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第20話 恒常化の危険性

 キーストーンが健在のため、地上には徒歩で向かうこととなる。


 ボスは撃破してるので、モンスターは出てこないし、トラップは全部消えてるので、適当に話をしながら、金属に囲まれた空間をだらだらと歩いてる。


 華宮社長、俺、潮さんの三人は何ともないけど、鬼灯組長は一度薬を使うと副作用で1時間ほど、まともに立って歩く事ができないみたいで、今は華宮社長に肩を借りてる。


 ちなみに時間切れのため、鬼灯組長の角は綺麗に消えてる。


「なんで、あーしのスキルは短い上に副作用があるんだろう。不便すぎる」


「カノンは普段から強いからでしょ」


「ずっと解放されるとありがたいのに――」


「角が生えっぱなしだと日常生活が大変じゃない」


 鬼灯組長の気持ち、めっちゃわかる。


 俺も公安時代、毎回異伝子覚醒装置(ハンマー)のスイッチを押すの面倒だと何度もぼやいたことがある。


 その度に、制約をかけてる理由を隊長から詰められた。


 当時はピンと来なかったけど、今の鬼灯組長の様子を見て、隊長から教わったことが腑に落ちた。


「覚醒の恒常化は、あまりお勧めできませんよ」


「すっごく意味深な感じで言ってるど、オジサンは知ってるの?」


「前の職場の上司に散々、ドヤされましたからね」


「それってー、公安の時に聞いたやつー?」


 鬼灯組長の言葉に、心臓がビクンと跳ねた。


 思わず潮さんに目を向ける。


「組長なら既に根津先輩の正体に気づいてると思いますよ。私の事も初めてお会いした時に、既にご存じのようでしたし」


「んふっふっふっふ、カイちんの事は一昨日のユズっちの配信で見た時からリサーチしたんよー、情報収集は大事だかんねー」


 蛇の道は蛇って奴か。


 まあ配信は切ってるし、別にいいか。


「ええ、俺が公安に所属してた時に聞いた話ですが……興味ありますか?」


「聞きたーい」


「私も知りたいわ」


「潮さんはどうします?」


「私も、ご教示いただきたいです。救護班に居た時に聞いた話と重なる部分はあるかと思いますが――」


「わかりました。では、地上に帰るまでの気晴らし程度に聞いてください」


 俺がそう切り出すと、三人は静かになった。


「覚醒状態の恒常化がお勧めできない理由は、早死にするからです。覚醒状態ってのは言わばカロリーの燃費がめちゃくちゃ悪い状態で、普通の人間なら水だけあれば2週間生きられるのが、覚醒状態だと1日と持たないとのことです」


「確かにねー。あーし今、物凄くお腹空いてるしー。そうそう、お家に帰ったらパーティーだから、楽しみにしててー」


「ありがとうございます、鬼灯組長」


「それでカイちん、お腹が空くだけなの? あーしは1本キメただけで、空腹だけでなく、かなりしんどいんだけどー」


「なにせ撃薬がなかった10年以上前の話ですからね。今風にいうとライトユーザーしか居なかった時代です」


「もしかして2本目打ったらヤバイ? 疲労をポンと取りたいんだよねー」


 鬼灯組長は薬のケースを取り出した。


 ボス戦前に、中身がチラっと見えたけど、アンプルと注射器が複数あったんだよな。


「……何の薬を使うのかは言及しませんが止めてください。若いんだから三大栄養素をキチンと摂って、たっぷり寝てください」


「はーい」


「オジサン、話は終わり?」


「もうちょっとだけ続きます。何故、俺達の体にある異伝子はずっと眠ったままなのか。これ異伝子覚醒装置(ハンマー)の開発者が唱えた説なんですが、食べ物が無い時代を生きるため『進化の過程でカロリー消費の激しい異伝子を封じた』という話です。ほら人間って、要らなくなった知識は忘れますし、使わなくなった筋肉は縮むように出来てるじゃないですか」


「あーしは運動、一切してないけど、力なくならないよ?」


「私、こう見えて目だけじゃなくて記憶力にも自信があるのよ」


「これだから若い子は――ねえ、潮さん」


「先輩、その流れで、私に話を振らないでくださいよ~。傷付いちゃいますよ」


「……話を戻しますね。とりあえず現代の人間は生存のために、不要と判断された器官を排除するように出来てます。特に『餓死』に対しては、筋肉や骨を削ってでも生き延びようとします」


「食料の確保が難しい時代、飢え死にを防ぐために封じたのが異伝子――ということね」


「そんでもって、大昔にいたとされる魔女、陰陽師、シャーマン、退魔師のような異能力者に、吸血鬼や狼人間のように人の姿に化けられる異人は、異伝子が常に覚醒状態の人間という説もありますが定かではないようです」


「うーん、別になんでもいいよー。暴力で食べていけるなら、あーしは幸せだしー」


「ちなみにさっきボス戦の時で話した俺の友人は、狼人間になると嗅覚と野生の勘で罠やモンスターを察知してくれるんで、めちゃくちゃ助かってました。――まあ異能力者と異人については色々と諸説がありますので、話のネタ程度に留めてください」


「覚醒状態の恒常化は命の危険があるため、ハンマーの使用は1日に2度まで、と救護班時代は厳命されてましたが、異能力者に異人の元ネタ説は初めて聞きました」


「俺達の業務に支障はないので、忘れてもらっても構いません。とにかく鬼灯組長はヘヴィユーザーだから、お薬の乱用は止めてください」


「ふぁーい」

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