第22話 大型案件受注
鉄巨人の撃破を皮切りに、華宮エステートのダンジョン事業は軌道に乗った。
ネットでは俺達を『期待の新星』と称賛する声が多数を占めており、そのおかげでひっきりなしに企業案件が舞い込んでいる。
それにしてもダンジョン一つ取っても様々な案件があるんだなー、と関心した。
開発中の武器や防具の運用テストに攻略の代理は言わずもがな、末期だと思ったのは有名インフルエンサーや一発逆転を狙った崖っぷちタレントの護衛。
低レベルのダンジョンをあえて攻略しないでおき、周囲の土地を押さえておくことで、安心安全のガイド付きダンジョン探索ツアーを催す企業が存在することに驚いた。
日本国民の脅威であるダンジョンの排除に命懸けで務めた公安時代をあざ笑うかのようだ。
そんな感じでここ数週間は案件を通じて、人の欲望に際限がないことを嫌というほど思い知らされた。
ちなみに社長はと言うと「時間がいくらあっても足りないー! キィィィィー」と喚き散らかしながらも、ご満悦の様子。
ダンジョン事業にかかりっきりだったので一度「不動産業は大丈夫なんですか?」と訊ねたら「パパから引き継いだマンション2棟の管理だから余裕。もし住民が何かやらかしたらカノンにお願いするしね」と笑顔で言ってのけた。
それを聞いてから、今住んでる部屋は綺麗に使おうと心に決めた。
そういえば短期間で案件をこなしまくったおかげで、華宮社長から寸志を頂いた。
それもスマホ一つで振込も引き落としもできる時代に、手渡しで札束がパンパンに詰め込まれた茶封筒を。
あまりに豪勢な寸志だったので、年甲斐もなくはしゃいだら「今年は儲かったから出せたけど、来年はまた別の話よ」と釘を刺された。
若くして経営者の道を選んだだけあって抜け目がない。
そんな感じで、まだ半年は経ってないけど推定年収は既に公安時代を上回るのは確定し、俺の第三の人生は順風満帆に運んでいる。
そして今日もまたダンジョンの案件を粛々とこなすのだろう。
「サナ、オジサン。悪いわね、せっかくの土曜日なのに」
「構いませんよ社長。こうみえて私、休日出勤は慣れてますし――」
「もう、うちのブラック会社みたいに言わないの」
命懸けでダンジョンを攻略する事業なのにか?
「いえいえ、そんなつもりは――それに社長自ら、お車を運転してらっしゃいますし」
「気にしなくていいわよ、私が運転したかったんだもん。せっかく免許取ったし、二人のおかげで増収増益確定だしね」
俺達は今、社長が運転する車で現場に向かってる最中。
ワンボックスカーに運転席の華宮社長、助手席の潮さん、セカンドシートに俺の3人なので車内にいるのに圧迫感がない。
「それに初心者マークがあると、周りが気を使ってくれるから気楽よ。このまま、ぶつけても文句言われないんじゃないかしら」
「社長! くれぐれも安全運転でお願いしますね」
「安心して。仮に事故っても、絶対に10:0で勝てるから。カノンのおかげでね」
「それは果たして『安心』なのでしょうか――」
……鬼灯組も大変だな。
「華宮社長。疲れたら運転変わりますので、遠慮なく言ってくださいね」
「オジサン、免許持ってたっけ?」
「公安になる前に取ったことありますよ。今は別人なんで無いですけど」
「……さすがに警察のお世話になりたくないわよ」
暴力団ならいいのかよ。
「それに最近、取り締まりが厳しいって話だしね」
「大丈夫ですよ。俺、日本全国のパトロールの時間帯、知ってますから」
「根津先輩、それは機密情報ですよね!? たしか巡回のルートや時間帯は、犯罪の抑止や防犯上の理由で非公開のはずですよ!?」
「そもそもオジサンは10年眠ってたんだから、情報が古い可能性があるわよね」
「そこは抜かりありません。警官時代の友人に頼んで、最新の情報にアップデートしてますから」
「この国の警察内部の治安はどうなってるんですか!? 民間人に情報を横流しするなんて正気じゃないですよ!?」
「頼もしいわね。それじゃ帰りはお願いしようかしら」
「任せてくださいよ」
「何で乗り気なんですか社長!? 大体、根津先輩は免許持ってないんですよ!?」
「変にスピード出さなきゃバレないでしょ。仮にバレても、オジサンが二度と免許取れなくなるだけだし」
「大丈夫ですよ、潮さん。俺、公安時代にスピード違反で捕まったことないんで」
「ねえオジサン、今はスピード出しても大丈夫? 100キロくらい」
「土曜日とはいえ、まだ明るいから、それくらいは大丈夫かな。でも白バイを見たらスピード落とした方がいいな。あいつらだけはマジでヤバイから」
「オッケー! よっ――うーん、やっぱり、かっ飛ばすなら下道よねー」
「わかります。高速だと同じ風景が続くから、スピード出してる感ないですよね」
「ほら、見てみてサナ。初心者マーク付けてるから、他の車が遠慮してくれてるわよー」
「初心者ボーナスいいなあ」
「オジサンも今、免許取れば初心者マークじゃない?」
「それもそうですね」
「――あ!? いいこと思いついたわ! オジサン、免許の取得は一年後にして。そうすれば私と入れ替わる形で、初心者ボーナス延長よ」
「いいですね。急いで取る理由もありませんから、一年くらい全然いいですよ」
「……お二人は一度捕まって、けちょんけちょんにされた方がいいと思います」




