↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

357/428

357話 月面着陸成功

最終自動降下


月面まであとわずか。


着陸船は予定された着陸地点の真上で、最後の降下段階へ入ろうとしていた。


窓の外には、灰色の大地がどこまでも広がっている。


大小の岩。


細かなクレーター。


探査機「月影」が測量した、人類が最も安全と判断した着陸地点だった。


船内では誰も話さない。


三人とも、計器だけを見つめている。


着陸船の操縦桿には誰も手を触れていない。


この着陸は、人間の操縦ではない。


やがて、船内スピーカーから落ち着いた声が聞こえる。


「最終降下。」


機械音声が続く。


「姿勢安定。」


さらに。


「接地予測まで15秒。」


橘は高度計を見つめる。


数値は静かに減少していく。


高度50メートル。


45。


40。


35。


そして。


高度30メートル。


着陸コンピューターは瞬時に推力を再計算する。


降下速度。


機体重量。


推進剤残量。


月の重力。


風は存在しない。


そのため計算は極めて精密だった。


次の瞬間。


降下スラスターの噴射がわずかに弱まる。


ほんの少しだけ。


着陸船はゆっくりと減速を続けた。


同時に、着陸脚内部では油圧システムが切り替わる。


着陸衝撃吸収モード。


シリンダー内部の圧力が調整され、接地の瞬間に備えてダンパーが柔らかくなる。


長谷川が表示を確認した。


「着陸脚油圧、正常。」


「衝撃吸収モード移行完了。」


進藤は誘導画面を見つめる。


「着陸地点誤差、20センチ以内。」


「誘導ビーコン、正常受信。」


橘は短く答えた。


「続行。」


高度20メートル。


15メートル。


着陸船はまるで空中へ静止しているような速度で降下していく。


高度10メートル。


降下エンジンの噴射が月面へ届き、灰色のレゴリスが四方へ勢いよく吹き飛ばされる。


細かな粒子が低い放物線を描きながら、静かに地面を滑っていく。


窓の外は一瞬、灰色の粒子で覆われた。


進藤は思わず呟く。


「砂が。」


長谷川も画面を見つめたまま言う。


「探査機の実験データ通りだ。」


降下はさらに続く。


高度8メートル。


6メートル。


4メートル。


船体はほとんど揺れない。


誘導コンピューターは、着陸脚一本一本へ掛かる荷重まで予測し、推力を絶えず微調整していた。


高度2メートル。


音声が再び流れる。


「接地直前。」


メインエンジンの燃焼は、最小推力まで絞られた。


推力は、着地の衝撃を限界まで小さくするためだけに使われていた。


船内には、装置の低い駆動音だけが響いていた。


誰もが息を呑む。


全員が、その瞬間だけを待っていた。


着陸


そして。


コトン。


本当に小さな衝撃だけが、船体全体へ伝わった。


着陸脚のダンパーが静かに沈み込み、そのままゆっくりと元の位置へ戻る。


機体は小さく揺れる。


静止した。


音声が淡々と告げる。


「着陸完了。」


橘。


進藤。


長谷川。


三人は互いの顔を見る。


そして、何も言わずに小さく頷き合った。


それだけで十分だった。


人類は今、初めて月面へ降り立った。


しかも、日本が開発した完全自動着陸システムによって。


羽合コントロールセンターでは、着陸確認ランプが緑色へ変わる。


軌道解析班。


通信班。


推進班。


全員が同じ表示を見つめていた。


やがて司令官がゆっくりと立ち上がる。


「着陸確認。」


その一言を合図に、室内の空気が一気に変わった。


数百名のスタッフが一斉に立ち上がる。


誰かが拍手を始める。


その拍手は少しずつ広がり、やがて管制室全体を包み込んだ。


誰もが、この歴史的瞬間を噛みしめるように静かに喜んでいた。


中央に立つ明賢は、巨大スクリーンを見つめたまま、ゆっくりと息を吐く。


長く張り詰めていた緊張が、ようやく解けた。


そして静かに言った。


「月面着陸、成功だ。」


その言葉を聞いた瞬間、管制室の拍手はさらに大きくなる。


この日。


人類は前世の歴史より三百年以上早く、月面へ到達した。


しかも、世界最高水準の自動着陸技術によって、ほぼ誤差ゼロの着陸を実現したのである。


着陸直後


着陸船の中では、再び静かな時間が流れていた。


あるのは、装置が発する低い駆動音だけだった。


ブゥーン。


その一定の音だけが、船内へ静かに響いている。


長谷川が最初に口を開く。


「着陸脚、状態チェック入ります。」


計器盤には、4本の着陸脚それぞれの状態が表示されていた。


第一脚。


第二脚。


第三脚。


第四脚。


正常。


さらに油圧。


固定ロック。


ダンパー。


荷重分布。


全てが正常値を示している。


長谷川は確認を終える。


「着陸脚、異常なし。」


「油圧正常。」


「固定ロック正常。」


「姿勢制御系統、異常なし。」


続いて進藤が外部センサーを確認する。


月面との接地角度。


船体傾斜。


外殻応力。


全て正常だった。


「外部気圧センサー異常なし。」


彼女は少し笑って答える。


「もちろん真空ですが。」


長谷川も苦笑する。


進藤は続けた。


「船体歪み、確認されず。」


「外壁損傷、なし。」


橘も生命維持装置を確認する。


「酸素循環正常。」


「船内気圧、安定。」


「二酸化炭素除去装置、正常作動。」


三人の報告は、一つずつ地球へ送られていく。


その後ろでは、羽合管制センターが一言一句聞き漏らさないよう記録していた。


やがて地球から通信が入る。


「こちら管制。」


司令官の声だった。


「着陸船の状態良好を確認。」


次の指示が送られる。


「ローバー展開に移行せよ。」


その言葉を聞き、三人は再び顔を見合わせる。


いよいよ次は、人類が月面へ足を踏み出す段階だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。