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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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360話 日本国旗掲揚

日本国旗掲揚


着陸船のカーゴベイがゆっくりと開き、内部に固定されていた専用収納ケースが姿を現した。


橘は慎重にロックを解除する。


「カーゴロック解除。」


電子音が鳴り、固定具がゆっくりと外れていく。


ケースの中には、今回の月面探査で最も象徴的な物の一つが収められていた。


折りたたまれた日本国旗。


そして、月面専用に設計された伸縮式ポール。


通常の旗では、風の存在しない月面では垂れ下がったままになってしまう。


そのため、旗の上部には横方向へ伸びる金属製の水平バーが組み込まれており、地球上で風を受けて広がる姿を再現できる構造となっていた。


さらに旗竿は、極低温と高温を繰り返す月面環境でも変形しないチタンを使用した特殊合金製。


先端には、固いレゴリスへ確実に差し込めるよう螺旋状の固定部が設けられている。


この一本の旗竿にも、数年に及ぶ研究成果が詰め込まれていた。


橘はケースからゆっくりと旗竿を持ち上げる。


「国旗設置作業に入る。」


長谷川は旗の左側を持ち、慎重に折り目を広げていく。


進藤は右側を支えながら、横バーの固定金具を確認した。


「横バー固定良し。」


「旗布を固定する。」


一つ一つ確認が終わる。


地球では何気ない作業でも、月面ではすべてが慎重だった。


宇宙服の分厚い手袋では細かな作業が難しい。


少しでも力を入れすぎれば、部品を傷める危険もある。


三人は訓練通り、一つ一つの動作を確認しながら進めていった。


橘は設置予定地点へ歩く。


着陸船から十数メートル。


無人探査機が事前に測量していた、比較的平坦な場所だった。


足元の砂は細かく、歩くたびに灰色の粒子がふわりと舞い上がる。


しかし、月には風がない。


舞い上がった砂はゆっくりと落下し、再び静寂へ戻る。


橘は旗竿を垂直に立てた。


「ここで固定する。」


長谷川と進藤が左右から支える。


三人は互いに目を合わせ、小さく頷いた。


橘は両手で旗竿を握る。


そして、ゆっくりと力を込めた。


ギギッ。


月面表層のレゴリスがわずかに抵抗する。


さらに押し込む。


ザクッ。


旗竿の先端が地中へ食い込み始めた。


橘は姿勢を変え、体重を預けるように押し込む。


ギギギ。


ゆっくりと、しかし確実に深く入っていく。


長谷川が固定状態を確認する。


「傾きなし。」


進藤。


「荷重均等。」


さらに数センチ。


ザクッ。


約50センチほど差し込まれたところで、橘は手を離した。


旗竿は微動だにしない。


橘は静かに言った。


「固定完了。」


その声を合図に、進藤が横バーの固定レバーを操作する。


カチッ。


収納されていた水平バーがゆっくりと左右へ広がる。


折りたたまれていた旗布も、ゆっくりと形を整えていく。


白。


そして中央には鮮やかな赤。


日本国旗が、静かに月面へ姿を現した。


風は吹かない。


それでも旗は、水平バーによって美しく広がっていた。


遠くには黒い宇宙。


その向こうには、青く輝く地球。


そして灰色の大地に立つ、一枚の日の丸。


長谷川はしばらく言葉を失った。


やがて小さく呟く。


「美しい。」


誰へ向けた言葉でもなかった。


心の底から漏れた声だった。


「宇宙で一番、美しい旗だ。」


進藤も国旗を見つめる。


宇宙服のバイザー越しでも、その表情には感動が浮かんでいた。


「月面で見る日の丸が、こんなにも違って見えるなんて。」


彼女はゆっくりと地球へ目を向ける。


青く輝く地球。


その中に日本がある。


「宇宙船のカメラでも撮影中です。」


モニターを確認しながら続けた。


「地球側でも鮮明な映像が届いています。」


「この瞬間は、未来まで残ります。」


羽合管制室では、巨大スクリーンいっぱいに国旗の映像が映し出されていた。


室内は静まり返っている。


誰もがその映像に見入っていた。


通信士が静かに報告する。


「映像受信、安定。」


記録担当。


「写真・動画ともに保存開始。」


司令官はゆっくりと頷いた。


そして明賢を見る。


明賢は画面から目を離さず、静かな声で言った。


「こちら管制室。」


「月面への日本国旗掲揚を確認した。」


さらに続ける。


「よくやった。」


その声は穏やかだった。


しかし、長い年月をかけて積み上げてきた努力が、ようやく実を結んだことへの深い感情が込められていた。


「全員、誇りに思う。」


通信を聞いた三人は、互いに頷き合う。


橘がゆっくりと言った。


「ありがとうございます。」


「この旗は、ここへ来た全ての人々の努力の象徴です。」


「私たちは、その代表として立っているにすぎません。」


長谷川がカメラを三脚へ固定する。


セルフタイマーを起動。


画角を細かく調整する。


背景には日本国旗。


その奥には着陸船。


さらにその上には、

漆黒の宇宙。


そして、地平線の向こうに青い地球。


進藤が位置を微調整する。


「少し左です。」


「あと半歩。」


「その位置で。」


橘は中央へ立つ。


長谷川が左。


進藤が右。


三人は静かに国旗の前へ整列した。


胸を張り、静かに立った。


月面という静寂の世界にふさわしい、落ち着いた記念写真だった。


カメラのランプが点滅する。


ピッ。


カメラが、この瞬間を永久に記録した。


人類初。


世界初。


そして日本初となる、月面での公式記念写真。


その一枚は、歴史書に必ず掲載される、人類史を象徴する写真となった。


月面活動 三者三様の任務開始


記念撮影を終えたあとも、三人はしばらく国旗を見つめていた。


静かな時間だけが流れている。


やがて橘が腕時計型タイマーを確認する。


「予定時刻との差、15秒。」


その言葉で、三人は再び任務へ意識を切り替えた。


橘は全員を見回す。


「よし。」


短く頷く。


「予定通り分かれる。」


腰の作業端末を確認しながら続けた。


「長谷川は映像記録。」


「進藤はサンプル採取。」


「私はローバー準備と観測装置の設置に入る。」


長谷川が笑って親指を立てる。


「了解。」


進藤も静かに返答した。


「了解。」


三人は最後に互いの宇宙服を目視点検する。


酸素正常。


通信正常。


生命維持装置正常。


安全索異常なし。


異常なし。


橘が最後の確認を告げた。


「個別任務を開始する。」


月面の静寂の中で、三人はゆっくりと別々の方向へ歩き始めた。


人類初の月面探査は、いよいよ本格的な活動段階へと入っていった。

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