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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第五章 日西戦争

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249話 スペイン総動員

スペイン軍上層部の会議は、深夜になっても終わる気配を見せなかった。


巨大な地図の前には将軍、提督、総督、補給責任者たちが並び、机の上には各地から届いた報告書が山積みになっている。


日本について集められた断片的な情報。


北米開発。


巨大港湾。


異常な兵站能力。


そして正体不明の海軍力。


それらを分析した結果、会議室にいた全員がある結論へ達していた。


「このままでは、陸は一気に突破される。」


誰かが重く呟く。


別の将軍が続けた。


「海も同じだ。」


「日本艦隊の実力は分からない。」


「だが、もし報告が事実ならば、我々の想定を超える戦力を持っている。」


さらに海軍参謀が地図を指差す。


「問題は見えないことだ。」


「日本は何を何処に幾つ持っているのか分からない。」


「どこから来るのかも分からない。」


「どこを攻撃するのかも分からない。」


室内が静まり返る。


未知。


それこそが最大の恐怖だった。


結局、出席者全員の共通認識は一つだった。


「日本軍は危険である。」


「そして侵攻が始まれば、極めて短期間で戦線が崩壊する可能性がある。」


その認識が共有されたことで、会議は次の段階へ進んだ。


総司令官がゆっくりと立ち上がる。


老将ではあったが、その声には力があった。


「では対策案をまとめよ。」


全員の視線が集まる。


「日本に突破されぬよう。」


「必ず複線的な防衛戦略を構築する。」


その言葉と共に、本格的な防衛計画の策定が始まった。


最初に発言したのは陸軍だった。


陸軍参謀総長は迷いなく答える。


「優先順位は明白です。」


地図上の二箇所を指差す。


メキシコ方面。


そしてパナマ方面。


「両国境線の徹底要塞化を提案します。」


机の上へ計画書が広げられる。


そこには詳細な工事計画が記されていた。


・砲台の大幅増設


・高地砦の拡張


・防御施設の強化


・補給庫の増設


・予備兵力の後方集中配置


・観測拠点の増設


・緊急連絡網の整備


参謀は続ける。


「重要なのは勝つことではありません。」


周囲が怪訝な顔をする。


「まず耐えることです。」


そして強く言い切った。


「日本軍の初撃を耐え抜く。」


「一週間でも持ちこたえれば反撃の機会は生まれます。」


会議室では多くの将軍たちが頷く。


彼らは日本軍の進撃速度を恐れていた。


もし最初の数日で防衛線を突破されたなら。


もし補給拠点を失ったなら。


その後の反撃は極めて困難になる。


だからこそ、最初の防衛戦が重要だった。


陸軍は日本軍を止めることではなく、まず減速させることを目標に設定したのである。


続いて発言したのは海軍だった。


海軍大将が椅子から立ち上がる。


彼の表情は厳しい。


「日本艦隊の性能は読めない。」


誰も反論しなかった。


「報告書には信じ難い内容も多い。」


「だが無視することはできない。」


提督は大西洋の地図を指差す。


「我々は未知の敵と戦う。」


「ならば確実に用意できるものを増やすしかない。」


その結論は単純だった。


数で押す。


それだけである。


海軍案が読み上げられる。


・ガレオン船の総動員


・武装商船の増設


・私掠船の統合


・沿岸警備船の軍事転用


・漁船の監視網


・各港での緊急艤装計画


つまり。


船という船を軍事利用するという発想だった。


商人たちは驚愕した。


漁師たちは戸惑った。


だが総動員体制の前では拒否権はない。


港という港で作業が始まる。


砲が運び込まれる。


火薬庫が増設される。


船体補強工事が行われる。


提督は力強く宣言した。


「火力密度さえ確保できれば勝機はある。」


「敵が未知であろうと関係ない。」


「海そのものを砲撃で埋め尽くせばよい。」


まさに物量戦の思想だった。


しかし会議室の一角では、不安そうな表情を浮かべる者たちもいた。


若い参謀が小声で呟く。


「もし日本が我々の想像以上だった場合は。」


隣の将校も黙り込む。


実際のところ、誰にも分からなかった。


スペインが築こうとしている防衛線は強力である。


要塞もある。


艦隊もある。


兵士もいる。


だが、それらは全て既知の戦争を前提としていた。


問題は、日本が既知の戦争を行う相手なのかどうかだった。


会議室の中央では議論が続く。


新たな砦。


新たな艦隊。


新たな徴兵。


新たな補給基地。


次々と計画が決まっていく。


一方その頃、日本側ではスペイン艦隊の動向が逐一監視されていた。


大西洋。


カリブ海。


植民地港湾。


補給航路。


それらの情報が日々蓄積されていく。


スペインは防衛を固める。


日本はその防衛計画を分析する。


こうして両国は、まだ宣戦布告すら行われていない段階で、すでに見えない戦いを始めていた。


そして会議の最後、スペイン総司令官は出席者たちへ静かに告げた。


「我々に残された時間は多くない。」


その言葉に誰も異論を唱えなかった。


日本もまた準備を進めている。


その事実だけは、全員が理解していたのである。

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