第13話 オープニング
不安が心臓に圧し掛かってくるんだけど。
気を紛らわすためスマホから配信管理画面に目を向ける。
現在の視聴者数は100人前後で、一般人がやる普通の配信なら上位に位置する。
でもダンジョン配信だと、どうなんだろ。
「今日はーなんと、秘密の場所にあるダンジョン攻略に、初回放送以来のリベンジにやってまいりましたー」
「ユズー、今日の目標はどうしますかー?」
潮さん、司会のお姉さんという感じだな。
「当然、完全攻略よ! ボスにトドメを刺すわよ」
「ユズー、今日は何か作戦はありますか?」
「当り前じゃない。でも、その前に、攻略前のルーティンよ。……まずは、私から」
華宮社長はカメラを意識しながら、さっと薬用リップを塗ると、上目使いのキメ顔をする。
若い子のあざとい仕草は、ちょっと守ってあげたくなるよな。
スマホに目をやる。
予想通りというかアーカイブでも見たけど、コメントが大量に投下されてる。
『可愛い』『メロい』『うおおおお』『生きてて良かった』『現役JKしか勝たん』等の、男共が身悶えしながらコメントを打ち込む姿が容易に想像できる文面がズラリと並ぶ。
やっぱり、若い子――それも現役女子高生が惜しげもなく披露してるのだから、相当な火力みたいだ。
あれでも中身は、片腕が折れても闘争心が絶えない女傑だけどな。
そして画面は潮さんに切り替わる。
潮さんは目線をカメラから外したまま、ゆったりと薬用リップを塗ると、上下の唇をくっつけて擦り合わせた。
何かこう、上品で一つ一つの所作が綺麗で上品だから見惚れてしまう。
そしてコメントはと言うと――これまたアーカイブで見たのと同じく、好評の模様。
『癒される』『たまらない』『オギャりたい』『聖母様』『バブバブ』『心が綺麗になりそう』『大人っぽい仕草がぐっとくる』『お祈りさせてください』等の、現代社会で心が荒んだ男共が涙を流しながらコメントを打ち込む姿が容易に想像できる文面がズラリと並ぶ。
やっぱり、何時の時代も清楚系は需要あるな。
『初見です。サナって人、うちの学校の制服を着てるけど見た事ないです。あんな美人なら、そうそう見落とさないと思うんだけど、もしかしてOGとかコスプレイヤーの方ですか?』
中身は、三十路目前の成人女性だから、OGとは呼べるのかな?
『俺も見たことない。社長なら毎日、学校で暴れてるけど』
華宮社長、わんぱくでもいいし、テストで0点取ってもいいけど、俺の生活が安定するまでは、問題を起こさないでくれよ。
それにしても昨日、閲覧したアーカイブでも思ったけど、うちのチャンネルの視聴者層は偏りがある分、一人一人の熱量は凄まじい。
……はたして俺みたいな異分子が混ざってもいいのだろうか。
本当に不安になる。
「――というわけで、今日は我が社の新しい仲間を紹介します! どうぞー」
華宮社長が俺に目配せする。
よし! 腹は括った。
後は、野となれ山となれ、だ。
傘を握りしめてから、カメラの画角に入る。
「視聴者の皆さん、こんにちはー。初めまして、カイトと申します。一昨日入社したばかりの新人ですがよろしくお願いします」
自分では精一杯の愛想を振りまく。
「こちらの新人は、先日ダンジョン界隈でバズった『傘張り浪人』その人です!」
「もしかして視聴者の中にはご存じない方がいるかもしれないので私からご説明しますと、一昨日の配信中、私共がピンチだったところを、無断で配信に割り込んではビニール傘一本で軽々とボスを斬り伏せ、勢いそのままにキーストーンまで真っ二つという、常識破りのダンジョン配信デビューを果たした、お方です」
恨み節が込められてる気がするけど一応、二人は俺を宣伝してくれてる、という事でいいんだよね?
「そんな実力も常識も規格外なカイトさん、今日の意気込みはどうですか?」
「えっと……今日の目標は、キーストーンを斬らないようにすることです」
「さすが現在進行形でバズり中のお侍さん。攻略開始前から既にボスを倒した後のことを考えてるなんて、さすがです! 社長の私としても誇らしいわ――それじゃ、オジサン。いつものルーティン、よろしくー」
この場合、覚醒状態になれってことだよな。
俺はいつもの調子で異伝子覚醒装置をポチった。
指先から全身に強い電流が駆け巡る。
うん。
今日も調子は問題なさそうだ――って、何で華宮社長から白い目で見られなきゃならんのだ?
明らかに『求めてる反応じゃない』って顔に書いてある。
潮さんの引きつった笑顔を浮かべてるし。
お、カメラの側にコメントが浮かび上がってるぞ。
『お約束ってものをわかってねえな、オッサン。それでもレトロユーザーかよ』
『何、涼しい顔してんだよ。そこは、ギャーギャー叫ぶのが鉄板だろうが』
『あれ偽物なんじゃね?』
『十中八九偽物だろうな。本物なら痛みに耐えられるわけないし』
知らねえよ、そんなお約束。
悪いが俺は芸人じゃないぞ、と華宮社長に無言で訴える。
「さて、お次の方は、初放送以来の登場となります。どうぞー」
スルーされてしまった。
不服だけど俺が原因で白けた空気を払拭するかのように、鬼灯組長がやってきた。
「どもどもー、カノンでーす。久しぶりのダンジョン攻略で緊張してるけどー、よろしくねー」と軽薄で気だるげな口調で挨拶する。
場慣れしてるのか、顔にも声にも緊張の色が見られない。
やっぱり偏りのある客層だけあって、女の子が前面に出るだけで盛り上がる。
「本日はいつもより大所帯だけど、いいねとコメント、そして高評価をよろしくお願いしまーす」
「あと拡散と宣伝も宜しくお願いします」
古株の二人がカメラに向かって笑顔を振りまく。
それは、アーカイブで何度か見たことがある映像――ようやくオープニングが終わったようだ。
動画で見ると短いのに、自分が出演してると異常に長く感じるな。
こうして自分が出演する側になると、頭が真っ白になって、やっとの思いで頭の中で紡いだ言葉を口にするだけで精一杯。
俺には、自分の頭でコンテンツを考えて、動画を投稿なんてできない事を痛感する。
「それじゃあ新人くん、先頭よろしく」
「任せてください、社長」
新人くんね……まあ『カイトさん』よりも会社の立場で呼び合うのがしっくりくるな。
それにしてもダンジョン内で『新人』か。
公安時代以来、実に10数年振りだな。
うう、今でもガミガミ口うるさい隊長の姿が目に浮かぶ。




