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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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335話 再突入成功

通信ブラックアウト


司令室では、突然すべての音が消えたような感覚に包まれていた。


数秒前まで、AMATERASU-Ⅰからはっきり届いていた三人の声。


その全てが、今は聞こえない。


スピーカーから流れているのは、ただ一つ。


ザーッ。


途切れることのない、白い雑音だけだった。


巨大スクリーンには、AMATERASU-Ⅰを示す光点が表示されている。


だが、それ以外の情報はほとんどない。


外壁温度。


心拍。


船内音声。


映像。


全てが途絶していた。


通信士が、緊張した声で報告する。


「AMATERASU-Ⅰ、応答なし。」


「ブラックアウトに突入。」


その言葉だけが、静まり返った司令室へ落ちた。


誰かが息を飲む音が聞こえた。


誰かが拳を握る。


誰かが無意識に祈るように両手を組む。


しかし、誰も言葉を発しない。


この時間だけは、地上から何もできない。


手を伸ばすことも。


助けることも。


指示を出すことも。


できない。


ただ待つだけだった。


巨大スクリーンの前で、明賢は静かに腕を組んでいた。


表情は変わらない。


しかし、その目は一度も軌道表示から離れない。


三人は今、数千度の炎の中にいる。


人類がまだ、誰一人経験したことのない領域。


そこへ、自分たちは送り出した。


長い沈黙の後。


明賢が、小さく口を開いた。


「信じるしかない。」


誰へ向けた言葉なのか、分からなかった。


三人へ向けてか。


技術者へ向けてか。


それとも、自分自身へ向けてか。


彼は静かに続けた。


「我が国の科学を。」


その言葉を聞き、誰もが再びスクリーンへ視線を戻した。


信じるしかない。


それが、今の全員にできる唯一のことだった。


その頃。


AMATERASU-Ⅰは、炎に包まれながら降下を続けていた。


船体前方は、完全な白。


窓の外は、光しかない。


色が激しく変化し続けている。


船体全体が、まるで巨大な炉の中へ投げ込まれたようだった。


振動も激しい。


ガガガガ。


ゴゴゴゴ。


断続的な衝撃が、座席へ伝わる。


身体は重い。


胸へ、何倍もの重さがかかる。


呼吸するだけでも力がいる。


しかし、AMATERASU-Ⅰは姿勢を崩さない。


船体下部では、姿勢制御スラスターが、プログラム通り正確に作動していた。


シュッ。


シュッ。


小さな噴射。


わずかな修正。


しかし、そのわずかな修正が、生死を分けている。


突入角。


機首の向き。


回転。


横滑り。


全てが、許容範囲内へ保たれていた。


宇宙船は、大気を切り裂きながら、着実に降下を続けていく。


時間の感覚が、曖昧になっていた。


数秒なのか。


数分なのか。


やがて。


玲花が、ふと表示パネルを見た。


そして、目を見開く。


数字は、確かに変化していた。


玲花が声を上げる。


「機体温度低下!」


その声に、隼人と徳川が計器へ目を向ける。


表示が変わる。


「1200度!」


さらに。


「900度!」


玲花の声に、わずかな喜びが混じった。


「下がってる!」


徳川も、すぐに気圧計を見る。


「気圧増加!」


数値が上がっている。


それは、大気のある場所へ戻ってきた証拠だった。


徳川が続ける。


「ここからは滑空モードに移行する!」


船体の振動が、少しずつ変わる。


先ほどまでの激しい震えではない。


まだ揺れる。


だが、明らかに違う。


窓の外の光も、変化していた。


白。


赤。


そして。


薄い青が、少しずつ見え始める。


さらに。


青空。


白い雲。


地球の色。


玲花が、思わず息を漏らした。


「空だ。」


徳川も、窓へ目を向ける。


「帰ってきた。」


隼人は、前方を見たまま言った。


「通信回復まで10秒。」


全員が、数字を見つめる。


3。


2。


1。


ピピピッ!


電子音。


その瞬間。


三人が同時に顔を上げた。


通信復活。


スピーカーから、聞き慣れた声が飛び込んでくる。


「こちら地上!AMATERASU-Ⅰ!状況を報告願います!」


司令室の声だった。


それを聞いた瞬間。


三人の表情が、初めて大きく緩んだ。


隼人が、すぐに通信ボタンを押す。


「こちらAMATERASU-Ⅰ!」


「再突入成功!」


司令室。


全員が息を止める。


隼人が続ける。


「予定通りのアプローチ角で下降中!」


その瞬間だった。


司令室が、爆発した。


「やった!」


「成功だ!」


「通信回復!」


「再突入成功!」


歓声。


拍手。


泣き声。


誰かが椅子から立ち上がる。


誰かが抱き合う。


誰かが涙を拭う。


静寂に包まれていた司令室は、一瞬で歓喜の渦になった。


その中で。


明賢だけが、静かに息を吐いた。


そして、小さく頷いた。


「よく帰ってきた。」


高度は、どんどん下がっていく。


窓の外では、太平洋の青がはっきりと見え始めていた。


さっきまで宇宙にいたことが、嘘のようだった。


白い雲。


青い海。


水平線。


その全てが、ゆっくりと近づいてくる。


玲花が計器を読む。


「降下姿勢安定。」


数値を確認。


再確認。


「減速用パラシュート展開高度まで、あと少し!」


徳川も、機体各部を確認し続ける。


「水上滑走装置正常。」


別の表示へ目を移す。


「衝撃吸収装置、問題なし!」


隼人が、高度計を見つめる。


数字が減っていく。


一秒。


また一秒。


やがて。


目標高度へ到達した。


隼人が、静かに言う。


「よし。」


「パラシュート展開高度到達。」


彼はレバーへ手を伸ばした。


そして。


「パラシュート展開!」


レバーを引く。


次の瞬間。


ドンッ!


大きな衝撃。


身体が、前へ引っ張られる。


船体が大きく揺れる。


しかし、すぐに安定した。


背後では、巨大なドラッグシュートが開いていた。


白い布が大きく膨らみ、太平洋の空に広がっていく。


速度が、急速に落ち始めた。


AMATERASU-Ⅰは、人を乗せたまま。


安定した速度で、青い海へ向かって降下を続けた。

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