241話 第二の日本本土
北米大陸の開発計画が本格化する中、日本政府が最優先事業として着手したものがあった。
大陸横断鉄道。
それは、明賢が以前から構想していた巨大計画だった。
本来であれば、太平洋側の日本勢力圏と北米西岸を結び、さらに内陸部へ物流網を伸ばしていく構想は存在していた。
しかし当時の北米東部はイギリス植民地。
他国領土へ勝手に鉄道を敷設することはできず、路線は迂回を重ねた末、各地で途中停止していた。
莫大な土地がありながら、大動脈だけが欠けていたのである。
今や状況は完全に変わった。
北米全域は日本の正式領土。
もはや妨げるものは存在しない。
日本政府は即座に、凍結されていた本計画を解放した。
北米各地へ、日本の建設部隊が一斉投入された。
西側からは重機輸送列車。
移動式精密測量車。
大型溶接設備。
鉄道敷設機。
測量部隊はまず、大陸全域の高精度地形測量を実施する。
山脈。
河川。
地盤強度。
気候。
積雪量。
全てが数値化され、巨大な設計図へ統合されていく。
技師たちは地図を広げながら指示を飛ばす。
「この山岳地帯はトンネル掘削。」
「地盤強度良好。高架橋建設可能。」
「勾配修正、誤差0.03以内で調整。」
さらに、日本の重機が投入されることで、工事速度は常識外れとなる。
巨大掘削機が岩盤を砕き、鉄骨運搬車が資材を輸送し、自動制御補助装置付きの敷設機械が線路を延ばしていく。
現場では昼夜を問わず作業が続いた。
巨大照明設備が夜の荒野を照らし、作業員たちは交代制で動き続ける。
「線路安定確認!」
「次区間、溶接準備完了!」
「測量誤差、基準内!」
怒号と機械音が大地へ響く。
鉄道はまるで生き物のように伸びていった。
一日に数十キロ。
時には百キロ近く。
この時代では狂気としか言えない建設速度である。
やがて。
ついにその瞬間が訪れる。
東海岸。
西海岸。
二方向から延伸されていた幹線路線が、北米中央部で接続されたのである。
巨大な歓声が上がった。
作業員たちは帽子を振り、技師たちは互いに抱き合う。
「繋がった!」
「本当に大陸を一本で結んだぞ!」
こうして。
北米大陸は、日本製鉄道ネットワークによって完全接続された。
その後の変化は爆発的だった。
東海岸から西海岸まで、巨大貨物列車が毎日のように走り抜ける。
日本式超大型ディーゼル機関車。
鋼鉄製の巨大車体。
圧倒的牽引力。
長大な貨車編成。
荒野を駆け抜ける鋼鉄の列車。
山岳地帯を貫く長大トンネル。
巨大鉄橋。
それら全てが、北米大陸を一つの経済圏へ変えていく。
東海岸で生産された工業製品が数日で西海岸へ届く。
西部資源地帯の鉱石が高速輸送される。
港と都市と工業地帯が一本の物流網で結ばれていった。
もはや北米はもう単なる植民地ではない。
日本の領土として巨大国家基盤へ変貌し始めていた。
そして沿岸部では、さらに大規模な港湾建設が進められていた。
旧イギリス植民地時代の港は、既に時代遅れと判断されていた。
水深不足。
埠頭規模不足。
物流能力不足。
全てが日本基準では不十分だった。
そのため、日本政府は各地へ港湾都市建設を命令する。
巨大浚渫船が海底を掘削し、深水港が形成されていく。
大型コンテナ埠頭。
軍港。
造船所。
補給基地。
海底ケーブル基地局。
それらが沿岸各地へ一気に整備され始めた。
特に軍港建設は圧倒的だった。
巨大乾ドック。
弾薬庫。
燃料備蓄施設。
修理工廠。
さらに、日本海軍の駆逐艦や軽巡洋艦が常駐配備される。
北米東海岸は、急速に日本海軍の戦略拠点へ変わっていった。
新たな海軍基地では、若い士官たちが驚きながら呟く。
「これは、もう横須賀海軍司令部と遜色がないぞ!」
それほどまでに整備規模が巨大だった。
人口流入も止まらなかった。
毎日のように移民船団が到着する。
農民。
商人。
技術者。
教師。
軍人。
家族連れ。
彼らは次々と新大陸へ降り立っていった。
港では日本語が飛び交う。
「荷物はこちらへ!」
「住民票変更列、整列してください!」
「次便、北海道所属!」
街は急速に日本化していった。
標識。
駅名。
行政文書。
全て日本語。
さらに、日本式SI単位系も全面導入される。
長さ。
重量。
容量。
測量基準。
全て統一された。
学校教育も日本方式だった。
先住民の子供たちは日本語を学び、数学を学び、科学を学び、測量や工学の基礎教育まで受け始める。
旧ヨーロッパ式の曖昧な単位文化は、急速に姿を消していった。
そして何より大きかったのは、都市文化そのものだった。
碁盤状都市。
衛生管理。
上下水道。
耐火建築。
鉄道中心物流。
計画工業地帯。
新大陸各地は、完全に日本式社会構造へ組み替えられていく。
もはやそこに、旧イギリス植民地の面影はほとんど残っていなかった。
新大陸。
それは今や、文化も、政治も、経済も、軍事も。
全てが日本によって統治される巨大国家圏へ変貌していた。
人々は次第にこう呼び始める。
「第二の本土。」
そして明賢は、完成しつつある地図を静かに見つめながら、さらに次の構想へ思考を進めていた。
彼にとって、この巨大変革ですら、まだ途中段階に過ぎなかったのである。




