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2話 誕生2日目

二日目


能力の発動と「光の贈り物」


夜明けの光が、障子の隙間から差し込んでいた。

柔らかな朝の色が、母屋の空気を満たしている。


母・たえの胸に抱かれ、明賢は静かに眠っている

はずだった。


その意識の底で、奇妙なざわめきが生じた。


最初は、遠くの波音のようだった。

次第にそれは形を持ち、意味を帯び、頭の中に洪水のように押し寄せてくる。


文字。

映像。

数字。

音声。


無数の情報の断片が、秩序もなく頭の中へ流れ込んでくる。

まるで数え切れぬ人々が、一斉に語りかけてくるような感覚。


(……これは……)


思考は幼子の身体とは釣り合わぬほど明瞭だった。


(情報だ。いや……違う……これは……)


言葉を探す。


(……インターネットか?)


その瞬間、混乱と共に、遠い記憶が浮上した。


光に包まれ、身体がほどけていく感覚。

境界のない空間。

そして、確かに聞いた声。


『お前の目標を達成するために知能と備えを授けよう』


母の腹の中で聞いた時は理解できなかった言葉。

だが、今なら分かる。


(これが……備え……)


それは、単なる知識の付与ではなかった。

記憶の書き換えでも、予言でもない。


ありとあらゆる人類が積み上げてきた情報へ、直接アクセスできる能力。

情報を蓄えるのではなく、繋がる力。


光の贈り物。


インターネットへの接続


明賢は、意識を一点に集中させた。


すると、頭の奥で何かが「噛み合う」感覚が走る。

歯車が正しく組み合わさるような、確信を伴う感情。


次の瞬間、

視界の裏側――現実とは別の層に、淡い光が広がった。


それは、かつて見慣れたものだった。


半透明のウインドウ。

整然と並ぶ文字。

中央に配置された、一本の入力欄。


(……検索バー……?)


そこに、はっきりと表示されている文字。


検索したい内容を入れてください。


(……まさか)


思わず疑念が走る。


(これは……本物のインターネット?)


試すしかなかった。


明賢は、意識の中で文字を入力する。


「零式艦上戦闘機」


瞬間。


色鮮やかに情報が展開された。


設計図。

航空写真。

整備兵の証言動画。

戦局における評価。


それらが、時間差なく脳内へ流れ込まれる。


(……読める。いや……理解できている)


知識は「読む」よりも前に、すでに意味として脳内に展開されていた。


明賢は、震えた。


(……おかしい)


この時代には、電気すら存在しない。

通信も、計算機も、人工衛星もない。


それでも

頭の中では、確かに「インターネット」が稼働している。


(これは……嘘じゃない)


(神が与えた能力だ)


その理解と同時に、電流が走った。


(この力は、必ず使える)


赤子の身体は、母の胸で小さく息をしているだけ。

だが、その内側には、世界を根底から覆す力が組み込まれていた。


明賢は、静かに決意する。


(この力は、うまく利用しなければならない)


(言葉も、私の知識も……すべて)


明賢は再び眠った。

その表情は、何も知らぬ赤子そのものだった。


だが、その意識の奥では、

光の海が静かに広がり続けていた。


生前の記録との再会


失われた世界、残された意志


光のウィンドウが静かに揺らめく中、

明賢の意識は、ある感触を思い出していた。


それは知識でも、映像でもない。

もっと個人的で、もっと深いもの

自分自身の痕跡。


(……そうだ)


(俺には……俺だった時の記録がある)


光丸は、無意識のままそこへ意識を向けた。

IDも、パスワードも入力しない。

ただ、思い出す。


すると、光は応えた。


光の奥で、扉が開く。

それは他人には決して辿り着けない、

本人にしか許されない領域だった。


そこに並んでいたのは

かつての彼が生きた証。


自ら描いた設計図。

日本を立て直すためにひたすらに書き溜めていた社会構想のメモ。

経済、教育、国防、技術……

現実に絶望しながらも、諦めきれずに残した思考の断片。


そして、

自分が設計し、個人で製作・販売していたプラモデルの写真。


(……残っていたのか)


(俺の世界が……)


胸の奥が、きしむように痛んだ。


赤子の身体では、涙を流すことすらままならない。

それでも、確かに感情が溢れた。


(全部……無駄じゃなかったんだな)


過去と現在が、ほんの一瞬だけ、確かに繋がった。

 

好奇心が呼んだ越境


ふと、光の画面の隅に、ひとつの商品が表示された。


自分が設計し、試作として販売していた、零式艦上戦闘機プラモデル。


(……懐かしいな)


設計に悩み、強度と美しさの両立に頭を抱え、誰にも評価されなくても作り続けたもの。


(もう一度……手にしてみたい)


半ば冗談だった。


だが、意識は自然と動いていた。


「購入」


次の瞬間、配送設定の画面が開く。


そこに表示された住所を見た時、明賢の思考が一瞬、凍りついた。


(知らない地名だ)


だが、その中に含まれる文字が、

強烈な既視感を伴って迫ってくる。


武蔵国葛城家


(……まさか)


(この俺が生まれた……この屋敷?)


あり得ない。

だが、ここまで起きている現象自体が、すでにあり得なかった。


好奇心と、確かめたいという衝動が勝った。


(どうせなら、やってみるか)


明賢は、注文を確定させた。


情報は、物質へ


一瞬の静寂。


屋敷の空気が、わずかに震えた。


音はない。

光も、派手には現れない。


ただ、そこに無かったはずの物体が、ゆっくりと形を持ち始めた。


光の粒子が集まり、輪郭を作り、

やがて


箱が現れた。


布団の脇、何もないはずの場所に、確かに存在している。


(……届いた?)


箱の表面には、見覚えのあるロゴ。

自分がデザインした、あの印刷。

シールの配置も、注意書きの文言も、

すべて記憶通りだった。


明賢は、小さな手を伸ばした。


指先が、箱に触れる。


冷たい。

硬い。

これは現実だ。


素材は、成形プラスチック。

印刷は高精細。

夢でも、幻でもない。


(……本当に…… プラモデルだ)


その瞬間、理解が追いついた。


これは転送ではない。


ECサイトで発注する力。


思考の奥で、あの声が静かに重なる。


『知能と備えを授けよう』


これが、備えの正体。


(……まずいな)


(これは……使い方を間違えたら……私は処刑されてしまうだろう)


赤子の身体のまま、

明賢は初めて、はっきりと恐怖を覚えた。


だが同時に、

確信もあった。


(……だからこそ)


(この力があれば、私はこの国を……作り替えることが出来る)


小さな箱は、静かにそこにあった。

それは、過去の自分から、未来の自分への

最初の贈り物だった。

300話ぐらいまでは少なくともあります

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