↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第五章 日西戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

248/314

248話 分からない恐怖

大戦の足音


スペインは恐怖と誤解の末に開戦を選び、日本はそれを迎え撃つ構えを整えた。


最初は小さな警戒だった。


次は軍備増強。


そして動員。


やがてそれは、誰にも止められない流れとなっていく。


歴史の流れは、いま大陸も海も巻き込む世界最初の超大戦へと向けて、確実に動きつつあった。


欧州。

新大陸。

アフリカ。

太平洋。


それぞれの地域で軍隊が動き、補給物資が集められ、港には軍艦が並び始める。


誰もが平和を口にしていた。


しかし誰もが、戦争が近いことを理解していた。


スペイン軍総司令部


1637年末。


ハプスブルク家宮殿地下作戦室。


厚い石壁に囲まれた会議室には、数十本の蝋燭が灯されていた。


長机の中央には巨大な世界地図。


ヨーロッパ。


アフリカ。


新大陸。


そしてアジア。


その地図には無数の印が書き込まれており、特に日本の勢力圏は赤線で大きく囲まれていた。


補給拠点。


港湾施設。


艦隊目撃地点。


駐屯地。


それらが細かく記されている。


室内には陸軍・海軍・植民地軍の将官たちが集められていた。


空気は重く、緊張に満ちていた。


やがて司令官メンドーサが立ち上がった。


ゆっくりと地図の前へ進む。


軍服の裾が石床を擦る音だけが響いた。


彼は全員を見渡し、静かに口を開いた。


「諸君。」


室内の視線が集中する。


「来年、日本との戦争が始まる。」


改めて言葉にされると、その重みは違った。


「今夜は日本の攻撃地点を予測し、我が軍の最終戦略を固める。」


重苦しい沈黙が流れる。


誰も反論しない。


戦争は避けられない。


その前提で会議は始まった。


日本の攻撃予測地点の分析


参謀長が前へ進み出る。


手には長い指示棒。


彼は世界地図の一点を叩いた。


① メキシコ国境


棒の先が北米を指す。


スペイン領メキシコ。


その北部南部には日本軍の勢力圏が広がっている。


参謀長は低い声で説明した。


「日本軍はすでに北側に大兵力を集結させている。」


将校たちは頷いた。


その情報は何度も報告されている。


補給基地。


鉄道網。


倉庫群。


兵員集結地。


日本は着実に準備を進めていた。


「日本軍が一気に雪崩れ込んでくる可能性が高い。」


参謀長はさらに続ける。


「我々は日本軍の実戦能力を把握していない。」


「だが彼らは高い規律を持ち、補給能力も異常なほど高い。」


「さらに資金力も圧倒的である可能性がある。」


将軍の一人が腕を組む。


参謀長は地図上をなぞった。


「もし彼らが本気で侵攻した場合、国境線は数日で突破される恐れがある。」


「数日だと?」


誰かが思わず声を上げる。


「あり得ん。」


だが参謀長は首を振った。


「我々の常識ではあり得ない。」


「しかし日本は、すでに我々の常識を何度も覆している。」


会議室が静まり返る。


「メキシコ防衛線は最優先課題である。」


その言葉が記録官によって書き留められた。


② パナマ地峡


次に棒が動く。


細い陸地。


パナマ地峡。


参謀長の表情がさらに険しくなる。


「ここが第二の危険地点だ。」


パナマは狭い。


しかし極めて重要だった。


北米と南米を結ぶ唯一の陸路。


「日本はすでにパナマ周辺を支配している。」


「さらに要塞化も進めている。」


参謀の一人が地図上の赤印を指差した。


そこには日本軍施設が複数描かれている。


「我々は北と南から挟んでいる。」


「だが逆に言えば、日本軍も北と南の両方向へ攻撃可能だ。」


室内に緊張が走る。


「ここを突破されれば、南米防衛計画そのものが崩壊する。」


「ペルー。」


「ボリビア。」


「チリ。」


「すべて危険圏内に入る。」


南米植民地担当官の顔色が変わった。


スペインにとって南米は宝庫だった。


銀。


金。


資源。


労働力。


その喪失はスペインそのものの崩壊を意味する。


「絶対に失えない地点だ。」


誰かが呟いた。


その言葉に多くの者が頷いた。


③ 海上からの直接侵攻


最後に海軍参謀が立ち上がった。


陸軍将校たちよりも顔色が悪い。


彼は地図の海域全体を指し示した。


大西洋。


太平洋。


インド洋。


広大な海。


「最大の問題は海上侵攻である。」


その一言で会議室が静まり返る。


海軍参謀はしばらく沈黙し、言葉を選ぶように続けた。


「あの帆の無い艦船。」


誰も口を挟まない。


「我々はまだ、その能力の全容を知らない。」


「最高速力不明。」


「運用思想不明。」


報告書には多くの空白があった。


それが逆に恐怖を生んでいた。


「そして最も恐ろしいのは砲撃能力だ。」


参謀は鹿児島演習の報告書を持ち上げた。


「彼らは視界の彼方を撃つ。」


「しかも命中させる。」


「我々の砲撃理論では説明できない。」


海軍将官たちの表情が曇る。


「もし日本艦隊が大西洋へ現れた場合。」


「もし植民地港湾へ直接攻撃を行った場合。」


「我々はどこまで対応できるのか。」


誰も答えられなかった。


海軍参謀は最後に静かに言った。


「正直に申し上げる。」


室内の視線が集まる。


「陸軍の脅威は理解できる。」


「補給線も予測できる。」


「防衛線も構築できる。」


彼は拳を握った。


「だが海軍は違う。」


「日本艦隊は、我々が知る海戦の常識そのものを破壊する存在かもしれない。」


その言葉に、海軍将校たちは沈痛な表情で俯いた。


作戦室には重い沈黙が流れる。


誰もが理解していた。


彼らは戦争を決断した。


しかしその相手は、まだ誰も正しく理解できていない国家だったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。