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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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340話 帰るまでが任務

船内へ帰還


宇宙遊泳開始から、すでに約12分が経過していた。


四条はなおも宇宙空間に浮かんでいた。


背後には青い地球。


眼下には白い雲の帯。


視線を動かせば、どこまでも続く黒い宇宙。


時間の感覚さえ薄れていくような、静寂の世界だった。


しかし。


任務には終わりがある。


どれほど美しい景色でも、どれほど歴史的な瞬間でも、帰還しなければならない。


管制室から通信が入る。


「四条、帰還許可。」


「エアロックへ戻れ」


四条は、しばらく地球を見つめた。


青い惑星。


今まで地上からしか見たことのなかった故郷。


その全てが、自分の足元に広がっている。


そして、ゆっくりと答えた。


「了解。」


「帰還する」


その声には、先ほどまでの高揚感は少なかった。


代わりに、任務を終えた者だけが持つ静かな充実感があった。


四条は安全を確認する。


腰の固定具。


命綱。


生命維持装置。


全て正常。


ゆっくりと腕を伸ばし、命綱を手繰り始めた。


宇宙船が少しずつ近づいてくる。


白い船体。


銀色の手すり。


開いたままのエアロック。


和泉の声が聞こえる。


「距離三メートル。」


「姿勢良好。」


島津。


「そのままでいいです。焦らないでください」


四条は頷いた。


宇宙では、焦りは禁物だった。


ほんの小さな動きが、大きな回転を生む。


手を伸ばし、船体の取っ手を掴む。


グローブ越しに、金属の感触が伝わった。


「よし」


小さく呟く。


そして、ゆっくりと身体を引き寄せた。


エアロックの入り口へ。


頭。


肩。


腕。


身体。


足。


慎重に、本当に慎重に。


宇宙服が船体へぶつからないよう、少しずつ身体を収めていく。


和泉がモニターを見つめる。


「頭部、通過。」


「右肩、通過。」


「生命維持ユニット、接触なし。」


島津も息を詰めていた。


「あと少し。」


四条は最後にもう一度、外を見た。


青い地球。


黒い宇宙。


そして、自分が先ほどまで浮いていた場所。


そこには何もない。


だが、確かに人類はそこへ立った。


四条は小さく微笑んだ。


そして。


身体を完全にエアロック内へ収めた。


「入った。」


和泉。


「エアロック閉鎖!」


島津。


「外扉閉鎖開始!」


モーター音が響く。


重いハッチがゆっくりと閉じていく。


金属と金属が噛み合い、最後に鈍い音を立てた。


ガコン。


完全閉鎖。


続いて、加圧が始まる。


空気が送り込まれる。


計器の針が動く。


0。


0.1。


0.2。


少しずつ、人が生きられる環境へ戻っていく。


和泉。


「加圧進行中。」


島津。


「気圧上昇中。」


数十秒後。


緑色のランプが点灯した。


圧正常。


和泉が深く息を吐く。


「加圧、完了。」


島津。


「エアロック正常。」


四条はしばらく何も言わなかった。


ただ、壁に手をつき、静かに呼吸を整える。


そして。


ゆっくりと顔を上げた。


「帰還。」


「任務完了だ」


その瞬間だった。


羽合管制センター


巨大スクリーンの前で、数秒の沈黙が生まれる。


そして。


誰かが拍手した。


歓声が爆発した。


管制官が立ち上がる。


通信士が両手を突き上げる。


記録担当が涙を拭う。


宇宙軍士官同士が固く握手する。


拍手。


歓声。


安堵。


興奮。


全てが一気に噴き出した。


明賢だけは、静かにスクリーンを見つめていた。


そして、ゆっくりと頷いた。


「これで、日本は宇宙へ到達した国から」


「ついに宇宙空間を活動領域に持つ国へ昇格した。」


室内が静まる。


全員が、その言葉を聞いていた。


明賢はスクリーンに映る四条を見つめたまま言った。


「歴史の転換点だ」


人類は、宇宙で活動した。


宇宙船の外へ出て、宇宙そのものを歩いた。


たった12分。


しかし、その12分が、人類の未来を変えたのだった。


2号機:宇宙遊泳成功後の周回飛行


宇宙遊泳を終えた2号機は、依然として地球上空約350kmを周回していた。


速度は時速約2万7千km。


窓の外では、地球が静かに流れていく。


先ほどまで船外にいた四条は、再び座席へ戻っていた。


宇宙服を固定し、ようやく小さく息を吐く。


和泉は、先ほどの映像を何度も再生していた。


四条が宇宙へ出る瞬間。


地球を背景に浮かぶ姿。


手を振る姿。


どれも現実感がない。


和泉は小さく言った。


「何度見ても鳥肌が立ちますね。」


四条も映像を見る。


そして少し照れくさそうに笑った。


「自分でも信じられない。」


島津は記録装置を確認しながら答える。


「でも、気を抜かないでください。」


画面から目を離さず続ける。


「これからは、安全に帰還するというもう一つの使命があります。」


四条は、すぐに表情を戻した。


「分かってる。」


「帰還してこそ、初めて成功だ。」


三人は静かに頷いた。


宇宙遊泳という、人類史上最大級の出来事を成し遂げた直後だった。


それでも。


浮かれない。


役割を忘れない。


それが、日本が選び抜いた宇宙飛行士たちだった。


再突入準備


再突入予定時刻まで、残り90分。


四条が通信回線を開く。


「こちら2号機。」


静かな声が管制室へ届く。


「周回飛行、予定通り完了。」


そして続ける。


「これより再突入の準備に入る。」


管制官が即座に応じる。


「了解。」


「軌道補正プログラム送信済み。」


「指示通りに姿勢制御を進めよ。」


和泉は耐熱シールドのデータを確認する。


温度。


圧力。


次々と数字が流れる。


「耐熱値、正常。」


「スラスタ反応異常なし。」


さらに確認する。


「再突入角度、予定軌道に入りました。」


島津も記録装置を確認する。


「映像記録正常。」


「宇宙遊泳データ、完全記録。」


そして頷く。


「全データ保存しています。」


船内は静かだった。


先ほどまでの興奮が、少しずつ落ち着いていく。


四条は窓の外を見た。


青い地球。


黒い宇宙。


その両方を見つめながら、ゆっくりと言った。


「では。」


「帰還する。」


そして、静かに続けた。


「歴史上初の宇宙遊泳ミッション」


三人が互いを見る。


「完遂して、地表に戻る。」

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