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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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362話 月面ローバーでの移動

それぞれが担当していた作業も、終わりに近づいていた。


最初に通信を入れたのは長谷川だった。


三脚へ固定した定点カメラの状態を確認し、手持ちのカメラも録画状態を再確認する。


記録ランプ。


バッテリー残量。


保存容量。


レンズ状態。


すべて想定の範囲内だった。


長谷川は通信ボタンを押す。


「こちら長谷川。」


少し周囲を見回しながら続ける。


「映像記録、良好。」


「国旗、着陸船、ローバー、観測装置、全て予定通り撮影完了。」


「定点カメラも正常に記録を続けています。」


管制室では映像担当が即座に確認する。


「映像リンク正常。」


「高解像度データ受信中。」


続いて進藤の声が通信へ入る。


彼女は採取ケースを丁寧に密閉し、収納バッグへ固定していた。


ケース番号を確認し、記録端末へ最終入力を行う。


「こちら進藤。」


「表層レゴリス。」


「浅層レゴリス。」


「岩石片。」


「予定していた一次採取を完了しました。」


彼女はバッグを軽く叩く。


「サンプル採取、完了した。」


羽合管制では地質学者から小さな拍手が起こった。


帝国大学の研究者たちは、受信したデータを見ながら興奮を隠せない。


「温度データ受信。」


「採取位置も想定どおりです。」


「完璧だ。」


最後に橘が周囲を見渡す。


ローバー。


観測装置。


着陸船。


すべて予定位置にある。


観測機器の表示灯はすべて緑。


通信リンクも安定していた。


橘は静かに報告する。


「こちら橘。」


「ローバーと観測装置の展開、完了。」


「各装置とも正常稼働。」


「月面観測システム、すべてオンライン。」


管制から返答が届く。


「こちら管制。」


「全任務の第一段階完了を確認。」


「素晴らしい成果だ。」


三人はそれぞれの作業場所から歩き始める。


低重力のため、歩幅は自然と大きくなる。


灰色のレゴリスに、新しい足跡が刻まれていく。


長谷川が先に到着した。


「お疲れ。」


進藤も頷く。


「そっちも順調だったみたいだな。」


橘が最後に合流する。


三人は互いの宇宙服を確認した。


酸素残量。


通信状態。


生命維持装置。


ヘルメット。


異常なし。


橘が確認を終える。


「全員問題なし。」


三人は自然と視線を遠くへ向けた。


その先には、緩やかな月の地平線が続いている。


黒い宇宙。


灰色の大地。


そして。


ゆっくりと、地平線の向こうから太陽が姿を現し始めた。


強烈な光が月面を照らす。


空気がないため、光はまっすぐ地表へ降り注ぐ。


影は驚くほど濃く、長く伸びていく。


三人の宇宙飛行士の影も、月面の上を何十メートルも伸びていた。


長谷川は思わずその光景を見つめる。


「写真じゃ伝わらないな。」


進藤も静かに頷く。


「この景色は、実際に立った者しか分からない。」


橘は青く輝く地球を見上げた。


「あそこが、俺たちの帰る場所だ。」


三人はしばらく何も言わなかった。


静かな時間だけが流れる。


やがて橘が腕時計型タイマーを見る。


「予定時刻。」


「次の行程へ移る。」


三人は揃って頷いた。


ローバーでの移動開始


採取したサンプルケース。


撮影機材。


予備バッテリー。


携行工具。


それらを一度着陸船内へ収納する。


収納ラックへ固定。


ロック確認。


輸送中に動かないことを確認する。


長谷川が最後に扉を閉めた。


「収納完了。」


橘は外へ出て、ローバーへ歩き始める。


月面探査専用ローバー。


車体は銀色。


低重心設計。


前方には幅広いバンパーが取り付けられ、障害物への接触を想定している。


車輪には、月面専用の記憶形状合金製タイヤ。


空気を使わず、金属メッシュ構造によって衝撃を吸収する。


車体後部には大型バッテリー。


その上には折り畳み式太陽光パネル。


長距離通信アンテナも搭載されていた。


小型ながら、長時間の探査活動を前提に設計された高性能探査車両だった。


橘が運転席へ乗り込む。


操作パネルを起動。


電源投入。


システム起動。


各表示灯が順番に点灯する。


長谷川と進藤も左右のサイドシートへ乗り込んだ。


低重力環境でも身体が浮かないよう、専用シートベルトを固定する。


カチッ。


三人とも固定完了。


橘はモニターを見る。


「ローバー起動。」


「通信正常。」


「バッテリー残量96パーセント。」


ナビゲーション画面を開く。


住居モジュール。


大型観測施設。


自動で最適経路が表示される。


橘が確認する。


「ナビゲーション、ルート設定完了。」


長谷川はカメラを再び構えた。


「移動中も全部撮るぞ。」


進藤は周囲を見渡す。


「月面走行データも、貴重な資料になる。」


橘が静かに操縦レバーを前へ倒した。


駆動モーターが回転する。


音は聞こえない。


しかし、ローバーはゆっくりと動き始めた。


車輪がレゴリスを踏みしめる。


灰色の砂に、新しいタイヤ跡が刻まれていく。


三人は着陸船を振り返る。


日の丸。


着陸船。


観測装置。


それらが少しずつ遠ざかっていった。


月面走行 ― 住居モジュールへ向かう


目的地は、着陸地点から約700メートル。


無人補給ミッションによって先行設置されていた、小型住居モジュール。


そして、大型観測施設。


長距離地震観測装置。


地下レーダー複合施設。


将来の月面基地建設を見据えた重要設備である。


ローバーは時速十数キロほどで進む。


低重力のため、小さな段差でも車体がわずかに浮く。


しかしサスペンションが衝撃を吸収し、滑らかに走行を続ける。


橘は慎重に操縦する。


「前方、小さなクレーター。」


「右へ二メートル回避。」


ローバーはゆっくりと進路を修正する。


長谷川は前方へカメラを向けた。


走行する映像。


車輪が砂を踏む様子。


地平線。


黒い宇宙。


地球。


全てが一本の映像として記録されていく。


「この映像だけでも、教材になるな。」


彼は車体横から外を撮影する。


回転する車輪。


舞い上がるレゴリス。


月面を走る世界初の有人ローバー。


その一瞬一瞬を逃さず記録した。


進藤は前方を指差した。


「見てください。」


橘も視線を向ける。


月面には、一直線に続く細い跡が見えていた。


タイヤ跡だった。


無人探査機が残した走行跡である。


長谷川が感心したように言う。


「ちゃんと残ってる。」


「風がないから、そのままなんだ。」


進藤は頷いた。


「無人探査機が残した車輪跡が見えるな。」


橘も静かに答える。


「ああ。」


「あれが我々の目的地への誘導路だ。」


ローバーはその車輪跡をなぞるように進む。


数分後。


遠くの地平線に、人工物らしい反射が見え始めた。


銀色の小型住居モジュール。


さらにその横には、巨大なコンテナ状の観測設備。


太陽光を受けて静かに輝いている。


長谷川はカメラをズームする。


「見えた。」


「住居モジュールだ。」


進藤も思わず笑顔になる。


「無人探査機が、ちゃんと待っていてくれた。」


橘は速度を少し落とした。


「目的地まであと100メートル。」


「慎重に接近する。」


人類初の有人月面探査隊は、未来の月面基地となる第一歩の場所へ、静かに近づいていった。

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