343話 宇宙軍式典
明賢の演説
式典会場を満たしていた拍手は、やがてゆっくりと静まり返っていった。
壇上中央へ歩み出た明賢は、六人の宇宙飛行士を一人ひとり見渡した。
その視線には、最高司令としての厳しさと、彼らが無事に帰還したことへの深い安堵が宿っていた。
やがて静かに口を開く。
明賢
「諸君。我々、人類は古くから空を見上げ、鳥のように飛ぶことを夢見てきた。やがて海を越え、大陸を越え、世界を結ぶようになった。しかし、宇宙だけは違った。誰一人として辿り着いたことのない、人類最後の境界であった。」
会場は水を打ったように静まり返る。
明賢は続けた。
「今日ここにいる六名は、その境界を初めて越えた者たちだ。天城、大江、徳川。君たちは人類で初めて宇宙へ到達し、そして無事に帰還した。四条、島津、和泉。君たちはその偉業をさらに前へ進め、人類で初めて宇宙空間へと身を躍らせ、宇宙で活動するという新たな歴史を築いた。」
六人は静かに姿勢を正した。
明賢は一歩前へ進む。
「歴史とは、紙に書かれるから歴史なのではない。命を懸けた者たちが、未来へ道を切り拓くことで生まれるものだ。諸君はまさに、その道を最初に歩いた。」
ただ真っ直ぐに壇上を見つめていた。
明賢は少しだけ表情を和らげる。
「世界や国内はまだ、この偉業を知らない。今は秘密だ。誰にも語ることはできない。新聞にも載らない。歓声も、凱旋パレードもない。」
一瞬、会場に重い空気が流れる。
しかし明賢は力強く続けた。
「だが、それでいい。歴史とは、今この瞬間に評価されるものではない。百年後でもいい。二百年後でもいい。真実が語られるその時、世界は必ず知ることになる。誰が最初に宇宙へ行ったのか。誰が最初に宇宙を歩いたのか。そして、そのすべてを成し遂げたのが、ここにいる六名であったことを。」
六人の胸が熱くなる。
会場にいた研究者たちも、静かに目頭を押さえていた。
明賢はゆっくりと壇を降り、宇宙飛行士たちの前まで歩み寄る。
そして深く頭を下げた。
「諸君。国家を代表して、そして一人の技術者として礼を言う。誇りに思う。本当によくぞ帰ってきてくれた。」
その瞬間。
六人の宇宙飛行士は同時に敬礼した。
目には涙が浮かんでいたが、誰もそれを拭おうとはしなかった。
会場中から、静かで長い拍手が湧き上がる。
その拍手は決して大きくはない。
しかし、そこには最大限の敬意と感謝が込められていた。
勲章授与
司会が静かに告げる。
「これより、日本国最高科学功労章授与式を執り行います。」
会場後方の扉がゆっくりと開き、後光明天皇が皇太子とともに入場された。
参列者全員が一斉に起立し、深く頭を下げる。
天皇は壇上へ進み、六人の宇宙飛行士の前で足を止めた。
侍従が銀盆を運び、その上には六つの勲章が並んでいる。
純銀と純金を用いて作られた特別製。
中央には日の丸を象徴する紅玉が埋め込まれ、周囲には八咫鏡を意匠とした細かな彫刻が施されていた。
この日のためだけに、宮中御用達の職人が一つひとつ手作業で仕上げたものである。
後光明天皇は最初の勲章を手に取った。
「天城隼人。」
天城が一歩前へ出る。
胸に勲章が取り付けられる。
「汝の勇気と功績を、日本国は永く称える。」
続いて大江。
徳川。
四条。
島津。
和泉。
六人全員へ、一人ずつ丁寧に勲章が授与された。
授与が終わると、天皇は六人を見渡し、穏やかな声で語りかけた。
後光明天皇
「諸君は、日本国の未来だけではなく、人類の未来を切り拓いた。その勇気と献身は、時代を超えて語り継がれるべきものである。国は諸君を誇りとする。」
六人は深く敬礼した。
会場には再び大きな拍手が響き渡る。
研究者も、空軍将校も、宇宙軍幹部も、皆が惜しみない拍手を送り続けた。
記念撮影
式典はいよいよ最後の時間を迎える。
壇上前方にはカメラが据えられ、撮影班が最後の準備を整えていた。
司会官が呼びかける。
「記念撮影を行います。」
中央最前列には宇宙飛行士六名。
胸には授与されたばかりの勲章が輝いている。
その後方には、明賢。
皇太子。
空軍司令。
宇宙軍司令。
さらに左右には、帝国大学の主任研究者や宇宙開発計画の責任者たちが並んだ。
後光明天皇も中央に立ち、静かに六人を見つめる。
撮影係が焦点を合わせた。
「皆様、そのまま動かないようにお願いします。」
六人は自然と笑みを浮かべる。
緊張の中にも、任務を終えた者だけが持つ穏やかな表情だった。
撮影係がゆっくりと声を上げる。
「日本初の宇宙飛行士、そして世界初の宇宙飛行士の皆様。撮影いたします。」
閃光。
カシャッ。
歴史的一枚が、静かに記録された。
写真は、最高機密文書として厳重に封印される。
耐火・耐湿仕様の保管箱へ収められ、地下深くの機密資料保管庫へ移送された。
閲覧できる者は、明賢、後光明天皇、そして宇宙計画最高責任者のみ。
外部へ公開されることはない。
その写真が世界の人々の目に触れるのは、歴史の真実が明かされる時代を待つことになる。




