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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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313話 ターボファンエンジン

時は遡る 空軍・宇宙軍の誕生と研究の日々


日本政府成立直後。


陸軍・海軍の整備が急速に進む中、空軍と宇宙軍は全く別の形で静かに立ち上がっていた。


陸軍のように兵士を大量に抱えるわけでもない。


海軍のように巨大な艦隊を建造するわけでもない。


彼らは極めて少人数で構成され、研究施設と実験場を中心に活動していた。


彼らは「戦う部隊」ではなく、未来のためだけに存在する研究部隊だった。


今すぐ役に立つ兵器を求めるのではない。


数年後。


数十年後。


そして百年先の世界を見据え、誰も想像していない技術を生み出すことだけを目的としていたのである。


そのため、創設当初の空軍と宇宙軍は、他の軍から半ば奇異の目で見られていた。


空を飛ぶこと。


宇宙へ行くこと。


それらはあまりにも現実離れしていた。


しかし、明賢だけは確信していた。


海の時代は必ず終わる。


その先には、空と宇宙の時代が来るのだと。


ドローン開発と試験訓練


この時代にドローンは当然異次元の存在だ。


空を自由に飛び回り、人が乗らずとも遠くを観測できる機械。


その概念自体が、17世紀の人々には理解できないものだった。


そのため空軍はこう名目付けた。


「観測用鳥型無人偵察機の研究」


表向きは、鳥の飛行原理を研究するための観測装置。


あくまで学術研究であるという体裁を取った。


実際には、明賢が購入した家庭用ドローンを分解し、構造を模倣して軍用に再設計していた。


まず行われたのは、内部構造の徹底的な解析だった。


なぜ飛べるのか。


なぜ安定するのか。


なぜ姿勢を維持できるのか。


技術者たちは部品を一つひとつ観察し、寸法を測り、図面へ書き起こしていった。


そして試作品の製作が始まった。


・電気モーター


・リチウム系電池の代替高性能バッテリー


・軽量素材(カーボン複合材の簡易版)


・探索レーダーと連携した管制システム


これらを組み合わせ、何度も試作と失敗を繰り返した。


最初の試験機は、数秒浮いただけで墜落した。


次の機体は、上昇した直後に横転した。


さらに別の機体は、風に流されて森へ突っ込んだ。


しかし技術者たちは諦めなかった。


原因を調べ、改良し、再び飛ばす。


その繰り返しだった。


やがて機体は少しずつ安定し始める。


数分。


十数分。


さらに長時間。


滞空時間は徐々に延びていった。


そして試験は、さまざまな環境へと広がっていく。


山岳地帯。


海上。


砂漠。


強風の日。


高温の日。


低温の日。


ありとあらゆる条件で飛行試験が行われた。


観測機は空から地形を撮影し、位置情報を記録し、地上へ情報を送り返す。


空軍は試験を重ねるごとに、「空から見る」という概念そのものを実用化していった。


そして少しずつ、世界最先端の空の目を手に入れ始めていた。


明賢による前世知識の投入


空軍・宇宙軍の研究室には、明賢の前世から書き起こされた膨大な論文データが持ち込まれた。


その量は、一人の人間が生涯を費やしても読み切れないほどだった。


ロケット方程式。


燃焼工学。


航空材料学。


ジェットエンジン理論。


それらは分野ごとに整理され、厳重に保管された。


英語・日本語を問わず、明賢は企業の機密情報や入手した内容を、データとして書き起こしていた。


・高効率燃焼器の設計


・ターボジェット・ターボファンの構造図


・特殊金属材料の基礎知識


・ABL(大気境界層)理論


・ステルス技術の概念


・ロケットの段階式設計


・化学推進剤の配合成分割合


・衛星軌道計算の基礎公式


・GPSの概念


それらは、17世紀の学問水準から見れば、数百年先の知識だった。


研究者たちは、最初は内容を理解することさえできなかった。


式の意味。


図面の意図。


記号の使い方。


どれも未知のものだった。


しかし、だからこそ彼らは夢中になった。


一行ずつ読み解く。


一枚ずつ図面を写す。


分からない箇所は議論し、仮説を立て、実験を行う。


研究室の灯りは深夜になっても消えなかった。


机の上には図面が積み上がり、黒板は数式で埋め尽くされていった。


軍・大学はこれを金鉱脈のように扱い、文字通り血眼になって解析した。


誰もが理解していた。


ここに書かれているのは、単なる知識ではない。


未来そのものだ、と。


ジェットエンジン開発の開始


レシプロエンジンについては、すでに陸軍や海軍が開発を開始していた。


そのため空軍が次に目標として定めたのは、「後退翼を持つ初期航空機と、小型ジェットエンジンの完成」だった。


空軍研究班は、未知の機関であるターボジェットの実用化に向けて、研究と試験を開始する。


最大の課題となったのは、「ターボジェットの燃焼室と圧縮機を、どうやって製造するか」という一点だった。


それまで世界に前例はない。


参考になる実機も、模倣できる技術も存在しない。


研究者たちは、明賢から渡された資料を何度も読み返し、図面を引き、試作品を作っては失敗を繰り返した。


初期の問題


立ちはだかった問題は数多かった。


・金属加工精度が足りない


・耐熱合金が存在しない


・高速回転軸の素材が不足している


・振動解析のデータが足りない


・高温高圧に耐える軸受の製造方法が確立されていない


・燃焼を安定させるための空気流路の設計が難しい


・高回転時に発生する共振現象の知見がほとんどない


どれか一つでも解決できなければ、ジェットエンジンは完成しない。


研究班は、まさに暗闇の中を手探りで進んでいる状態だった。


だが、ここで役立ったのが、日本国内で先行して進んでいた産業だった。


日本にはすでに、


・船舶用高性能エンジンを製造した職人


・鉄鋼プラントで生産された高級合金


・精密工場の工作機械設備


・大学の材料分析装置


・高精度測定器を扱う技術者


・大型発電設備による安定した工業生産基盤


が存在していた。


それぞれの分野では別々に発展していた技術だったが、空軍はそれらを一つの目的のために結集させた。


つまり、「空を飛ぶための新しい機関を作る」という一点に、国家の工業力を集中させたのである。


すべて、計画通りに明賢が産業発展を進めていたからこそ可能な組み合わせだった。


もし一つでも欠けていれば、ジェットエンジンの開発は何十年も遅れていたかもしれない。


しかし日本には、それを支える工業と知識の基盤が、すでに存在していた。


小型ジェットの誕生


1621年。


陸軍製の大出力レシプロエンジンが完成した。


この成功は、日本の機械工学に大きな自信を与えた。


そして、その後も空軍は独自に研究を続けた。


試作品を作り、燃焼試験を行い、部品を壊しては改良する。


その作業を何年も繰り返し続けた。


そして、1635年。


ついに日本は、世界で唯一のジェットエンジンを完成させた。


その性能は、


推力約750kg


燃焼試験で安定運転に成功


亜音速機による試験飛行を実施


無人機ドローンへの応用も可能


というものだった。


試験場では、エンジンが始動すると同時に、甲高い唸り声が響いた。


やがて回転数が上昇し、轟音とともに、後方へ灼熱の噴流が吹き出す。


それは、蒸気機関とも、レシプロエンジンとも、まったく異なる力だった。


空気そのものを吸い込み、圧縮し、燃やし、後方へ噴き出して推進力へ変える。


まさに、新しい時代の機関だった。


試験飛行が成功した日。


飛行場に集まった空軍の将校たちは、しばらく言葉を失った。


静かに空を飛び去っていく試験機を見上げながら、誰もが同じことを考えていた。


これまでの空の常識が、今この瞬間に終わったのだと。


やがて一人の将校が、震える声で呟いた。


「これが」


技官が空を見上げたまま、その続きを口にする。


「これが、空を支配する力か」

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