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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第四章 世界との関わり

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235話 支援部隊派遣

日本から王党派へ送られた返信は、丁寧でありながらも極めて冷静だった。


感情的な表現は一切ない。


同盟への熱意も、敵対への断定も、そこには存在しない。


ただ、国家としての利益判断だけが静かに記されていた。


「貴書、確かに拝見しました。」


整った筆跡で綴られた文面は、淡々と続く。


「日本国は、御国の情勢を重く見ております。」


一見すれば友好的な文章。


しかしその実、どこか距離を置いている。


「友好関係維持のため、一定の支援は可能です。」


同盟ではない。


全面支援でもない。


極めて計算された言葉選びだった。


さらに文面は核心へ触れる。


「ただし、新大陸の割譲については、あくまで確実に譲渡可能な範囲のみ、という条件で判断させていただきます。」


この一文によって、日本側は巧妙に逃げ道を残していた。


つまり、「口約束では動かない」という意味である。


王党派が実際に支配している地域。

確実に統治権を持つ地域。


その範囲内でしか交渉しない。


極めて現実的であり、同時に冷徹でもあった。


書簡を読んだ王党派の使者は、安堵と焦燥の入り混じった表情を浮かべる。


全面拒否ではない。


支援は得られる。


それだけで十分だった。


返信文が完成すると同時に、明賢は即座に海軍へ指示を飛ばした。


軍議室。


壁一面に広げられた海図の前で、明賢は淡々と命じる。


「補給艦二隻を派遣する。」


側近たちが記録する。


「積荷は食料と軍需資源。」


続けて視線を上げた。


「護衛は駆逐艦三隻のみでよい。」


その場の海軍士官たちがわずかに反応する。


少ない。


日本海軍基準では、あまりにも少数だった。


だが明賢は構わず続ける。


「あくまで小規模支援に見せるのが肝心だ。」


その一言で、全員が理解した。


これは軍事作戦ではない。


外交戦略。


しかも、見せ方そのものが目的の作戦だった。


王党派に安心感を与える。


同時に、議会派へ危機感を植え付ける。


そのための絶妙な戦力調整。


側近の一人が確認する。


「本気で勝たせるつもりは無い、と。」


明賢は短く答える。


「均衡を崩さぬ程度でよい。」


静かな声。


だが、その中には恐ろしいほど精密な計算が存在していた。


数日後。


鹿児島港。


巨大な補給艦二隻が、静かに出航準備を進めていた。


港では荷役作業が続いている。


木箱。

鉄材。

保存食。


作業員たちは黙々と積み込みを行っていた。


積荷の内容は膨大だった。


穀物。

乾燥肉。

塩。

鉄塊。

硝石。


さらに、厳重封印された木箱の中には大量の金貨と銀貨。


戦時国家にとって喉から手が出るほど欲しい物資ばかりだった。


だが、それでも決定打にはならない量。


そこが重要だった。


艦長は積荷目録を確認しながら、小さく苦笑する。


「これは戦争支援というより、誘い水だな。」


隣の副長が低笑った。


「魚を釣るには、まず餌を撒けですか。」


艦長は答えず、港の先を見る。


そこには駆逐艦三隻が既に待機していた。


細長い艦体。


静かな機関音。


帆もなければ櫂もない。


17世紀の船乗りが見れば、悪夢か幻にしか見えない存在。


しかし日本海軍にとっては、最低限の護衛戦力に過ぎなかった。


夕刻。


出航命令が下る。


汽笛が低く響き、補給艦がゆっくりと港を離れていく。


岸壁の兵士たちは敬礼し、港湾作業員たちは黙ってその姿を見送った。


夕日が海面を赤く染める。


その中を、五隻の艦隊は静かに西へ進んでいった。


まるで影のように。


誰にも気付かれぬまま、世界の勢力図を変えるための一手が放たれていた。


王党派への支援が動き始めてから数日後。


明賢は庭園を歩きながら、ふと側近へ言った。


「議会派は釣れると思うか。」


静かな夜だった。


風が竹を揺らしている。


側近はすぐには答えなかった。


明賢の言葉は、ほとんどの場合現実になる。


だからこそ重かった。


明賢は歩みを止める。


「王党派より、遥かに大きな餌を持って。」


側近は思わず息を呑んだ。


既に予想はついていた。


だが、それを口にするのは躊躇われた。


「新大陸、すべてでしょうか。」


明賢は静かに頷く。


迷いは無い。


「北米全土が手に入る。」


その言葉はあまりにも巨大だった。


一国家の外交成果という規模ではない。


世界史そのものを変える話である。


側近の背に冷たい感覚が走る。


北米全土。


前世では巨大国家が生まれる土地。


莫大な鉱物資源。

広大な農地。

無数の港湾。


それを、この時代に日本が握る。


常識では考えられない。


しかし明賢は、まるで既に確定した未来を語るように続けた。


「この世界では、な。」


その目は遠くを見ていた。


もはやイングランド内戦など見ていない。


さらに先。


海の向こう。


北米大陸。


その先にある未来の世界地図。


明賢は既に、次の時代の地平を見据えていた。

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