416話 第3クルー到着
第2クルーがきぼうステーションへ到着し、順応訓練を開始してから一週間。
ブーゲンビル島宇宙発射場では、再び一隻の有人宇宙船が静かに発射の時を待っていた。
搭乗するのは第3クルー、総勢10名。
彼らは数か月にわたる訓練を終え、ようやく宇宙へ向かう日を迎えていた。
再利用ロケットによる有人飛行はすでに実績を積み重ねていたとはいえ、宇宙飛行には決して「絶対」は存在しない。
だからこそ、一つ一つの確認が徹底されていた。
日本宇宙軍は、この頃すでに約8か月ごとの交代を基本とする大規模宇宙運用体制を構築しており、そのために短期間で連続してクルーを送り込む「ラッシュ期間」に入っていた。
きぼうステーションを本来の能力で稼働させるには、十分な人数を早期に揃える必要があったのである。
管制室から最終報告が入る。
「エンジンチェック完了。」
「姿勢制御装置正常。」
「生命維持装置正常。」
「通信システム正常。」
「全システム、打ち上げ可能。」
地上局の責任者が静かに告げる。
「エンジンチェック完了。カウントダウンに入ります。」
発射場全体が静まり返った。
10
発射台周囲に白い蒸気がゆっくりと広がり始める。
9
8
各自が計器を確認し、シートベルトの固定状態を最後に点検する。
7
6
外部との通信も安定。
5
主エンジンへ燃料が送り込まれ、機体全体がわずかに震え始める。
4
巨大な機体の下から水蒸気が勢いよく噴き出した。
3
2
エンジン始動。
1
点火。
一瞬遅れて、島全体を揺らすような轟音が響き渡る。
眩い火柱が発射台を包み込み、巨大なロケットはゆっくりと地面を離れた。
その姿はまるで巨大な光の柱が空へ向かって伸びていくかのようだった。
白煙を長く引きながら、ロケットは速度を増し、やがて雲を突き抜けていく。
ブーゲンビル島の地上では、多くの整備員や技術者が空を見上げ、その姿を最後まで見送っていた。
高度は順調に上昇。
軌道投入まで、一切の異常は確認されなかった。
やがて第一段ブースターが予定通り切り離され、自動帰還プログラムへ移行する。
宇宙船本体は姿勢制御を行いながら速度を調整し、静かに地球周回軌道へと到達した。
数時間後、宇宙船はきぼうステーションの軌道へと接近していった。
きぼうステーションと第3クルーの合流
きぼうステーションでは、第1・第2クルーが到着準備を進めていた。
外部監視カメラには、小さな光点がゆっくりと近付いてくる様子が映し出される。
「目標確認。」
「相対速度正常。」
「姿勢安定。」
船長は静かにモニターを見つめながら言った。
「こちらきぼう。誘導信号送信開始。」
自動誘導システムが作動すると、宇宙船は姿勢をわずかに修正しながら、まるで吸い寄せられるようにドッキングポートへ向かう。
「ガシャン。」
機体同士が確実に結合される音がステーション内へ響いた。
漏れなし。
ハッチ開放許可。
ゆっくりとハッチが開く。
その向こうから、第3クルーが一人ずつ無重力の中を滑るように移動してきた。
入口では、第1・第2クルー全員が並び、新しい仲間を迎える。
船長は笑みを浮かべながら手を差し出した。
「ようこそ、きぼうへ。」
「待っていたぞ。」
握手が交わされる。
肩を軽く叩き合う者もいる。
敬礼する者もいた。
宇宙という極限環境だからこそ、新しい仲間の到着は何より心強かった。
船長は周囲を見渡しながら静かに言う。
「これで総勢25名。」
「きぼうステーションは、ようやく設計人数へ近づいたな。」
その言葉に、多くのクルーが自然と笑顔になった。
人数増加による任務負担の軽減
第3クルーが加わったことで、ステーション全体の運用体制は見直された。
これまでは少人数で広大な施設を維持しなければならず、一人ひとりの負担は非常に大きかった。
設備点検を終えたあと、そのまま観測作業へ向かい、夜には整備作業を行うことも珍しくなかった。
しかし、25人体制となったことで状況は大きく改善される。
任務は専門分野ごとに整理され、それぞれが本来の仕事へ集中できるようになった。
新しい任務配分
実験班(15名)
無重力実験、材料実験、高分子実験など、各種研究を担当する中核部隊。
それぞれが専門分野を受け持ち、実験スケジュールにも余裕が生まれた。
外作業班(5名)
ソーラーパネルの保守、通信アンテナの点検、外壁設備の確認などを担当。
船外活動の準備にも十分な時間を確保できるようになった。
管理班(5名)
生命維持装置、水循環設備、空調、清掃、ステーション全体の保守管理を担当。
日常点検が進められるようになり、突発的な整備にも対応しやすくなった。
日本の宇宙ステーションは非常に巨大であり、人数が不足している間は一人が複数の役割を兼任することが当たり前だった。
しかし25名体制になったことで、一人あたりの作業量は目に見えて減少する。
余裕が生まれたことで、確認作業にも時間をかけられるようになり、安全性もさらに向上した。
第2クルーの科学者が笑いながら言う。
「これなら、本来やりたかった研究に集中できますね。」
隣にいた第1クルーの整備士も苦笑しながら答えた。
「やっと徹夜整備が減るな。」
これまで設備保守に追われ続けていた彼らにとって、その変化は非常に大きかった。
きぼうステーションは、ようやく本来の姿へ近づき始めたのである。
第3クルー合流後のステーションの様子
総勢25名となったことで、きぼうステーションの日常風景も少しずつ変化していった。
食堂では三つのテーブルに分かれて同時に食事ができるようになり、それぞれの班ごとにその日の実験内容や整備予定について自然と会話が交わされる。
実験室では装置の順番待ちがほとんどなくなり、研究計画も余裕を持って組めるようになった。
これまでは設備維持を優先せざるを得なかったが、今では純粋な研究へ費やせる時間が大幅に増えている。
毎日欠かせない無重力下での筋力維持訓練も十分な時間を確保できるようになり、睡眠時間も安定した。
生活リズムが整ったことで集中力も向上し、作業効率はさらに高まっていく。
整備班も計画的に保守点検を実施できるようになり、小さな異常を早期に発見して対処する余裕が生まれた。
こうして、きぼうステーションは「忙しさで手一杯の試験基地」から、「安定運用を続ける巨大研究施設」へと、一歩ずつ着実に進化していった。




