↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

333/429

333話 地球周回観察

宇宙船切り離し


高度は既に300kmへ到達し、予定の軌道投入高度に近づいていた。


隼人が確認する。


「切り離し。3、2、1、分離!」


バンッ。


船体全体に小さな衝撃が伝わる。


次の瞬間、ロケット第2段から宇宙船がゆっくりと離れていった。


AMATERASU-Ⅰは、慣性のまま静かに前進する。


もうエンジンの振動もない。


音もない。


あるのは、計器の電子音だけだった。


そして窓の向こうには巨大な地球。


白い雲が幾重にも渦を巻き、青い海が果てしなく広がり、大陸の輪郭がゆっくりと流れていく。


玲花が小さく息を漏らした。


「地球、綺麗すぎる」


徳川も窓に顔を向けたまま呟く。


「本当に浮いてる」


隼人はしばらく何も言わなかった。


目の前にあるのは、地図でも写真でもない。


自分たちの故郷そのものだった。


無重力


隼人がゆっくりとシートベルトを外す。


その瞬間身体がふわりと浮き上がった。


玲花も、徳川も、次々に座席から離れる。


誰もが反射的に空中で手を動かした。


しかし、どこにも上も下もない。


身体は、思うままに漂っていく。


玲花が思わず笑った。


「無重力!思ったより不思議!」


徳川も恐る恐る壁を押す。


すると身体が反対側へ滑っていった。


「うわっ!身体が勝手に動く!」


隼人もゆっくりと姿勢を変える。


「これが宇宙か。」


三人は壁を押して移動し、ゆっくりと回転しながら、それぞれ窓の前へ集まった。


誰もが、ただ地球を見つめていた。


宇宙からの通信


隼人が通信回線を開く。


「こちらAMATERASU-Ⅰ。宇宙船本体、無事分離。三名とも無重力状態に適応中。全システム正常。我々は、世界初の宇宙飛行士だ。」


その声は、衛星通信を経由して羽合へ届いた。


司令室。


誰一人として口を挟まない。


全員が、宇宙から送られてくる声を静かに聞いていた。


やがて司令官が応答する。


「AMATERASU-Ⅰ。こちら司令室。諸君は今、全世界で初めて宇宙と交信している。状態を報告せよ。」


玲花が窓の外を見たまま答える。


「地球が視界いっぱいに広がっています。青くて、本当に青くて、涙が出ます」


徳川も答える。


「機体環境は安定。視界は良好で、すみません。言葉が出ません。」


隼人が最後に報告する。


「問題なし。これより、90分間の周回飛行へ入る。」


巨大モニターには、AMATERASU-Ⅰの軌道が青い線で表示されていた。


その光点は、人類史上初めて、人を乗せて地球を周回している。


司令室には、再び静かな沈黙が広がっていた。


誰もが、歴史が今この瞬間に生まれていることを、胸の奥で噛みしめていた。


地球周回飛行:1周目


AMATERASU-Ⅰは高度約300kmで安定軌道に乗った。


速度は時速約27,000km。


90分で地球を一周する、人類が初めて体験する超高速飛行だった。


隼人が計器を確認する。


「軌道速度、安定。予定通りの周回軌道へ移行。これより1周目に入る」


機体は静かだった。


エンジン音もない。


振動もない。


ただ、地球だけが窓の外をゆっくりと流れていく。


青い海。


白い雲。


そのすべてが、丸みを帯びた地平線の上に広がっていた。


玲花が窓に手を添える。


「太平洋がこんなに広いなんて」


しばらく言葉を失い、やがて小さく呟いた。


「地球って、本当に丸かったのね」


徳川は宙に浮いたまま、カメラのシャッターを切り続ける。


カシャッ。


カシャッ。


「雲の影までくっきり見える。これは、地上では絶対に見られない」


写真を撮る手が、わずかに震えていた。


新大陸上空


地球の自転と、宇宙船の公転。


その組み合わせによって、AMATERASU-Ⅰは新大陸上空へ差しかかる。


窓の外には、巨大な大地が広がっていた。


山脈。


河川。


海岸線。


そして、ところどころに小さな光。


玲花が航法図と窓の外を見比べる。


「新大陸全体が視界に入ってきました。日本が開発している都市区画です。」


徳川も窓へ近づく。


「雲の谷間から街の光が見える。夜の区画だ」


人類は初めて、宇宙から自分たちの都市を見ていた。


羽合宇宙センター。


司令室の巨大スクリーンには、宇宙船の現在位置が映し出されている。


明賢は腕を組んだまま、何も言わない。


新大陸。


数々の開発。


海を越え、積み上げてきたもの。


それが今、宇宙から確認されている。


誰も、その事実の重みを言葉にできなかった。


日没


やがて、AMATERASU-Ⅰは地球の影へ入った。


その瞬間、外の光が消えた。


突然の暗闇。


青かった地球が、深い黒へ溶け込む。


そして、次の瞬間。星々が現れた。無数の光。


黒い宇宙に、数え切れないほどの星が静かに輝いていた。


隼人が息を呑む。


「宇宙の夜に入った。照明を弱める。」


船内の灯りが落ちる。


すると、星の数はさらに増えた。


玲花も、徳川も、ただ、窓の外を見つめていた。


日の出


約10分後。


地平線の端に、細い光が現れた。


橙色。


次第に黄色へ。


そして、閃光。


猛烈な輝きが、船内へ差し込んだ。


玲花が思わず目を細める。


「宇宙からの日の出」


光は、地球の丸みに沿ってゆっくりと広がっていく。


黒い宇宙。


青い地球。


その境界に、淡く輝く青い縁。


まるで、地球そのものが光を纏っているようだった。


人類で初めて、宇宙から見る朝を迎えていた。


周回飛行:2周目


AMATERASU-Ⅰは静かに地球を周回し続けていた。


高度は依然として約300km。


窓の外では青い地球がゆっくりと流れ、黒い宇宙との境界がくっきりと浮かび上がっている。


2周目に入ると、事前に計画されていた軌道調整が始まった。


姿勢制御スラスターが短く噴射され、船体にわずかな振動が伝わる。


ゴッ。


ほんの一瞬の振動だった。


しかし無重力状態では、その小さな衝撃ですらはっきりと感じられる。


玲花が航法パネルを見つめる。


「軌道修正を確認。予定通りです。」


表示された軌道線が、ゆっくりと赤道寄りへ移動していく。


隼人も計器へ目を向けた。


「誤差なし。」


徳川は機体の状態を確認しながら、静かに頷く。


「機体応答も正常。振動の影響なし。」


AMATERASU-Ⅰは、わずかに軌道を変えながら、新しい視界へと入っていった。


インド洋 アフリカ


窓の外に、巨大な海が広がっていた。


青い。


ただひたすら青い。


果ての見えない海。


それが地平線の丸みに沿って広がり、白い雲がゆっくりと流れている。


徳川が窓へ近づく。


「インド洋を越えて、アフリカ大陸が視界に入ります。」


やがて、海の向こうに大地が現れ始めた。


海岸線。


広大な平原。


起伏のある地形。


そして、黄金色に輝く大地。


朝日に照らされたサバンナが、宇宙からでも分かるほど鮮やかな色を見せていた。


玲花は思わず息を呑む。


「こんなふうに見えるんだ」


隼人も窓へ視線を向ける。


「これほど地形がくっきり見えるとは。」


海岸線の形。


河川の流れ。


山脈の連なり。


どれも、これまで地上で使っていた地図とは比較にならないほど鮮明だった。


隼人は静かに続ける。


「これは、地上の地図をまた修正する必要があるな。」


玲花も小さく頷いた。


「今まで分からなかった地形まで見えています。測量の基準そのものが変わるかもしれません。」


徳川はカメラを構える。


カシャ。


カシャ。


一枚ずつ、慎重に写真を撮り続けた。


宇宙軍の解析班は、既に送信されてくる画像データの位置解析を開始している。


そのことを思い浮かべながら、徳川は呟いた。


「地上では何年もかけて測るものが一瞬で見える。」


誰も返事をしなかった。


目の前の光景が、それほどまでに圧倒的だった。


ヨーロッパ上空


AMATERASU-Ⅰはさらに進む。


海を越え、再び巨大な大陸が視界へ入ってきた。


玲花が航法表示と窓の外を交互に見る。


「ヨーロッパ上空へ入りました。」


そして次の瞬間。


彼女の声が少し上ずる。


「ヨーロッパの形が完全に見える。」


イベリア半島。


フランス。


ドイツ。


複雑な海岸線。


入り組んだ湾。


巨大な河川。


それらが、一枚の地図のように広がっている。


玲花は窓へ近づいた。


「スペイン、フランス、全部見えてる。」


あまりの光景に、しばらく言葉が出ない。


やがて、小さく笑った。


「大使館の屋根まで見えそう。」


隼人も思わず笑みを浮かべる。


徳川は真剣な顔で窓の外を見つめていた。


「緯度経度測量の精度が一気に上がる。」


少し間を置き、静かに言う。


「これは革命だ。」


玲花も頷いた。


「地図だけじゃない。航海も、軍事も、学問も全部変わる。」


三人はしばらく無言で、ヨーロッパの大地を見つめ続けた。


日本列島へ帰還する軌道


やがて2周目も終盤へ入る。


航法表示には、再び日本列島へ近づく軌道が映し出されていた。


玲花が報告する。


「予定通りです。日本列島上空へ接近します。」


窓の外。


暗い海の中に、細長い光の列が浮かび始めた。


日本列島だった。


夜の日本。


各地の明かりが、宝石を散りばめたように輝いている。


海岸線に沿う光。


大都市の光。


点と線が結ばれ、一つの国の姿を描いていた。


徳川が小さく呟く。


「綺麗だ。」


玲花も目を離せない。


「まるで光の島みたい。」


隼人は静かにその光景を見つめ、ゆっくりと通信回線を開いた。


「管制室、こちらAMATERASU-Ⅰ。」


短い沈黙。


そして続ける。


「日本上空を通過。2周目終了。」


彼は計器へ視線を戻した。


「これより再突入準備に入る。」


司令室からすぐに返答が来る。


「了解。全系統、着陸フェーズへ移行。」


その声を聞いた瞬間、船内の空気が変わった。


地球を眺める時間は終わり。


ここからは、帰還のための時間である。


再突入準備シーケンス開始


隼人が深く息を吸った。


「再突入チェックリスト開始。」


先ほどまでの穏やかな声ではない。


訓練で何百回も繰り返した、任務中の声だった。


「姿勢制御スラスター点検。」


玲花が即座に応答する。


「スラスター1、正常。スラスター2、正常。スラスター3、正常。スラスター4、正常。」


表示を確認する。


「全系統応答確認。推力正常。」


徳川も機器へ視線を走らせる。


「耐熱シールド温度センサー起動。」


数秒。


「ノイズなし。」


隼人。


「生命維持系統、再突入モードへ移行。」


玲花。


「酸素循環安定。二酸化炭素除去装置、正常。冷却液流量も正常。」


徳川は最後に船内を見回した。


浮いているものがないか。


固定具が緩んでいないか。


確認を繰り返す。


「座席固定。ベルト確認。」


さらに視線を巡らせる。


「荷物ロック完了。」


そして最後に報告した。


「浮遊物なし。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。