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第21話 鬼桜を抜いたオジサンの末路

 それからも取り留めのない話をしながら、俺達は地上に帰還した。


 鬼灯組のお屋敷で待ってたのは、組の男衆が用意した贅沢な料理とお祝いの言葉だった。


 俺達は体の汚れを落としてから、遠慮なく御馳走になった。


「うー、腹いっぱいだ。俺、生まれて初めて、高級ネタ寿司を腹いっぱい食べた。もう死んでもいい。きっと俺はこの日のために10年ぶりに目覚めたんだ。そうに違いない」


「バカな事、言わないでよ。これからもうちの従業員としてキリキリ働いてもらうんだから」


「わかってますって。華宮社長、明日はお休みでいいんですよね?」


「ええ。今日はダンジョンに潜ったから、オジサンとサナは明日、お休みよ」


 この会社は極楽かよ。


 公安時代なんて、休日は頻繁にぶっ潰れてたからな。


 重症を負っても救護班によって、ものの数分で完治するから、ダンジョン攻略で酷い損害を受けても、翌日は容赦なくダンジョンに放り込まれるという鬼畜っぷり。


 仕事か永眠という、どちらを選んでも地獄だった。


「兄貴! グラスが空じゃないですか」


 厳つい若い衆が愛想を振りまきながら、俺のコップにウーロン茶を注ぐ。


「これ、やっぱりウーロンハイ……じゃないですよね?」


「すいやせんね、兄貴。組長主催の食事会は、酒を禁じられておりまして――」


「言ってみただけです。丁度、お腹が膨れてきたところなので助かります」


 厳つい若い衆は、にこやかな笑顔を振りまいて去っていた。


 何か知らないけど地上に帰還してから、鬼灯組の男衆の俺に対する態度がガラッと変わったのだ。


 俺が鬼桜を抜いた時から兆候はあったけど、この短時間でここまで距離感が変わるとは想像してなかった。


 でも、歓迎ムードって感じなので、悪い気はしない。


 それにしても兄貴ね。


 天涯孤独の身だから、余計に染みるな。


 いやいや、ここでの兄貴ってのはあくまで極道のソレだ。


 俺はグラスのウーロン茶を一口飲んだ。


「そろそろ、頃合いかなー。皆の衆、聞いてほしいことがある」


 鬼灯組長が真面目な口調で言った。


 それだけで、和気あいあいとした雰囲気がきゅっと引き締まる。


 皆の視線が集まる中、鬼灯組長が口を開いた。


「さっきチェインのチャットでも連絡した通り――」


 ふーん、今時の極道はSNSを使うのか――とのんびり構えてると、凄まじい数の視線を感じた。


 何で、俺に?


「カイちん、あーしの婿(むこ)になれ」


 ……はい?


 凄まじい衝撃で思考がおぼつかない中、鬼灯組長が乙女の顔をしてることは理解できた。


「「「あっしらからもお願いしやす、根津の兄貴!」」」


 これは、ジョークという雰囲気ではない。


 断ったらスマキにされて東京湾に沈められるとかいうオチは無いよな?


「カノン!」


 俺がまごついてると、華宮社長が切り出した。


「う……うちの従業員に手を出さないでもらえるかしら?」


「ユズっちの会社は、結婚禁止なの? このご時世に?」


「そういうわけじゃないけど……ほらオジサンとカノンじゃ年齢が離れすぎてるというか――」


「あーしの夢は、鬼桜を抜いた男を婿(むこ)にすること。ユズっちも知ってるっしょ?」


「う、うん」


「話をしたのは小さい頃だけど、あーしの気持ちは今も変わらないよー。それにーカイちんは鬼桜の使い手にぴったりな強さも持ってるもん。ねー、みんな? 配信見てたでしょ?」


 男衆は各々「組長のおっしゃる通りです」「根津の兄貴なら大歓迎です」と納得してる素振りを見せる。


「この通り、カイちんを婿にするのは鬼灯組の総意なんよ」


「……オジサンの意思はどうなの?」


「そ、そうです! 根津先輩の気持ちをハッキリさせておかないと――」


 華宮社長と潮さんから、強い視線を感じる。


 華宮社長の口振りからして政略の意図はなさそうだ。


 これで幼馴染のよしみとか鬼灯組との良好な関係を意地するために等で、俺を差し出されたら、どうしようかと思ってたところだ。


 ……俺の腹は決まってる。


 贅沢は言わない。


 ただただ堅気で居たい。


 俺は意を決して、口を開いた。


「鬼灯組長の申し出は、俺みたいな年寄りには大変魅力的ですが、お断りさせていただきます」


「うん、わかった」


 鬼灯組長は、にこやかな顔で即答した。


 華宮社長と潮さんは、胸をなでおろしてる。


「本人がああ言ってるんだし、それにオジサンと女子高生じゃ世間の風当りも強いから止めた方がいいわよ。ほら、きっとカノンにも良い相手が見つかるわよ」


「さすがに初回で落とせるとは思ってないよー」


「……ハ?」


「一度、断られたくらいで諦められるわけないじゃん」


 男衆が続いて「その意気ですよ組長!」と言った。


「それに――あーしが惚れ込んだのは『腕』だけじゃないもん」


「あ……これ目がマジだ」


「カイちん。そういうわけだから、今後もよろしくね」


「……お手柔らかにお願いします」


「ユズっち。こればかりは、マブでも譲れないからねー」


「あはは、何の事かなー」


「それじゃ今日は、これでお開きにしよー。ユズっち、今日はあんがとね」


「どういたしまして」


「根津先輩! もしよければ、これから飲みに行きませんか? 明日は休暇ですし――」


「お! いいねェ。丁度、そういう気分だったし」


「実はですね、この町にも美味しいカクテルを出す雰囲気の良いバーがありますので、ご案内しますよ」


「あれ? 俺がカクテル好きなの、話したっけ?」


「知ってるに決まってるじゃないですかー。同じ職場の人間ですし――」


 俺は救護班の連中と飲んだ事もないし、そもそも当時の潮さんは未成年のはずだけど……。


「それじゃ社長、私達は二次会に行きますね」


「え? あ? う、うん――気を付けて、ね」


「マジか。……こりゃあカイちんを手に入れるには、早く手を打たないとヤバそうね」

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