第14話 魔装・斬鉄剣
「そうそう、これまでの進捗はクラウドに上げてるから歩きながら目を通しておいて」
俺はスマホ片手に歩きながら、ダンジョンの構造、罠の配置、出現するモンスターの種類等の情報に目を通す。
スチームパンクのダンジョンなら、モンスターは音でわかるから問題ない。
ふーむ、三人だと2階が限界のようだな。
3階のマッピングは降りて、ちょっと移動しただけで終わってる。
「いやー、コメント大盛り上がりだったね、根津っちー」
いつの間にか鬼灯組長が隣に来ていた。
「あまりの盛況ぶりに涙が出そうだよ」
俺は後方にいる華宮社長と潮さんに目を向けた。
「すみません、根津先輩。異伝子覚醒装置使用時のセオリーをお伝えするのを失念しておりました」
「さっきコメントでもあったけど、それ使って痛くないの? オジサン」
「痛いよ。でも、喚くほどじゃない」
俺も初めて使った時は、それこそガキみたいに喚き散らかしたけど『うるさい!』と文句と共に隊長に蹴り飛ばされた。
以来、隊長にドヤされないよう声を抑えてたら慣れてしまった。
『無理すんな、オッサン』
『痛かったら素直に痛いって言った方がいいよ』
視聴者は楽しそうで何よりだ。
「まーまー、元気だして行こーよー」
「俺も現代っ子らしく薬を使おうな……なあ、鬼灯組長」
「どしたー?」
「鬼灯組長は、薬を使わないの?」
「ちょっと事情があって薬は温存中なのー」
「ふーん、まあ出し惜しみは結構だけど、それなら、ちょっと下がっててくれ」
僅かだが金属の摩擦音が聞こえた。
もうすぐモンスターと遭遇する。
「大丈夫、大丈夫。あーしは、こう見えて前線なんよー」
覚醒状態にならず、鬼桜を抜く様子もないけど、本当に大丈夫か?
本人がそう言ってるのもあるけど、華宮社長が何も言わないなら、別にいいか。
情報によれば1階はザコしかいないから、三人を守りながらでも余裕で戦える。
――などの考えてる内に、モンスター達が姿を現した。
スチームパンク系のザコキャラ筆頭のブリキ人形。
背丈は1メートルと幼稚園児程度の大きさで、見た目は博物館に陳列されてそうな大昔のオモチャのロボットで、方向転換と直進運動しか出来ないため、攻撃方法は突進のみ。
深い階層になると、爆弾を内蔵してたりや異様にスピードが早い機種も出てくるが、いずれも大したことは無い。
数も俊敏さも大した事はない。
肩慣らしには丁度いい。
俺は両手でビニール傘を握りしめてから、先頭の一体の頭頂部に目掛けて、振り下ろす。
包丁で肉を斬るように、ビニール傘で金属製のロボットを容易く真っ二つにした。
うん、コアもちゃんと斬れてる。
ザコ1体の停止を確認すると同時に『パチ、パチ、パチ』と一人分の拍手が聞こえた。
「まさかロボットまで傘で斬っちゃうなんてねー」
「うん、俺も安心した」
俺の魔力、ブリキが斬れなくなるほど鈍ってなくて、よかった。
『生き物ならまだしも無機物まで傘で斬っちまうのかよ。あんな魔装スキル、今まで見た事ねえぞ』
『マジもんのお侍かよ』
『正に斬鉄剣だな』
コメントの方も意外と好感触みたいだし。
機械系のモンスターは、今の俺には丁度いいかもな。
「ふーん、斬鉄剣ね。いいじゃない。オジサンにはピッタリよ」
「華宮社長。斬鉄剣はわかりますけど、この魔装スキルって何ですか?」
「装備品を魔力で強化する事をそう呼ぶの――というか、何でオジサンが知らないのよ」
「前の職場では、そんな話しなかったもので――」
そういや公安時代に魔力の使い道には、大まかに5つあるとか言ってたな。
魔力をぶっ放す。
人体の強化。
別の人種への変化。
魔力そのものを別の物に置き換える。
それで俺が一番得意な、装備品を魔力で強化すること。
その辺りは追々、勉強するかな。
「……話すと長くなるから今はいいや。それよりも視聴者に好評みたいだし、その調子で頑張って!」
「お任せください」
戦いの勘は、一昨日のミノタウロスである程度は取り戻せたから、今日は技の研鑽といきますか。
お?
次の得物に狙いを定めようとしたら、鬼灯組長が前に出てる。
「いいものを見せてもらったからさ、あーしもちょっと火がついちゃったよ」
そういいながら鬼桜をポイっと放り投げた。
「本気ですか?」
「もち。喧嘩ってのは、ステゴロでなきゃ映えないっしょ」
次の瞬間、鬼灯組長が右腕をブンと振った。
そして右拳がロボットの胴体にめり込む。
鬼灯組長は、力任せにぶん殴ったのだ。
「あーしの拳固は、ハジキなんか目じゃないのよ」
「す、すげェ……」
俺は素直に感心した。
「オジサン。カノンは神輿じゃないわよ。ご覧の通り『力』があるから組長なのよ」
装甲がひん曲がったロボットに華宮社長のムチが巻き付く。
「カノン、動きは抑えたわ。トドメ、お願い」
そう、相手は機械。
装甲がひん曲がったくらいでは止まらない。
止めるためには、奴らの心臓部である球体上のパーツ『コア』を破壊しなければならない。
どうやって、破壊するのだろうか。
関心を向けてると、鬼灯組長はロボットの頭頂部に右手の平を乗せた。
「はーい……ッ!」
次の瞬間、ロボットがぺちゃんこになった。
鬼灯組長が右手で押し潰したからだ。
あれなら間違いなくコアも潰れてるだろう。
「彼女が親分の理由……これでもかというほど理解したよ」
強面の男共が平伏すわけだ。
機械系のモンスターはザコでもステンレス並の強度はあるのに、それを体一つで容易に変形させる膂力。
それも薬を使わずに、だ。
公安時代にも、体のセーフティが無い奴は何人かいたから、覚醒してなくてもザコ相手なら戦える実例は目にしたけど、これほどまでの強さは見たことがない。
コメント欄は大盛り上がりだ。
スパチャもある。
俺の経験からすれば、彼女達の戦い方は非効率的だ。
そもそも機械系に打撃は相性が悪い。
だが、可愛らしい女の子が桁外れの力でモンスターを圧倒する姿は、見る者を熱くさせるものがある。
間近で見てる俺も体が熱くなってる。
視聴者も同じなのだろう。
それに引き換え、オジサンが傘でモンスターを斬っても、せいぜい曲芸扱い。
あれか。
SNSで見た最近流行りの『冷笑系』という奴か?
うう、不公平だ。
「そう落ち込まないでください。根津先輩だって、ちゃんとコメント稼いでるじゃないですか」
「ありがとう、潮さん」
『オッサン! 聖母様から離れろ! そこは俺の席だ!』
『サナ、逃げてー、オッサンがうつるぞ』
『つーか、何で新人のオッサンに先輩なんて呼ばせてんだ?』
『サナの気遣いじゃね? オッサンと女子高生だと親子ほどの年が離れてるし』
うるせェ!
同僚なんだから、いいだろ、別に!
「そうそう。それに配信の目的の一つに、大きな案件を引っ張ってくることだから、オジサンは今の調子でがんばってくれればいいのよ」
「がんばります、社長」
『いい年したオッサンが、女子高生に慰められてる姿に涙を禁じ得ない』
うるせェ!
雇用主なんだから、いいだろ、別に!
「でも、いつかは女性視聴者を沼らせる作法を身に着けてほしいと考えてるわ。まあ今後の反応次第だけどね」
「お、お手柔らかに」
そういえば、潮さんが女子高生の制服を着たのは、2回目の配信からだったな。
うーむ。
俺の顔面、整形のおかげでちょっとシュッとしてるし、華宮社長のご希望に沿えるよう身形と仕草に気を遣ってみるか。




