253話 海軍の能力
日本主力艦隊の行動:スペイン軍港への同時多発砲撃
偵察艦が敵主力を遠方へ引きつけ、海上で翻弄しているその頃。
日本海軍の主力艦隊は、すでに別行動を取っていた。
夜の海は静まり返り、空には雲が薄く広がっている。
艦隊は一切の灯火を抑え、暗い海面を滑るように進んでいた。
先頭を行く軽巡洋艦では、航海士たちがレーダーとロラン航法システムを用いて現在位置を確認している。
「針路維持。」
「速度そのまま。」
「予定海域まで、あと三十分。」
艦橋に緊張が満ちる。
必要最低限の命令だけが短く交わされ、数十隻もの艦艇がまるで一つの生き物のように統制されていた。
その進路の先にあるのは、スペイン本土とポルトガル沿岸の主要軍港だった。
スペイン側は、日本の主力艦隊を必死に探していた。
しかし、彼らが追い回しているのは遠方で砲撃を繰り返す偵察艦ばかりであり、本当の主力は誰にも発見されることなく海を進んでいた。
やがて東の空がわずかに白み始める。
朝日が地平線の向こうから姿を見せようとした、その瞬間。
艦橋で命令が下った。
「全艦、目標確認。」
「各砲塔、射撃準備。」
「攻撃開始0500。」
静寂が流れる。
そして。
「撃て。」
次の瞬間、海が震えた。
複数の艦から200ミリ砲が一斉に火を噴き、巨大な砲炎が朝焼けを赤く染める。
重く鋭い砲声が海上へ何度も轟いた。
砲弾は暗い空を切り裂きながら飛翔し、数十秒後。
複数のスペイン軍港が、ほぼ同時に爆炎へ包まれた。
砲撃の標的となったのは、
・カディス軍港やセウタ島の海軍施設
・スペインの造船区画
・ポルトガル、リスボン近郊の海軍補給基地
・カナリア諸島の補給拠点
であった。
最初に爆発したのは港湾施設だった。
巨大な倉庫の屋根が吹き飛び、積み上げられていた木材や資材が空へ舞い上がる。
続いて乾ドックへ砲弾が着弾した。
建造途中の艦艇の船体が砕け、足場が崩れ落ち、作業員たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。
停泊していた大型ガレオン船にも砲弾が降り注いだ。
一本目のマストが折れ、二本目が砕け、船腹から炎が噴き出す。
火薬庫へ誘爆が起こると、凄まじい爆音とともに船体そのものが吹き飛んだ。
爆発の光が港全体を照らし、黒煙が空へ立ち上る。
さらに日本艦隊の砲撃は止まらない。
第二射。
第三射。
第四射。
砲弾は正確に軍事施設だけを狙い続けた。
補給倉庫。
弾薬庫。
造船設備。
桟橋。
燃料集積所。
次々と炎に包まれていく。
カディス軍港の司令部では、突然の事態に誰も状況を理解できなかった。
「敵襲! 敵襲!」
伝令が飛び込む。
「どこからだ!?」
「艦隊はどこにいる!?」
誰も答えられない。
見張り台の兵士が叫ぶ。
「海上です!」
「しかし、艦影が見えません!」
別の将校が地図へ駆け寄る。
「本隊はどこだ!?」
「我々の海軍は一体何をしているのか!?」
さらに伝令が飛び込んできた。
「造船区画炎上!」
「第三補給倉庫炎上!」
「停泊中のガレオン船三隻、大破!」
司令部の空気が凍りつく。
「やられた。」
誰かが呟く。
「我々は囮を追わされていたのだ。」
リスボン近郊でも同じだった。
海軍補給基地の上空を黒煙が覆い、兵士たちが必死に消火作業を行っている。
しかし、その最中にも新たな砲弾が飛来する。
爆発。
炎上。
悲鳴。
誰も反撃できない。
敵艦がどこにいるのかさえ分からないからだった。
港の至るところで鐘が鳴り響き、混乱が広がっていく。
カナリア諸島でも補給拠点が次々と炎上した。
倉庫に積まれていた物資は燃え上がり、港へ集積されていた食料や建材も失われていく。
海軍基地は完全に麻痺した。
そして、その報告は次々とマドリードへ届けられた。
「カディス被害甚大。」
「リスボン補給基地炎上。」
「カナリア諸島連絡途絶。」
「複数軍港で同時攻撃発生。」
報告を読み上げる声が震える。
会議室にいた全員が言葉を失った。
日本軍は宣戦受諾からわずかな時間で、スペインとポルトガルの海軍中枢へ同時打撃を加えていたのである。
港の炎上は、まさにスペインの心臓そのものを直撃していた。
補給線の完全遮断
だが、日本海軍の攻撃はそれだけでは終わらなかった。
軍港への砲撃を終えた艦隊は、その場へ留まらない。
砲撃終了後、ただちに進路を変更。
次の目標地点へ向かって移動を開始した。
その行動速度は異常だった。
一つの軍港を攻撃したと思えば、数時間後には別の海域で砲撃が始まる。
スペイン側は対応に追われた。
「次はどこだ!?」
「敵艦隊の位置を報告しろ!」
「まだ特定できません!」
混乱がさらに広がる。
日本艦隊は軍港だけではなく、港へ繋がる輸送路も攻撃した。
道路。
橋梁。
物資集積所。
沿岸の荷揚げ施設。
補給船が集まる桟橋。
それらを砲撃によって次々と破壊していく。
結果として、港へ物資を送ることそのものが困難になった。
港に残った艦艇も、整備用資材が届かない。
弾薬が届かない。
食料が届かない。
損傷した船を修理することもできない。
一隻一隻が、ゆっくりと機能を失っていった。
スペイン海軍の将校は蒼白な顔で言った。
「艦は残っている。」
しかし、別の提督が苦々しく答える。
「いや、もう残ってはいない。」
「動けぬ艦は艦ではない。」
「補給のない海軍は、死んだも同然だ。」
こうしてスペイン艦隊は、戦闘によってではなく、補給能力そのものを奪われることで急速に機能を失っていった。
それは事実上、スペイン艦隊の壊滅、『補給死』の始まりだった。




