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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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366話 月面1日目

地球への通信開始


内部点検を終えた三人は、住居モジュール中央区画に設置された通信モジュールへ移動した。


壁一面には通信制御盤が並び、その中央には地球との交信を行う通信装置が組み込まれている。


表示画面には、地球通信 待機中という文字が表示されていた。


進藤は通信装置の状態を確認する。


「送信出力、正常。」


「アンテナ自動追尾、正常。」


「月周回帰還船との中継回線も維持されています。」


長谷川は天井付近に設置された通信アンテナの状態表示を見上げた。


「高利得アンテナ固定良好。」


橘は静かに頷いた。


「よし。」


「地球へ報告する。」


三人は自然と姿勢を正した。


世界で初めて、人類が月面基地の内部から地球へ正式通信を送る瞬間だった。


橘は送信スイッチへ手を伸ばす。


カチッ。


送信ランプが緑色へ変わる。


通信回線が開く。


わずかな時間差を置いて、地球との回線が接続された。


橘はゆっくりと話し始める。


「こちら月面第一滞在班。」


「住居モジュールへの入室完了。」


「主電源起動完了。」


「生命維持装置正常。」


「通信設備正常。」


「内部点検、全項目異常なし。」


「月面基地は正常に稼働を開始した。」


「これより六日間の月面滞在任務へ移行する。」


通信が終わると、室内は静かな空気に包まれた。


返答が届くまで数秒。


やがてスピーカーから、少し遅れて地球の声が響いた。


『こちら羽合管制。』


『通信状態、極めて良好。』


『送信データを正常受信。』


『住居モジュール稼働を確認しました。』


管制室では通信担当者だけでなく、管制、宇宙軍、帝国大学の研究者たちもモニターへ集まっていた。


通信主任が報告する。


「音声、映像とも正常です。」


「月面基地との通信品質は安定維持しています。」


続いて管制主任がマイクを取った。


『月面基地運用開始、おめでとう。』


『諸君は今、人類史上初めて月面基地で生活を始めた。』


『日本中。いや、人類すべてを代表して諸君の健闘を祈る。』


通信室には自然と拍手が起こった。


三人には、気持ちが十分に伝わっていた。


橘は静かに答える。


「ありがとうございます。」


「我々は予定された全任務を完遂します。」


「以上、月面滞在班。」


通信が終了すると、送信ランプが待機状態へ戻った。


三人は互いに顔を見合わせる。


長谷川が笑った。


「地球と普通に話せるんだな。」


進藤も笑う。


「月にいる実感が少し薄れるくらいだ。」


橘は小さく頷いた。


「我々は決して孤立しているわけじゃない。」


三人は静かに頷き合った。


最初の宇宙食


橘は肩の力を抜いて笑った。


「さて。」


「人類初の月面での食事といこうか。」


長谷川も思わず笑う。


「それを待ってました。」


進藤は収納ロッカーへ向かった。


「腹も減ったしな。」


壁面収納を開くと、整然と積み重ねられた銀色の保存ケースが姿を現した。


一つひとつに番号と内容物が表示されている。


橘は今日の献立一覧を読み上げた。


「カレー風味ペースト。」


「味噌煮込み風。」


「ポテトチキン。」


「コーンスープ。」


「果物ジェル。」


「緑茶。」


「デザートは羊羹風エネルギーバー。」


長谷川は思わず笑った。


「想像してた宇宙食と全然違うな。」


進藤もケースを眺める。


「もっと味気ない物ばかりだと思ってた。」


「種類が多い。」


橘は頷いた。


「明賢様が持ってきた前世の資料のおかげだ。」


「宇宙食は味が単調だったらしい。」


「だから最初から食事を楽しめることを目標に開発された。」


長谷川は包装を開ける。


温められたカレーの香りが、室内へゆっくり広がった。


「おお。」


「普通にカレーの匂いだ。」


進藤も味噌煮込み風を一口食べる。


少し驚いたような顔になる。


「これ、本当に宇宙食?」


「味噌の風味まで残ってるよ。」


橘もポテトチキンを口へ運んだ。


「多少食感は違う。」


「だが十分うまい。」


長谷川は笑いながら言う。


「地上の食堂でも普通に出せそうだ。」


進藤も頷く。


「食感は多少独特だけど、味は完全に地球の料理だ。」


「これなら長期滞在でも飽きない。」


三人は自然と笑顔になった。


極限環境で温かい食事を囲む。


それだけで、基地の中は少しだけ家のような空気になっていた。


月面第一日目・夜


食事を終え、使用した容器を回収ボックスへ収納する。


各設備の表示を最後に確認すると、照明は夜間モードへ切り替えられた。


室内は少し落ち着いた暖色系の明るさになる。


長谷川は寝台へ腰掛けた。


「静かだな。」


進藤も耳を澄ませる。


「本当に何も聞こえない。」


外は永遠に続く真空。


風もない。


波もない。


鳥もいない。


壁一枚の向こうは、人間が一瞬で生命を失う極限環境だった。


しかしモジュールの内部には、暖かな空気が流れ、生命維持装置が静かに動き続けている。


人工の光。


人工の空気。


人工の温度。


人類が科学によって作り上げた、小さな「地球」がそこにあった。


橘は寝台へ腰を下ろし、静かに三人へ語りかけた。


「六日間。」


「この小さな基地で、人類の新しい歴史を積み重ねる。」


誰も返事はしなかった。


ただ静かに頷き、それぞれが月面で迎える最初の夜へと入っていった。

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