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3話 理想の国家計画

内面の独白


明賢、力の本質を理解する


明賢は、箱を布に包み胸のそばに置いたまま、静かに考えていた。


(情報と、物質は、別物じゃない)


頭の中に浮かぶのは、無数の設計図、大手ECサイト、数えきれないほどの情報の断片。

それらは単なる知識ではなく、現実へ至る道筋として整理されていた。


(思考を介して、定義された情報が現実に落ちてくる)


(ならば――)


道具も。

材料も。

技術も。

インターネットショッピングサイトにさえ存在すれば、使用できる。


この時代に存在しないものでも、

「存在し得る形」として定義できるなら、いずれ現実へ引き寄せられる。


幼子の姿のまま、光丸はわずかに微笑んだ。


(本当に)


(理想の国を作るための力を手に入れてしまったんだな)


だが、その喜びは長くは続かなかった。

力の大きさは、そのまま危険の大きさでもある。


(これは……一人で抱えるには、重すぎる)


明賢は、心の奥でそっと呟いた。


「ありがとう……光の声よ」


誰に聞かせるでもない、感謝。


「これで……強い日本を、作れる」


その言葉に応じるように、


ただ、未来が静かに動き始めた

そんな気配だけが残った。


告白と約束


明賢は、プラモデルの箱を布で包み、

箪笥の奥、さらにその裏へと慎重に隠した。


(……今は、まだ早い)


この力の意味を、この時代の誰も、正しく受け止められない。


だが

完全に一人で抱え続けることも、すでに限界だった。


頭の中に流れ込む情報量は、幼子の人生を生きるには、あまりにも過剰だった。


(……家族にだけは)


(守るべき人たちには、真実の輪郭だけでも伝えなければ)


家族を集める


翌朝。

明賢は、はっきりとした声で母・たえに告げた。


「父上と、兄上を、皆を、母屋に集めてください」


あまりにも落ち着いた物言いに、

たえは一瞬、言葉を失ったが、何も言わず頷いた。


やがて、

父・惣右衛門、

兄・忠明、

そして家の者たちが集まる。


惣右衛門は苦笑し、場を和らげるように言った。


「どうした、明賢。赤子が評定でも開くつもりか?」


だが、明賢は笑わなかった。


小さな身体で座布団に座り、

背筋を正し、家族一人ひとりの顔を見る。


その瞳には、冗談の余地がなかった。


天啓の告白


「父上、母上、兄上……皆」


明賢は、はっきりとした声で告げた。


「驚くかもしれませんが、私は天啓を受けました」


部屋の空気が、ぴんと張りつめる。


母・たえは息を呑み、

兄・忠明は、冗談だと笑い飛ばすこともできず、黙って弟を見つめた。


「私は、この国が、遠い未来でどのような道を辿るかを、知っています」


「戦い、迷い、そして多くを失うことを」


惣右衛門の表情が険しくなる。


「何を申す。赤子の戯言にしては、過ぎるぞ」


それでも、明賢は目を逸らさなかった。


「信じてほしいとは、申しません」


そう前置きし、小さな頭を、深く下げる。


「ただ一つだけ、お願いがあります」


「この話を、来る時までは、絶対に外へ漏らさないでください」


「家族の者以外には、誰にも」


沈黙。


長い沈黙の後、母・たえが、最初に口を開いた。


「……わかりました」


その声は、迷いよりも覚悟を含んでいた。


兄・忠明も、弟の瞳を見つめ、静かに頷く。


「……ああ。嘘をつく目じゃない」


最後に、惣右衛門が深く息を吐いた。


「よかろう」


「真か偽かは、今は問わぬ。だが――」


「我らは家族だ。家族の秘密は、命に代えても守る」


その言葉と共に、葛城家の中で、ひとつの誓いが結ばれた。


それは、文書にも、記録にも残らない誓い。


外の者には決して語られぬ

「明賢の秘密」。


この小さな共同体こそが、

後に歴史を動かす最初の防壁となることを、

この時、誰もまだ知らなかった。


説明と決意


未来図が言葉になる


翌朝。

屋敷には、昨日とは異なる緊張が漂っていた。


明賢は再び家族を集めるよう頼んだ。

その手には、筆でも玩具でもなく、一枚の紙が握られている。


座敷に集まった父・惣右衛門、母・たえ、兄・忠明。

明賢は小さな体で文机の前に座り、震え一つない手つきで文字を書き始めた。


その字は、幼子のものではなかった。

整い、迷いがなく、目的だけを映した字だった。


「私が、これから為すことを話します」


そう前置きしてから、光丸は一つずつ、淡々と読み上げた。

•国の仕組みを整えること。

•戦を圧倒できる技術を育て、無益な争いを終わらせること。

•農と工を結び、民を飢えさせぬ仕組みを作ること。

•そして、知識を受け継ぐための学問所を作ること。


それは願いではなかった。

理想でもなかった。

整然と並んだ計画だった。


誰も、途中で口を挟まなかった。

幼子の口から語られる未来像は、あまりにも具体的で、あまりにも遠大だった。


「今は、笑っても構いません」


明賢は顔を上げ、家族を見渡した。


「けれど、時が来れば、必ず分かります」


「これは夢ではありません。準備が整えば、実現します」


その瞬間、惣右衛門はゆっくりと立ち上がり、明賢の前に膝をついた。


武士が、幼子に対して取る姿勢ではなかった。


「……分かった」


低く、しかしはっきりとした声。


「お前の覚悟、確かに受け取った」


「この葛城家は、お前の知恵のために動こう」


それは忠誠ではない。

支配でもない。


明賢の部屋と最初の準備


静かな文明の再点火


数日後。

屋敷の一室が、明賢専用の部屋として与えられた。


外から見れば、何の変哲もない一室。

だが、その中では、時代がねじれていた。


明賢は、意識を集中させ、大手ECサイトで必要な道具を選び取る。

•ノートPC

•ポータブルバッテリー

•折りたたみ式太陽光パネル


それらは、音もなく、光も抑えられた形で現れた。

まるで、最初からそこにあったかのように。


屋敷の裏庭に、慎重に太陽光パネルを設置する。

昼の光を受け、静かに電力が蓄えられていく。


夜になると、障子越しの闇の中で、部屋の内側だけが、青白い画面の光に照らされた。


それは、誰にも見せてはならない光だった。


画面に映るのは、

設計図、年表、科学資料、統計。


そして、新たに作られた一つの文書。


タイトルには、簡潔にこう記されていた。


『新国家構想案(草稿)――明賢記』


幼子、歴史を設計する


「……これが、始まりだ」


誰に聞かせるでもなく、明賢は呟いた。


「光の声が与えた備えを、この国のために使おう」


窓の外では、夜風が静かに吹き、

月明かりが、屋敷の裏庭と太陽光パネルを淡く照らしていた。


誰も気づかない。

だが確かに、文明の火は再び灯っていた。


新国家構想案と最初の準備


一週間目


転生から、一週間。


明賢は、与えられた部屋で黙々と作業を続けていた。

赤子の体は眠りを欲し、だが意識は、休むことを許されなかった。


頭の中で、あの言葉が何度も反響する。


『最先端の知能と備えを授けよう』


その備えは、今も働いている。


脳はインターネットへ接続し、世界中の情報を収集し、分類し、取捨選択していく。


(……焦るな)


(順序を誤れば、すべてが壊れる)


幼子の指が、キーボードの上で止まる。


明賢は、深く息を整えた。

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