかし、何より一番許せないのが あなたが鬼灯組の婿養子になることだ!」
「ならないよ!? 俺はちゃんと断ったし!」
「ボクの可愛い可愛いカノンが、いい年して傘を振り回すオメデタイ中年クソジジィと結婚するなんて、たとえ神が許しても、お兄ちゃんが許さないぞ!」
鏡さんは、血涙を流しながら台パンしてる。
この人、配信外だとこんな調子なのか。
いや、そんなことよりも……お兄ちゃん?
「――でも、あなたの名前はカガミですよね?」
「オジサン……その人ね、カノンの実の兄よ。苗字違うけど」
「その点は、立ち入ったらヤバイ奴ですか? 闇深案件って奴?」
「ううん、そんな深刻な話じゃないわ。ただ単にカノンと違って、あの人は鬼桜が抜けなかったから跡目相続権を失くしたの。その証として、苗字を変えたの」
「それ普通の人なら大問題では? 家から追い出されたようなものだろうし――」
「大丈夫よ。『鬼灯組の組長になれない』ってだけで、別に兄妹仲は極めて良好? だし」
「まあボクは、妹が健やかに生きていけるなら、家業なんてどうでもいい。仮にボクが鬼桜を抜いたとしても、妹が望むなら跡目を譲るくらい何てことはないさ」
とりあえず立ち直ったようで何よりだ。
「ボクの事は、この際どうでもいい。ボクは、カノンの実の兄として、記憶力が覚束無い中年ボケジジィに言いたいことがある!」
いちいち『実の兄』って強調するなよ、気色悪いな。
「貴様! よくもボクの可愛い可愛い妹に触れたな」
「……何の事だ?」
「忘れたとは言わせないぞ! お前達の会社が有名になった件のボス討伐の動画での1シーン。押し寄せる機械の軍勢を相手取るため、貴様と妹が背中を預け合ったことだ!」
「多勢の無勢だから、ああいう陣形になるのは仕方ないかと――でも、それだけで他意はない」
「どこの馬の骨とも知れない中年スケベジジィとうら若き乙女である妹が、背中とはいえ密着することに、兄として危機感を抱くのは当然だろう」
ごもっともすぎて何も言えねえな……あんなんでも。
「実の兄であるボクですら、やったことがないんだぞ! クソが!」
ごもっともすぎて何も言えねえな……あんなんだと。
「いいか? ハッキリいってボクは、『お前より強い』という自負がある」
「でしょうね」
実際、動画で見る限りでは、鏡さんの強さは本物だ。
もしかすると俺より強いんじゃね? とすら思うほどの剣技だ。
「つまり妹の背中を守るのは、ボクの方が相応しいということさ」
きっと俺よりキモイから、背中を預けてくれないんだろうな。
「だから今日は徹底的に、あなたとの格の差を視聴者に、そして我が愛する妹に見せつけるつもりです」
鏡さんの目つきが刃物のように鋭くなる。
「おいおい、今にも人を殺しかねない顔をしてるじゃないか」
「本音を言えば、ボクの手で殺せるものなら、この手であなたを殺したいです」
「止めろ。元暴力団が言うと洒落に聞こえない」
「だが、それではカノンが悲しむ。それは本意じゃない。だからあなたよりボクの方が若く強くてカッコいいところを見せて、貴様からカノンを引きはがす」
「いちいち『若さ』を強調するな! オジサン、悲しくて泣いちゃうぞ!」
「そして、あわよくばボクとカノンがそのままゴールインなんてことも――ムフフフフ」
おいおい、鏡さんとこのパーティメンバーがドン引きしてるじゃねえか。
「その人の言う事は、話し半分で聞き流すことをオススメするわ」
「華宮社長。親友の兄に対して辛辣ですね」
「今にわかるわよ」
「そういう事にしてきます――それで鏡さん、勝負の方法はどうします?」
ちなみに探索者同士の決闘はご法度で、禁を犯した者にはボランティア団体から制裁が下される。
だからダンジョン配信には『探索者同士の争いを防ぐという側面がある』という話を聞いて、配信に感心したのを覚えてる。
「ボクと貴様のサシで『どちらがより多くの成果をあげるか』です」
「華宮社長、いかがいたしますか?」
「受けちゃっていいわよ。私達にデメリットないから。負けたら年のせいにするし、オジサンが買ったら、ひひひ――」
「ユズ、訴訟されないようにしてくださいね」
「――だそうだ、鏡さん。まあ健全な競争なら構わないが、あまり無茶すんなよ。今日のダンジョン。話によると、めちゃくちゃ広いんだろ」
「ボクのことより、カノンが心変わりすることを心配なされたら、どうですか?」
「お気遣いどうも」
原則ダンジョン探索は1パーティのみだが、今回のように大企業が金にものを言わせてダンジョンの攻略順と時間を長期に渡って占有してる場合、その大企業が有志を募り、複数のパーティが同時に探索することがある。
特に広大で複雑な構造だとパーティの数が少ないと攻略に時間がかかってしまうので、複数のパーティに同時に攻略させて、踏破率、モンスターの情報、罠の配置場所などダンジョンに絡む情報の成果に応じて報酬を支払われる。
だから、情報の収集率という優劣をつける指標を元に、因縁のあるパーティ間、企業間で勝負事になるケースが多々あり、個人間なら賭け事にまで発展することも珍しくない。
「そういうわけで今日の勝負、どっちがよい多くの成果をあげるか――そして、どっちがカノンに相応しいのか! 楽しみですよ」




