第2話 住所不定無職とJK社長
おかしい。
オートロックが開かねえぞ!
話が違うじゃないか。
お上は、部屋を用意してるはずでは?
俺は今、戸籍謄本に記載されてる住所のマンションのエントランスにいる。
今、直面してる問題は、この建物のエントランスには、集合キー式のオートロックがあり、解錠するためにディンプルキーを挿してるのだけど回せないのだ。
いや、確かに建物の名前は、戸籍謄本に記載されてるものとは異なってる。
でも、住所は一致してるのだ。
スマホで確認してるから間違いない。
それにスマホで確認した建物名と実物の建物名は一致してる。
間違ってるのは戸籍謄本に記載されてる建物名で、それを裏付けるように支給されたディンプルキーでオートロックが解錠できない。
これだから、お役所仕事って奴はよォ……国民の税金を何だと思ってやがる!
エントランスのドアの前で不審者同然の振舞いをしてると、向こう側から人がやってきた。
学生服を来た二人組の女性だ。
身長とスタイルを見る限り、高校生とみた方が良さそうだ。
片方は如何にも10代特有の若々しさが表情と肌艶に出てるけど、落ち着きがあるためかガキには見えない。
もう片方は大人のお姉さんといった雰囲気のためか、コスプレ感が否めない。
それだけなら、お友達同士のお出かけなのだが、その二人組には妙な点がある。
若々しい方は、やたらとデカいボストンバッグを担いでる。
大人びた方は、長い筒状のカバン――バットケースを肩にかけてる。
生地がしっかりと張ってるところを見るに、中身はパンパンのようだ。
平日の午後5時、仲良し女子高生のお出かけにしては、理解し難い荷物だ。
仮に部活のマネージャーで荷物持ちだとしても、せめて休日の遠征時だろう。
それとも10年間、入院してる間に女子高生のトレンドが大容量カバンになったのか?
想像し辛いな……。
などと考えてると、当の二人組は俺を不審に思ったのか、ドア越しに訝しんでる模様。
オートロックの前でもたもたしてる人間なんて訪問営業くらいだもんな。
俺は無害を主張するため、ドアから少し離れた。
それを見計らうかのように、オートロックのドアが開いた。
すれ違うと若々しい女性の怪訝そうな目と合う。
俺は作り笑顔を浮かべてから、優し気な感じで声をかけた。
「すみません。この建物の名前、スイートパレス華宮で合ってますか?」
「そうですけど」
ぶっきらぼうな口調で返答された。
怯むな俺。
「それじゃあ『ハナミヤ荘』という建物はご存じですか?」
若々しい女性の表情が少し柔らかくなる。
「その建物、今はないわよ」
「え?」
「ハナミヤ荘を建て直した出来たのがここスイートパレス華宮だもん」
「そうなんだ、急いでるところ引き留めて悪かったね」
「そう。オジサンこそ、入れ違いしなかったから通報は勘弁してあげるわ。以後、気を付けるように――」
「肝に銘じておきます」
この歳で女子高生に釘を刺されると心にくるものがあるな。
事実だから何も言えないのが余計に辛い。
「ゴメン、サナお待たせ――って、どしたの?」
そこで初めて、大人っぽい女性――サナさんが俺のことを物珍しそうな目で見てることに気づいた。
何だ?
今の俺の顔が彼女の癖に刺さったのか?
「ハッ! な、何でもないです社長」
「サナ、制服の時はユズハ、またはユズと呼びなさいって言ってるでしょ」
あの子――社長と呼ばれてたよな?
もしかして、この子達――さっき閲覧したニュースサイトのトップを飾ってた、匿名犯罪グループの一味なのか?
捕まった実行犯は未成年という話だし、何よりこの子達は不自然なほどデカい荷物を担いでる。
まあ、どうでもいいか。
『10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ』という言葉がある。
無職の民間人である俺には、今の時点で出来ることは何もないのだ。
「ふーん、ねえオジサン、一つ質問いい?」
「犯罪の片棒を担ぐのはゴメンだ」
「不法侵入者として通報するわよ」
「ああっ!? 悪い、悪い。こっちの話」
「オジサンのくせに、こんな可愛い女子高生二人組を犯罪者扱いなんて失礼しちゃうわね」
「だから、こうして謝ってるじゃないか。それで、質問って何かな?」
「オジサンから見てさ、この子のスカート、長いと思う? それとも短いと思う?」
「お嬢ちゃんはオジサンを犯罪者にする、おつもりかな?」
「も、申し訳ございません! 弊社の社長が突然、変な質問を――ほらッ、社長ッ! こちらのお方が困ってるじゃないですか」
「今更、何を恥ずかしがってるの。太い足は太客を釣れるのよ?」
「ひ、人が気にしてることを――」
「それに見せパンはいてるんだから、もっと短くしてもいいじゃない。オジサンもそう思うでしょ?」
なんでそういう事をオジサンに聞くんだよ。
最近の学校は『知らないオジサンについていってはいけません』って教えてないのか?
それはそれとして、ここはやはり大人として聞かれた事に答えるのが子供の手本になるよな。
という事で失礼して――うーむ、確かに二人の長さを見比べると、お嬢ちゃんの方は女子高生らしく膝上15cmくらいで、サナさんは膝にかかってる。
「いいか? あくまで俺の好みだし、あくまで質問に答えるだけだからな? 決してやましい気持ちはないからな!」
「結構よ。忌憚のない答えを頂戴。全世界のオジサン代表として――」
「勝手に担ぐな――俺は、短い方が好みだ」
「ほうら、何が『長い丈を好む視聴者がいるかもしれません』よ。観念してスカートをもっと折り込みなさい! 私達のウリは、現役女子高生二人組ってところなんだから、そこんところをもっとアピールしていかないと――」
「私、現役じゃないのに――」
「仕方ないでしょ。弱小配信者は、そういうところで視聴者を引っ張らないと――オジサンもそう思うでしょ?」
そういうことか。
『好きな事で、生きていく』とかいう、あのフレーズ。
10年経っても廃れてないのか。
どうりで荷物がかさばるわけだ。
「ま、まあ、うん。動画、がんばってね」
俺は、今の俺なりに精一杯の愛想を振りまいた。
「オジサンもありがとね。あ、そうそう、サナが女子高生じゃないのはダマっておいてね」
「わかった、約束するよ」
その手の輩には関わりたくないしな。
「もし流出したらオジサンの事、通報しちゃうから。それじゃ――」
「し、失礼します」
女子高生と大人の二人組は、デカいにもつを抱えてるとは思えない速さで俺の前から姿を消した。
俺は今日の夜を凌ぐため、ネカフェに向かう事にした。




