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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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376話 大切な経験

羽合近海で回収された帰還船は、厳重に管理されていた。


この船には、人類が初めて月で得たあらゆる成果が眠っている。


誰もがその価値を理解していた。


技術班は船内へ入り、まず研究サンプルの搬出作業を開始した。


最優先となるのは、月面で採取した地質試料である。


真空保存容器に密封された


月面岩石サンプル


レゴリス(表土)試料


ボーリングによって採取した深部コア


氷成分を含む特殊試料


が慎重に確認される。


技術主任がラベルを読み上げる。


「コアサンプル一号、確認。」


「密閉状態、正常。」


「輸送ケースへ移します。」


一本一本が衝撃吸収材で覆われた専用ケースへ収められ、さらに封印シールが貼られていく。


続いて、観測機器から回収された記録媒体が搬出された。


ケースの中には、


高解像度月面映像


全天周カメラ映像


月面走行中の車載映像


宇宙飛行士の音声記録


生命維持装置の運転ログ


宇宙船各部のセンサーデータ


地中レーダー測定結果


放射線量の長期観測データ


温度変化記録


通信ログ


など、膨大な量の記録が整然と収納されている。


記録担当官は一つひとつ照合しながら確認した。


「記録媒体、第十二ケース。」


さらに、ローバーから取り外された記録ユニットも運び出される。


走行コンピューター。


自己診断ログ。


航法装置。


地形解析装置。


LIDAR測定結果。


探査機との通信履歴。


これらは将来の改良に欠かせない貴重な技術資料だった。


宇宙軍の技術者が思わず呟く。


「解析は十年あっても足りないだろう。」


生活モジュールで行われた実験資料も次々と搬出される。


植物発芽実験。


耐放射線試験。


金属材料試験。


電子機器耐久試験。


宇宙食の保存記録。


船内環境データ。


宇宙飛行士の健康記録。


六日間という短い滞在だったが、その一日一日が詳細に記録されていた。


研究員はケースを抱えながら感慨深そうに言う。


「たった六日間で、これほど多くの成果を持ち帰るとは。」


すべての資料は番号ごとに整理され、厚い鋼板で補強された耐衝撃輸送ケースへ収納された。


最後に宇宙軍保安部隊が封印を確認する。


「封印番号、95。」


「確認。」


「封印番号、125。」


「確認。」


準備を終えたケースは、順番に待機していた駆逐艦へ運び込まれる。


甲板ではクレーンが動き、資料ケースが慎重に吊り上げられていく。


ゆっくりと、運搬が進められた。


駆逐艦の貨物室へ固定されたケースは、専用ラックへ一つずつ収められ、さらに固定ベルトで厳重に拘束される。


責任者が報告した。


「全資料、積み込み完了。」


「輸送準備、異常なし。」


駆逐艦の目的地は二か所。


まず一つは、帝国大学総合宇宙研究所。


ここでは月面環境そのものの解析が行われる。


地質。


鉱物。


放射線。


月面塵。


地下構造。


生命科学。


あらゆる学問分野の研究者が集まり、数年、あるいは十年以上かけて解析を進める予定だった。


もう一つは、日本軍技術研究本部・宇宙軍技術部門。


こちらでは、


宇宙船。


ローバー。


探査機。


通信装置。


生命維持装置。


耐熱材。


宇宙服。


これらの実運用データを分析し、次世代宇宙船の設計へ反映させる計画である。


月面着陸は終着点ではない。


火星、宇宙基地、さらなる宇宙探査へ続く第一歩だった。


一方、宇宙飛行士たちを乗せて帰還した帰還船も、厳重な警備のもと羽合島の宇宙軍基地へ搬送された。


基地の地下深く。


一般の兵士は立ち入ることを許されない巨大施設。


その名称は、


『宇宙軍資料館(地下保管庫)』


幾重もの鋼鉄扉を抜けた先には、温度・湿度・気圧が常に一定に保たれた広大な保管庫が広がっている。


そこにはすでに、


世界初の有人宇宙飛行で使用された一号機の帰還船と宇宙服


世界初の宇宙遊泳を成功させた二号機の帰還船と宇宙服


が保存されていた。


そして今回新たに、世界初の有人月面着陸を成し遂げた月面帰還船と六日間の月面活動を支えた三着の宇宙服が搬入される。


大型搬送車から慎重に降ろされ、専用の展示・保存架台へ据え付けられていく。


宇宙服には月面で付着した細かなレゴリスが、あえて除去されず、そのまま保存された。


帰還船の船体にも、再突入時に焼け焦げた跡が残されている。


それらはすべて、「人類が初めて月へ到達した証拠」として永久保存されることになった。


厚いガラス越しに静かに並ぶ帰還船と宇宙服。


保管庫には、空調設備のかすかな作動音だけが響いていた。


この場所の存在そのものが国家最高機密であり、その存在を知る者は宇宙軍や政府のごく限られた関係者だけだった。


一般公開されるのは、さらに技術が成熟し、日本が宇宙開発を新たな段階へ進めた、そのずっと先の時代になるのである。

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