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4話 国家構想

新国家構想案


国家は、思想から始まる


明賢が最初に着手したのは、武器でも、技術でもなかった。


新しい国の仕組み、そのものだった。


(……結局、すべては制度だ)


生前、何度も何度も考え直してきた理想の国家像。

個人の善意や英雄に依存せず、仕組みとして機能し続ける国家。


彼の脳裏には、明確な構造があった。


政治は政治として独立し、教育は教育として守られ、産業、医療、財政、外交、軍事が

互いに干渉しすぎることなく、連動する。


(統治は一人で行うものじゃない)


(役割を分け、責任を分け、知識で国を動かす)


明賢はノートパソコンに向かい、概念を一つずつ、言葉へと落とし込んでいった。


文部科学省 学びを司る中枢

国土交通省 国土と交通を管理する組織

経済産業省 産業と技術を育てる機関

厚生労働省 福祉と労働を統括する制度

財務省 国の財を管理し、国家を維持する仕組み

外務省 外国と向き合うための外交組織

など十数省、数十庁


それらは、この時代には存在しない言葉だった。

だが、存在しなければならない概念だった。


「まずは中央の枠組みを整える」


明賢は、幼い声で呟く。


「教育を軸に、人を育てる。次に工業基盤を築き、医療と科学を国家の責任として管理する」


それらを一つの文書にまとめ、彼は静かに名前を与えた。


『新国家構想案(草案) 第一稿』


政治・教育・工業・軍事・財政・外交。

それぞれが独立し、同時に連動する

未来型国家の基本設計だった。


道具の調達


思考を、記録へ


構想を書き終えた明賢は、次に現実へ目を向けた。


(……考えるだけでは、足りない)


思考は揮発する。

だが、記録は残る。


残らなければ、継承できない。


明賢は意識を集中させ、脳内のネットワークにアクセスする。


必要なものを、一つずつ思い浮かべる。

•紙

•印刷装置

•筆記具


「まずは……思考を形にするための道具だ」


購入ボタンを押した瞬間、空間がわずかに揺らいだ。


音もなく、物品が、そこに現れる。


それは奇跡ではなく、あまりにも自然に現れた。


(……やはり)


(備えは、個人規模の発注量なら容易に通す)


だが、すぐに冷静さが戻る。


「個人注文程度の量では、国の発展も、維持も不可能だ」


(大量生産には、この世界での量産体制が必要になる)


明賢は一つ一つを慎重に設置していった。


部屋の隅に太陽光を黒いパネル。

それに繋がる蓄電装置。

机の上には、デスクトップパソコンとレーザーカラープリンター。


これで、

記録が実物として残せる。


最初の出力


紙に刻まれた未来


明賢は、試しに一つの文書を印刷する。


レーザーカラープリンターが静かに動き、

白い紙が、規則正しい音を立てて排出されていく。


それを、小さな手で取った瞬間、

彼はわずかに息を呑んだ。


画面ではない。

脳内でもない。


「これが……私の設計図か」


一枚目の表紙には、簡潔にこう記していた。


『新国家構想案(草案)――葛城明賢』


この文書こそが、

後に「日本国基本計画書」と呼ばれることになる、

最初の原稿だった。


だが、この時の明賢は、まだ知らない。


この紙束が、刀よりも、城よりも、はるかに多くのものを動かすことを。


準備完了


小さな部屋、国家の起点


部屋には、最新の機器と、言葉にならない熱が満ちていた。


窓の外では、朝の風が庭木を揺らし、何事もなかったかのように日常が続いている。


明賢は、深く息を吸った。


「……ここからだ」


「国家を統一し、制度を整え、産業を起こし、教育を根づかせる」


「そして、この部屋が、日本国の始まりになる」


幼子の指が、再びキーボードを叩く。


画面に、新しいファイル名が浮かび上がった。


『産業整備計画(第一草案)』


未来の日本は、城でも、戦場でもなく

この小さな一室から、静かに動き始めていた。


家族への提示と研究助手の提案


夜明けの気配が、障子越しに淡く滲んでいた。

明賢は机の上に積み上げられた紙束を見つめ、静かに息を吐いた。


『新国家構想案(草稿)』


自らが書いた文字でありながら、その内容は、もはや一人の幼子が抱えきれるものではない。

国家の仕組み、民の教育、産業、医療、外交

どれ一つ取っても、一国の運命を左右する重みを持っていた。


「……この速度では、私の寿命が先に来てしまう」


知識はある。構想もある。

だが、記録し、整理し、形にするための手が足りない。

明賢は理解していた。

この計画は、孤独な天才の独白では成立しないということを。


彼は書類を抱え、静かに決意した。


「家族に、すべてを見せよう」


家族の集まり


その日の夕刻。

葛城家の座敷には、いつになく緊張した空気が流れていた。


父・惣右衛門。

母・たえ。

兄・忠明。

そして、信頼のおける数名の家臣。


呼び出しの理由は告げられていない。

ただ「明賢が話したいことがある」とだけ聞かされ、皆が集まっていた。


そこへ

幼い明賢が、書類を持って現れた。


紙が擦れる音が、やけに大きく響く。


「……おいおい、なんだその量は」

「それ……全部、紙なの?」


明賢は何も言わず、座敷の中央に進み、丁寧に一礼した。

そして、書類を一束ずつ、畳の上に並べていく。


その所作は、幼子のものではなかった。


新国家構想の提示


「父上、母上、皆」


明賢は顔を上げ、まっすぐに言った。


「これは、私が考えた国の形です」


惣右衛門は無言で書類を手に取った。

一枚、また一枚と頁をめくるにつれ、彼の表情は変わっていく。


そこに書かれていたのは

・政治中枢を能力で選抜する仕組み

・領地を中央が管理する統治構造

・刀に頼らぬ国力の育成

・教育を国家の根幹とする制度


さらには、

聞いたこともない名称の組織

厚生労働省、経済産業省、外務省。


「……これは、政の書ではないのか」

「それも、我らが知るものでもない」


母・たえは、震える指で文字をなぞった。


「明賢……この文字量……この言葉選び本当に、生まれて数日も経たずにあなたが?」


明賢は静かに頷いた。


「私は、この国がこの先、どこへ向かうかを知っています。戦を重ね、民を消耗し、やがて自ら衰えていく未来を」


座敷が静まり返る。


「だからこそ」

「刀を持たずとも強くなる仕組みを、作らねばなりません」


兄・忠明はしばらく黙って書類を睨んでいたが、やがて低く呟いた。


「……弟よ」

「お前は、一体――何者なのだ」


明賢は答えなかった。

ただ、その問いから目を逸らさずに言った。


「この内容を、今すぐ理解できる者は少ないでしょう。ですが、いずれ必ず必要になる。だから私は、今これを書いているのです」


研究助手という異物


説明を終えた後、明賢は一度、深く息を整えた。

そして、少しだけ声を落とす。


「……ですが」


皆の視線が集まる。


「私はまだ幼く、手が足りません。この計画を進めるには、私の考えを理解し、共に動ける者が必要です」


惣右衛門が眉を寄せた。


「それは、家臣を増やせということか?」


「いえ、違います」


明賢は首を横に振った。


「私が求めるのは――研究助手です」


その言葉が、座敷に落ちた瞬間。

空気が凍りついた。


「……けんきゅう、じょしゅ?」

「聞いたことがないな」


明賢は一つずつ、噛み砕くように説明した。


「私の知識を吸収し」

「道具を扱い」

「実験や設計を補助する者」


「兵でも、侍でもありません。考えることを手伝う者です」


兄・忠明は思わず笑った。


「そんな役目、聞いたこともないぞ」


明賢は即座に答えた。


「ええ。この国には、まだ存在しません」


そして、はっきりと言い切った。


「だから――私が、これから育てます」


幼子の宣言とは思えぬ重さが、その場を支配した。

それは一つの新たな職業の誕生であり、同時に、この時代の常識からの決別でもあった。


この日、葛城家は悟ることになる。

明賢が見ているのは、今の国ではなく、まだ誰も知らない未来そのものなのだと。

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