↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/32

第23話 ライバル企業との再会

 車でゆられること約2時間。


 俺達は無事、クライアント兼今日の現場の工場に到着した。


 ちなみに工場見学ではなく、工場のある敷地内に出来たダンジョンが今日の現場なのだ。


 車を降りて、建物に入り受付を済ませてから、集合場所の会議室に向かう。


 会議室は、記者会見が出来そうなほどの広さがあり、既に数十名の先客がいた。


 動画で拝見した人もいれば、過去に組んで仕事したことがある人の姿がある。


 その内の半数くらいが一斉に、俺達に目を向ける。


 羨望、信頼、安心――彼らの表情と視線の大半は、俺達のことを歓迎してるようだ。


「私達もようやく中堅って感じがしてきたわね」


 周囲の視線を意に介さず、会議室を歩く華宮社長が話を振る。


「そうですね。私共は、今のところ引き受けた案件は確実にこなしておりますから、ダンジョン事業者としては準大手といっても差し支えないかと――」


「ダンジョン界隈はあまり詳しくないですが、同業者が俺達のことを認めてくれてるのは、実感してます」


「最初の案件は酷かったからねー」


「拒絶ムードのほぼ不審者扱いでしたからね。――ったく、同じ案件の仕事仲間だってのに邪険に扱いやがって」


「まあまあ先輩。もう過ぎたことはいいじゃないですか」


「そうですね」


 今でこそ俺達のことを敵視する同業者は大分減ったけど、実績を認められるまで、面倒な輩をあしらうのにリソースを取られてたからな。


 何かと突っかかってくるバカがいたり、俺達のせいで取り分が減ると考えてた連中なんて、探索中につまらない小細工を仕掛けてきたこともあった。


 ただダンジョンとは良くも悪くも過酷なのは、今も変わらない。


 おかげで、そういう連中は企業間で悪評が広まり、いつの間にか顔を合わせることはなくなった。


 空いた席を見つけて、三人横並びに座る。


 今やすっかり俺のトレードマークになってしまったビニール傘は、適当に床に寝かせてっと――。


「それにしても、こんなにデカい工場を持ってる会社なら、自社で専門部署を用意すればよさそうなのに、わざわざ俺達に頼むんですかね」


「有名な大手企業だからこそ専門部署が無いのよ」


「華宮社長、どういう意味ですか?」


「大手だからこそ多数の行方不明者が出たら大騒ぎなるからよ」


「マスコミ対策ですか」


「おかげで、こうして仕事にありつけるわけだけどね」


「お久しぶりですね、華宮エステートの皆様方」


 右隣から聞き覚えのある男性の声がした。


 声の主に目を見やると、そこには見覚えのある若い男性の姿があった。


「あのー、根津さん? ボクが誰か覚えてないですか?」


「――? 誰だったかな。いや悪気は無いんだよ? ちゃんと顔も声も覚えてるし、俺がキーストーン切った日に鉢合わせた、いけ好かない若造というくらいは覚えてるから」


「大分、人生が楽しそうな記憶力みたいですね」


 うーん、いかん、いかん。


 昔はこうじゃなかったはずなのに……これも加齢のせいなのか?


「オジサン、そんな奴、忘れても構わないわよ」


「それは、いくら何でも失礼ですよ華宮社長」


「失礼って、さっき『いけ好かない』って言ってたくせに」


「ほら、相手は俺の事を知ってるのに、俺が相手の名前を忘れるなんて――ねぇ」


「オジサン、人間は何で物忘れをするか知ってる? 世知辛い人生を生き抜くために、必要がない事は忘れるように出来てるからよ」


「奇遇だね。ボクも華宮ユズハ(きみ)の事を忘れてたよ」


「そんなところ張り合って、どうすんのよ」


「根津先輩、あの人の名前は、か――」


「待って、潮さん! 今、ちゃんと思い出すから! ほら、ここで思い出さなかったら相手に悪いし、何より歳のせいで物忘れが激しくなったなんて、自分で自分が許せないんです!」


「加齢に伴う記憶力の低下は、人間として自然な老化現象ですよ?」


「老化とか言わないで!? 確かに俺はオジサンだけど、そこまでオジサンじゃないはず!」


「言葉の意味はわかりませんが、何を言いたいのかは何となく察します」


「ありがとう、潮さん! ――ということで、そこの将来有望そうな若者よ。俺が名前を思い出すまで、もうしばらく付き合ってくれ」


「……は、はぁ」


「大丈夫だって! 俺がキーストーン切った翌日に、参考のために君の動画を見た事はあるんだから」


「そこまでしておいて、忘れてしまう不安定な記憶力に何をアテにしろと?」


「か、か――かがみん! そうだ、かがみんだ! あー、よかった。スッキリした。悪かったね、かがみん。思い出すのに時間かかっちゃって――」


「鏡(かがみ)アキラ! その呼び方をしていいのは、鬼灯組の親分だけです」


「……そ、そうだそうだ! 宮本武蔵の再来と呼ばれてる二刀流の使い手の鏡(かがみ)アキラ! どう? 華宮社長、潮さん! 俺の記憶力もまだまだ捨てたものじゃないでしょ?」


「いいんじゃない? どうでも――オジサンに求めてるのは記憶力じゃなくて、戦闘力だし」


「と、年相応の記憶力は、お持ちかなー? と思います」


「ボク、もう少し配信で自分の名前を伝えた方がいいのかな……高齢者向けに」


「ゴメンゴメン、鏡さん。手間を取らせちゃったね」


「ええ、仕事の前だと言うのに、疲れましたよ。年は取りたくないものですね」


「同感だ。でも恐ろしい事に、寝てようが起きてようが生きてる限り、人は年を取るように出来てる。諦めるんだな」


 視線を鏡さんの奥に向けてから、ざっと見渡す。


「鏡さん、今日はあの子はいないの? ほら魔法少女のコスプレしてる魔法使いのあの子」


「元良(もとら)くんの事でしたら、今日はいませんよ。ボクたち2人が出張(でば)る現場なんて、そうそうありませんから」


「ふーん」


 確かにアーカイブを見る限りでは、鏡さんと元良さんがパーティを組んでる配信は、業歴の割に少ない。


 人材不足なのも頷ける。


「もしかして、元良(かのじょ)の事、気になってましたか? もしよかったら紹介しましょうか?」


「何で食い気味なんですか――俺はただ居てくれたら仕事が楽になったのに、とは思っただけ。動画でも見たけど、彼女の強さは半端じゃない。鏡さんもそうだけど、若いのに大したもんだよ」


「強さで言うなら、根津さんも相当じゃないですか」


「他所の会社の人間に、ゴマすりしても何も出ませんよ」


「事実を言ったまでです。鳴かず飛ばすだった華宮お嬢様の会社に、無名だった根津さんが入社してからは、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、ダンジョン界隈では一躍有名企業の仲間入りを果たす。大したものですよ」


「別に俺一人だけの力じゃないさ」


「それだけじゃない。――あなたは、あの鬼桜を抜いた」


 鏡さんの目つきが異様に鋭くなる。


 予想だにしなかった雰囲気に背筋が冷たくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。