第23話 ライバル企業との再会
車でゆられること約2時間。
俺達は無事、クライアント兼今日の現場の工場に到着した。
ちなみに工場見学ではなく、工場のある敷地内に出来たダンジョンが今日の現場なのだ。
車を降りて、建物に入り受付を済ませてから、集合場所の会議室に向かう。
会議室は、記者会見が出来そうなほどの広さがあり、既に数十名の先客がいた。
動画で拝見した人もいれば、過去に組んで仕事したことがある人の姿がある。
その内の半数くらいが一斉に、俺達に目を向ける。
羨望、信頼、安心――彼らの表情と視線の大半は、俺達のことを歓迎してるようだ。
「私達もようやく中堅って感じがしてきたわね」
周囲の視線を意に介さず、会議室を歩く華宮社長が話を振る。
「そうですね。私共は、今のところ引き受けた案件は確実にこなしておりますから、ダンジョン事業者としては準大手といっても差し支えないかと――」
「ダンジョン界隈はあまり詳しくないですが、同業者が俺達のことを認めてくれてるのは、実感してます」
「最初の案件は酷かったからねー」
「拒絶ムードのほぼ不審者扱いでしたからね。――ったく、同じ案件の仕事仲間だってのに邪険に扱いやがって」
「まあまあ先輩。もう過ぎたことはいいじゃないですか」
「そうですね」
今でこそ俺達のことを敵視する同業者は大分減ったけど、実績を認められるまで、面倒な輩をあしらうのにリソースを取られてたからな。
何かと突っかかってくるバカがいたり、俺達のせいで取り分が減ると考えてた連中なんて、探索中につまらない小細工を仕掛けてきたこともあった。
ただダンジョンとは良くも悪くも過酷なのは、今も変わらない。
おかげで、そういう連中は企業間で悪評が広まり、いつの間にか顔を合わせることはなくなった。
空いた席を見つけて、三人横並びに座る。
今やすっかり俺のトレードマークになってしまったビニール傘は、適当に床に寝かせてっと――。
「それにしても、こんなにデカい工場を持ってる会社なら、自社で専門部署を用意すればよさそうなのに、わざわざ俺達に頼むんですかね」
「有名な大手企業だからこそ専門部署が無いのよ」
「華宮社長、どういう意味ですか?」
「大手だからこそ多数の行方不明者が出たら大騒ぎなるからよ」
「マスコミ対策ですか」
「おかげで、こうして仕事にありつけるわけだけどね」
「お久しぶりですね、華宮エステートの皆様方」
右隣から聞き覚えのある男性の声がした。
声の主に目を見やると、そこには見覚えのある若い男性の姿があった。
「あのー、根津さん? ボクが誰か覚えてないですか?」
「――? 誰だったかな。いや悪気は無いんだよ? ちゃんと顔も声も覚えてるし、俺がキーストーン切った日に鉢合わせた、いけ好かない若造というくらいは覚えてるから」
「大分、人生が楽しそうな記憶力みたいですね」
うーん、いかん、いかん。
昔はこうじゃなかったはずなのに……これも加齢のせいなのか?
「オジサン、そんな奴、忘れても構わないわよ」
「それは、いくら何でも失礼ですよ華宮社長」
「失礼って、さっき『いけ好かない』って言ってたくせに」
「ほら、相手は俺の事を知ってるのに、俺が相手の名前を忘れるなんて――ねぇ」
「オジサン、人間は何で物忘れをするか知ってる? 世知辛い人生を生き抜くために、必要がない事は忘れるように出来てるからよ」
「奇遇だね。ボクも華宮ユズハの事を忘れてたよ」
「そんなところ張り合って、どうすんのよ」
「根津先輩、あの人の名前は、か――」
「待って、潮さん! 今、ちゃんと思い出すから! ほら、ここで思い出さなかったら相手に悪いし、何より歳のせいで物忘れが激しくなったなんて、自分で自分が許せないんです!」
「加齢に伴う記憶力の低下は、人間として自然な老化現象ですよ?」
「老化とか言わないで!? 確かに俺はオジサンだけど、そこまでオジサンじゃないはず!」
「言葉の意味はわかりませんが、何を言いたいのかは何となく察します」
「ありがとう、潮さん! ――ということで、そこの将来有望そうな若者よ。俺が名前を思い出すまで、もうしばらく付き合ってくれ」
「……は、はぁ」
「大丈夫だって! 俺がキーストーン切った翌日に、参考のために君の動画を見た事はあるんだから」
「そこまでしておいて、忘れてしまう不安定な記憶力に何をアテにしろと?」
「か、か――かがみん! そうだ、かがみんだ! あー、よかった。スッキリした。悪かったね、かがみん。思い出すのに時間かかっちゃって――」
「鏡アキラ! その呼び方をしていいのは、鬼灯組の親分だけです」
「……そ、そうだそうだ! 宮本武蔵の再来と呼ばれてる二刀流の使い手の鏡アキラ! どう? 華宮社長、潮さん! 俺の記憶力もまだまだ捨てたものじゃないでしょ?」
「いいんじゃない? どうでも――オジサンに求めてるのは記憶力じゃなくて、戦闘力だし」
「と、年相応の記憶力は、お持ちかなー? と思います」
「ボク、もう少し配信で自分の名前を伝えた方がいいのかな……高齢者向けに」
「ゴメンゴメン、鏡さん。手間を取らせちゃったね」
「ええ、仕事の前だと言うのに、疲れましたよ。年は取りたくないものですね」
「同感だ。でも恐ろしい事に、寝てようが起きてようが生きてる限り、人は年を取るように出来てる。諦めるんだな」
視線を鏡さんの奥に向けてから、ざっと見渡す。
「鏡さん、今日はあの子はいないの? ほら魔法少女のコスプレしてる魔法使いのあの子」
「元良くんの事でしたら、今日はいませんよ。ボクたち2人が出張る現場なんて、そうそうありませんから」
「ふーん」
確かにアーカイブを見る限りでは、鏡さんと元良さんがパーティを組んでる配信は、業歴の割に少ない。
人材不足なのも頷ける。
「もしかして、元良の事、気になってましたか? もしよかったら紹介しましょうか?」
「何で食い気味なんですか――俺はただ居てくれたら仕事が楽になったのに、とは思っただけ。動画でも見たけど、彼女の強さは半端じゃない。鏡さんもそうだけど、若いのに大したもんだよ」
「強さで言うなら、根津さんも相当じゃないですか」
「他所の会社の人間に、ゴマすりしても何も出ませんよ」
「事実を言ったまでです。鳴かず飛ばすだった華宮お嬢様の会社に、無名だった根津さんが入社してからは、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、ダンジョン界隈では一躍有名企業の仲間入りを果たす。大したものですよ」
「別に俺一人だけの力じゃないさ」
「それだけじゃない。――あなたは、あの鬼桜を抜いた」
鏡さんの目つきが異様に鋭くなる。
予想だにしなかった雰囲気に背筋が冷たくなる。




