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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第五章 日西戦争

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245/311

245話 日本の覚悟

英国からの警告を受けた翌日。


日本政府中枢では、緊急軍事会議が招集された。


海軍。


陸軍。


海兵隊。


工廠局。


作戦本部。


各組織の責任者たちが一堂に会し、巨大な世界地図を囲んでいた。


室内には張り詰めた緊張が漂う。


誰もが理解していた。


これは単なる警戒ではない。


国家規模の戦争準備である。


やがて会議室の扉が開く。


明賢が姿を現した。


全員が立ち上がる。


彼は席に着くことなく、地図の前に立った。


静寂。


そして。


静かだが重く響く声が会議室を満たした。


「海軍は、ただちに全艦隊へ先戦時即応警戒を発令せよ。」


その一言で空気が変わる。


海軍参謀たちが即座に記録を始める。


明賢は続けた。


「偵察艦隊をスペイン領海域へ向け派遣する。」


地図上の大西洋へ指が伸びる。


「艦隊の動向を常時監視しろ。」


「出港状況、補給状況、訓練状況、全て報告させる。」


さらに。


「長期間追尾可能な偵察艦は大西洋へ集中配備。」


「スペイン艦隊の追跡を開始せよ。」


「そして」


「動き出した瞬間を掴め。」


参謀たちは静かに頷いた。


先に察知した側が勝つ。


それは海戦の鉄則だった。


さらに命令は続く。


「輸送船団は海軍指揮下へ編入。」


「戦時護衛輸送隊として再編成せよ。」


「護衛訓練を開始する。」


平時の商船は姿を変える。


補給艦。


輸送船。


資源船。


それら全てが戦争を支える支援艦隊へ組み込まれていった。


その日のうちに各港が動き始める。


重巡洋艦。


軽巡洋艦。


駆逐艦。


補給艦。


次々と整備ドックへ入る艦艇。


技術者たちは昼夜を問わず作業を続けた。


巨大なクレーンが動き、弾薬が積み込まれ、機関部の点検が行われる。


日本海軍は急速に戦時即応体制へ移行し始めていた。


続いて明賢は陸軍司令部へ視線を向けた。


「陸軍は三方面へ展開を開始せよ。」


世界地図に印が付けられる。


第一方面。


メキシコ国境線。


第二方面。


パナマ地峡国境。


第三方面。


南アフリカ北方国境。


司令官たちが真剣な表情で聞き入る。


「スペイン植民地軍は必ず陸路からも動く。」


「海だけを見ていてはならん。」


「監視網と防御網を構築しろ。」


「全面衝突に備えよ。」


その命令は直ちに現地へ送られる。


北米。


南アフリカ。


各地の基地では一斉に動員が始まった。


砲兵連隊。


工兵部隊。


通信中隊。


補給部隊。


兵士たちは列車へ乗り込み、指定地域へ向かう。


国境地帯では工兵たちが測量を開始した。


塹壕。


観測所。


砲兵陣地。


補給拠点。


防衛線が次々と築かれていく。


広大な平原に砲列が並び始める。


双眼鏡を覗く将校たち。


遠くの地平線を見つめる国境監視兵。


平時とは思えない緊張感が広がっていた。


さらに明賢は言う。


「予備役の準備を進めろ。」


「招集命令一つで動ける体制を維持せよ。」


平時から戦時への移行。


それが着実に進んでいた。


次に呼ばれたのは海兵隊だった。


海兵隊司令官が前へ進み出る。


明賢は短く命じる。


「海兵隊は即応態勢へ移れ。」


司令官が敬礼する。


「はっ。」


しかし本命はその次だった。


「開戦と同時に各方面への同時上陸を実施する。」


会議室の空気がさらに重くなる。


防御ではない。


攻勢である。


明賢は地図へ指を走らせた。


フィリピン。


南米沿岸。


アフリカ沿岸。


スペイン領諸島。


「上陸艦隊は全て整備を完了させろ。」


「揚陸艦は即時出港可能状態を維持。」


「分単位で動け。」


海兵隊将校たちの表情が引き締まる。


彼らの任務は明確だった。


戦争が始まった瞬間。


敵領土へ踏み込む。


それが海兵隊の役割である。


港湾基地では既に準備が始まる。


揚陸艦が並び、車両が積み込まれ、補給物資が搬入される。


海兵隊員たちは実戦装備を点検していた。


最後に工廠と兵站本部へ命令が下る。


「工廠は戦時生産体制へ移行。」


即座に担当官たちが記録を始める。


「弾薬。」


「砲弾。」


「予備部品。」


「医療物資。」


「燃料。」


「全て増産しろ。」


さらに。


「戦時備蓄は平時の倍。」


「最優先で積み増せ。」


この命令により、日本各地の工業地帯が動き出す。


製鉄所。


火薬工場。


造船所。


弾薬工場。


機械工場。


煙突から煙が立ち上る。


夜間操業が開始される。


労働者たちは交代制で生産を続けた。


巨大倉庫では砲弾箱が積み上がっていく。


一列。


二列。


三列。


やがて壁のような高さになる。


輸送車両は休むことなく走り続けた。


北米。


南嶺。


各方面前線基地へ向けて物資が運ばれていく。


将校は地図を見ながら呟く。


「これほどの量なら、長期戦にも耐えられる。」


兵站本部は既に戦争を見据えていた。


会議が終わる頃には、日本という国家そのものが動き始めていた。


港では艦隊が整備される。


国境では砲兵陣地が築かれる。


工場では弾薬が生産される。


鉄道では輸送列車が走る。


誰も慌ててはいない。


むしろ異様なほど冷静だった。


なぜなら明賢は、宣戦布告を待つだけの受け身の戦争を考えていなかったからである。


スペインとポルトガルが動くなら。


日本もまた動く。


世界最大の植民地帝国と、新たな超大国。


両者の衝突は、もはや避けられない段階へ入りつつあった。

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