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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第四章 世界との関わり

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240/308

240話 新大陸東海岸入植開始

議会派による勝利宣言の後、ロンドンでは大規模な戦勝式典が執り行われた。


鐘が鳴り響き、広場には無数の市民が押し寄せる。


議会派の旗が翻り、兵士たちは整列しながら市街を行進していった。


かつて内戦によって荒廃していたロンドンは、今や新たな時代の始まりという熱気に包まれていた。


そして、その頂点として。


チャールズ一世の処刑が執行される。


その報はヨーロッパ全土へ衝撃を与えた。


王を処刑する。


それはこの時代において、国家秩序そのものを覆す出来事だった。


宮廷貴族たちは震え上がり、各国王家は危機感を募らせる。


だが議会派は止まらなかった。


次期国王は形式的存在へ追いやられ、王権は大きく制限される。


そしてついに、議会中心国家イングランド共和国が成立した。


議会派指導部は、この勝利が自分たちだけの力ではないことを理解していた。


日本。


あの東方国家の支援が無ければ、間違いなく敗北していた。


だからこそ、共和国成立直後、彼らは最優先で日本へ長文の感謝状を送った。


羊皮紙数枚に及ぶ正式文書。


そこには最大級の敬意が込められていた。


「日本国の支援、まことに感謝申し上げる。」


「イングランド共和国は、日本の友邦として、今後も変わりない信頼を寄せるものである。」


さらに文面には、今後の通商優遇、港湾利用、技術交流についても触れられていた。


彼らにとって日本は、もはや単なる支援国ではない。


国家存続そのものを救った存在だったのである。


鹿児島。


南洋局。


感謝状は厳重な護送のもと、明賢の執務室へ届けられた。


外交官が丁寧に文面を読み上げる。


室内には静かな緊張が漂っていた。


イングランド共和国からの正式感謝。


普通なら、盛大に歓迎される外交成果である。


だが。


明賢は終始、淡々と聞いているだけだった。


表情はほとんど変わらない。


外交官が読み終える。


「以上が、共和国よりの謝辞にございます。」


数秒の沈黙。


やがて明賢は静かに頷いた。


「うむ、ご苦労。」


それだけだった。


外交官は一瞬戸惑う。


明賢は続けた。


「返書は簡潔でよい。」


「勝利を祝うとだけ伝えよ。」


あまりにも短い返答。


外交官は思わず顔を上げる。


「はっ。しかし、これほどの支援を」


議会派へ投入された支援は、当時の国家規模を超えていた。


莫大な資金。


大量の鉄鋼。


軍事顧問団派遣。


それによって内戦そのものが決着した。


ならば、もっと大きな見返りや政治的要求を行っても不思議ではない。


だが明賢は、わずかに首を振る。


「よい。」


静かな声。


「もう用は済んだ。」


その言葉に、外交官は言葉を失った。


明賢の視線は、既に別の場所へ向いていたからである。


机の上に広げられた巨大地図。


そこには、新たに得た北米東海岸が詳細に描かれていた。


河川。


港湾。


山脈。


平野。


さらに、日本の測量隊によって記された精密な地形情報。


明賢はゆっくりと地図へ指を置く。


北米東海岸。


前世では巨大都市群が形成される場所。


世界経済の中心となる土地。


彼にとって、イングランド内戦はそこへ到達するためのただの工程に過ぎなかった。


本当の目的は最初から変わっていない。


新大陸そのもの。


側近たちは静かに理解する。


明賢は既に、次の時代へ進み始めている。


北米東海岸。


イギリス系住民の撤退が終わると同時に、日本の巨大船団が次々と到着し始めた。


水平線を埋め尽くすほどの輸送船団。


港湾へ並ぶ大型艦。


その数は、もはや移民団という規模ではない。


新国家建設艦隊だった。


船から降り立つ者たちも、単なる開拓民ではない。


土木技師。


鉄道技師。


都市計画局官僚。


測量部隊。


港湾建設局。


通信技術部隊。


陸軍治安維持部隊。


行政官。


医師。


教育官。


あらゆる専門人材が組織的に送り込まれていた。


港では次々と命令が飛ぶ。


「測量班、北区画へ!」


「港湾設営隊、仮設埠頭建築開始!」


「通信線展開!」


「治安部隊、残存イングランド住民捜索!」


「パイルバンカーをこっちにも回せ!地盤改良急げ!」


その速度は異常だった。


まるで日本政府が、最初からこの瞬間を待っていたかのようだった。


そして、日本政府は明確な方針を打ち出す。


「旧イギリス植民地建造物は全て撤去せよ。」


その命令は徹底されていた。


小規模な木造建築。


老朽化した石造建物。


無秩序に広がった植民地街区。


それらは次々と解体されていく。


日本側技師たちは、旧都市構造を非効率と判断していた。


道幅が狭い。


上下水道が未整備。


防火性が低い。


都市計画思想そのものが古い。


だから、全て作り直す。


大型建設機械が投入され、旧街区は急速に更地へ変わっていった。


その後、新たな都市建設が始まる。


鉄筋コンクリート。


鉄骨構造。


耐火設計。


上下水道網。


区画整理。


17世紀の人類には理解不能な都市工学だった。


測量隊は緯度経度を正確に計測し、誤差数センチ単位で都市基準線を設定する。


真っ直ぐ伸びる幹線道路。


碁盤状の街区。


計画的配置の港湾。


上下水道管路。


防災区画。


都市そのものが、巨大な設計図通りに組み上がっていく。


元イギリス植民地住民たちは、その光景を呆然と見つめていた。


「まるで未来都市だ」


「こんな建設速度、本当に同じ人間なのか?」


だが日本側は淡々としていた。


彼らにとってこれは、単なる都市建設ではない。


新世界の基盤整備だった。


やがて北米東海岸の各都市は、秩序を持ち始める。


無計画な植民地都市ではない。


精密に設計された、日本式近代都市群。


そして明賢は、その完成図を静かに見つめていた。


彼の構想は、まだ始まったばかりだったのである。

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