第19話 配信終了
「オジサン、デカブツの右肩を斬って。そこにコアがあるわ」
イヤホンを通じて、華宮社長の声が聞こえた。
「その言葉、間違いないですか?」
「ええ、言ったでしょ? 私、目がいいのよ。肉眼で捉えたのは、ついさっきだけどね。でも、一目見てわかったわ。あのデカブツの右肩、他の部位と違って、やたらと振動してるし、強力な電磁波も出てるわ」
「大丈夫ですよ、根津先輩。機械系モンスターのコアは私達でいう頭脳ですので、他のパーツとは明らかに異なる挙動をするんです。ダンジョン攻略ウィキにも載ってる情報ですので、間違いありません」
「攻略ウィキってゲームかよ」
「組合のホームページからログインできますよ。リンクは、先日お渡しした入社説明会の資料にも載せてます」
「見落としてたよ。文字を見ると眠くなるもんで――」
例の組合の情報はともかく華宮社長の目は本物。
闇雲に戦うよりかは、幾分マシってもの。
俺は、ボスの右腕に飛び乗り、そのまま体を伝って右肩に一太刀入れた。
ボスの装甲自体は、豆腐のように斬れた。
俺がつけた刀傷は、傷自体の長さは申し分ないが、傷口は人間の指が入る程度の隙間。
もう少し切り刻みたかったが、ボスの右腕が不安定なので飛び退く。
「カノン!」
「おっけー」
俺と入れ替わる形で、鬼灯組長がボスの右肩に到達。
そのまま、俺のつけた刀傷に手を突っ込むと、装甲を引っぺがした。
ボスの右肩の中身が露わになる。
そこには、ひと際異彩を放つ球体――コアがあった。
ボスの図体に合わせて、大きいコア。
「あっつ!」
ボスを構成する金属は熱伝導が高いのか、鬼灯組長がボスから離れた。
あれじゃあ力づくでコアを引きずり出すのは至難。
「ユズっち、そろそろ薬が切れそう」
火傷を負ったのか鬼灯組長は潮さんから治療を受けてる。
「大丈夫、勝機はあるから――ということでオジサン、今度はコアを斬ってきて」
「でも真っ二つってわけにはいきませんよ。コアの直径に対して、刀身が明らかに短い」
「肩につけた切り傷と同じものでいいわ。ほら、早くしないと――」
引っぺがした装甲が徐々に元の形に戻ろうとしてる。
装甲が熱エネルギーで柔らかくなったことも関係してるのだろう。
ここで、つべこべ言ってもボスに利するのみ。
俺は急いで、ボスの体に飛び乗った。
熱い!
熱気なんて生易しいものじゃない。
こんなところに長居したら熱中症どころの話じゃない。
熱さを堪えつつ、ボスの体を伝って、閉じかけてた装甲を切り落とし、二の太刀で肩にあるコアに傷をつけた。
あわよくばコアを細切れに、と思ったが、ボスが体中から放つ熱と蒸気のせいで、立っていられなくなった。
ボスから離れて、皮膚がむき出しの顔がひんやりとする。
その時だった――紐がコアに伸びて、そのままくっ付いた。
そうか!
脳裏によぎったのは、俺の失態で落とし穴に落ちた時に釣り上げてもらったシーン。
おそらくムチの先端に、機械のパーツから作った釣り針のようなものをくっ付けて、刀傷に引っかけたんだ。
「コアにかかったわ。カノン!」
「よーし――ンギギギギ」
ボスの腕に乗っかってる二人がムチを引っ張る。
コアがせり出す。
程なくして、ボスの右肩からコアがズルっと抜けた。
後は、あれを斬っちまえば。
俺は、コアの落下予測地点に向かって、駆け出した。
――が、コアを取り零すまいとしたボスの手が伸びた。
「ゴメン、もう薬が切れた」
「オジサン、何としてでもコアを真っ二つにして!」
くそっ!
このままじゃ、せっかく引き抜いたコアが落ちる前にキャッチされちまう。
鬼桜の投擲――はダメだ。
俺の手から離れたら、ただの業物になっちまう。
何より、コアに刀が突き刺さったとしても、致命傷にはならないだろう。
「やあああああああ!」
ガラにもなく頭をフル回転させてると、潮さんの勇ましい叫び声が聞こえた。
同時に、落下中のコアに高速で飛来する物体が直撃した。
潮さんが投げたメイスが命中したのだろう。
おかげで、僅かだが落下の軌道がズレたようだ。
その結果、コアはボスの指先に当たり、取り零した。
「ふう、当たって良かったです。根津先輩!」
「ああ!」
落下予測地点に到達。
そして、コアを細切れにした。
次の瞬間、ボスの巨体がピタリと止まると、強い輝きを放ち、光と共に消えた。
入れ替わるようにキーストーンが忽然と出てきた。
「カノン、ほら起きて。ボスは倒したよ」
「うーん、あと5分だけ」
「体が痛いだけでしょ、早くしないとオジサンがキーストーンを切っちゃうわよ」
「人聞きの悪いことを言わないでください。俺は、キーストーンに触れてませんよ」
鬼灯組長はフラフラとよろめきつつもキーストーンを拾い上げた。
「みんな、こっちに来て――よーし、揃ったわね。無事、ボスを撃破できたので、本日の配信はこれで終わります。ご視聴ありがとうございました。まだの方はチャンネル登録といいねボタンをお願いします。ではまた次回、それではー」
こうして、俺の初配信は幕を閉じた。




