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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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347話 にほんのロケット

羽合宇宙センター


1647年、夏。


太陽が水平線の彼方へ沈み、羽合宇宙センターは静かな夜を迎えていた。


しかし、その静けさとは裏腹に、施設の内部では最後の準備が一秒たりとも止まることはなかった。


発射場に並ぶ二本の超大型ロケット。


月面探査機先行投入計画「月影」。


有人月面着陸計画「月読命」。


投光器の白い光に照らされた機体は、まるで夜空へ挑もうとする二本の巨塔だった。


ロケット組立棟 最終点検


組立棟の中では、数百人の技術者が持ち場につき、最後の確認を続けていた。


「燃料ライン、圧力正常!」


「液体酸化剤温度、規定範囲内!」


「ターボポンプ回転試験、異常なし!」


「誘導コンピュータ、自己診断終了!」


巨大なロケット内部では、点検員が狭い配線区画を移動しながら一本一本のケーブルを確認していく。


「月面着陸船、通信系統オールグリーン!」


「生命維持装置、二重系統とも正常!」


「電源切替試験、問題なし!」


報告が次々と飛び交う。


月面着陸船「月読命」は、日本が独自に開発した耐熱複合材で外壁を覆われていた。


再突入にも耐えられる耐熱性能。


月面の昼夜の激しい温度差にも対応する断熱構造。


そして船体下部には、幾度となく破壊試験を繰り返して完成した四本の着陸脚が静かに折り畳まれている。


若い技術者が着陸脚を見つめながら呟く。


「何十本壊したかな。」


隣の主任技師が笑う。


「数えるのは途中でやめた。」


「その分だけ、この一本は強い。」


二人は静かに頷いた。


別の区画では、月面ローバーの最終点検が進められていた。


三台構成の月面探査車。


一号車は地質調査用。


二号車は長距離探査用。


三号車は資材輸送兼観測支援用。


それぞれに、


耐低温8K撮影カメラ

日本製長距離走行ホイール

地形解析コンピュータ

自律航法装置

太陽光発電システム

大容量蓄電池


が搭載されている。


技術者が一台の車体を軽く叩いた。


「月でも頑張れよ。」


周囲から小さな笑いが起きる。


誰もが機械ではなく、仲間を送り出すような気持ちでローバーに触れていた。


羽合宇宙センター中央管制室。


巨大なスクリーンには二本のロケットの状態が並んで表示されている。


燃料残量。


配線状態。


通信リンク。


天候。


風速。


潮流。


数千ものデータがリアルタイムで更新され続けていた。


そこへ明賢が静かに入室する。


「明賢様。」


誰かが小さく声を上げる。


室内の全員が自然と姿勢を正した。


明賢は中央モニターを見上げ、しばらく何も言わなかった。


十年以上。


いや、それ以上前から始まった計画。


失敗した模型。


破壊された試作品。


眠れない夜。


ようやく、すべてがここまで来た。


明賢は静かに口を開く。


「長かったな。」


誰も言葉を挟まない。


「だが、ようやく」


「人類が初めて月へ手を伸ばす計画が動き出す。」


その一言だけで、管制室の空気がさらに引き締まった。


明賢は全員を見渡す。


「月面探査機計画『月影』は、先行して月面へ降り立ち、観測基地を築く。」


「そして有人月面着陸計画『月読命』は、その成果を受け継ぎ、人類を月面へ送り届ける。」


「どちらが欠けても、この計画は完成しない。」


「二つで一つだ。」


全員が静かに頷く。


「諸君。」


「最後まで気を抜くな。」


「成功は、最後の一秒まで確定しない。」


「だからこそ、一秒最後まで全力を尽くそう。」


「了解!」


管制室に力強い返答が響いた。


発射台


夜。


発射台では巨大ロケットへ液体酸素と液体水素がゆっくりと充填され続けていた。


極低温の推進剤により、機体表面には白い霜が広がる。


やがて冷却用の液体窒素が大量に噴き出し、足元は白い霧に包まれていった。


ゴォォォ……


白煙は発射台全体を覆い、投光器の光を受けて幻想的な光景を作り出す。


まるで巨大な神殿の中に二柱の神が立っているようだった。


夜間警備の宇宙軍隊員が思わず立ち止まり、見上げる。


「大きい。」


隣の整備士が静かに答えた。


「あれが月へ行く。」


「俺たちが作ったロケットだ。」


二人はしばらく無言で見上げ続けた。


翌朝。


1647年、夏。


夜明けとともに宇宙センター全体へ配置命令が発令される。


宇宙軍。


空軍。


帝国大学。


文部科学省。


海軍回収部隊。


すべての部署が最終配置についた。


巨大スクリーンには、二つの計画名が並ぶ。


月面探査機先行打ち上げ計画「月影」


有人月面着陸計画「月読命」


宇宙軍創設以来、最大規模。


そして、人類史上かつてない挑戦。


二本の巨大ロケットは静かに空を見上げていた。


その発射まで、残された時間は、あとわずかだった。

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