表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コード:ヴァニタス ~魔術絶対の階級社会を、魔力ゼロの「欠落者」が喰らい尽くす〜  作者: 上ノ空
ゼロの廃棄物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/36

第11話:蹂躙 魔法殺し、理不尽へのカウンター(後半)

いつも応援ありがとうございます。


最新話を更新しました。 最後までゆっくりとお楽しみください!


ドォン!!!!


爆音と共に、俺の世界が引き伸ばされた。


視界の端で、風景が流れる線となる。

パイプも、蒸気も、迫り来る重力の球体も、すべてがスローモーションのように置き去りにされていく。


速い。

これは、ただ走っているのとは訳が違う。

背中から巨大な手で突き飛ばされたような、あるいは崖から突き落とされたような、制御不能な加速。


「ぐ、ぅぅぅッ……!」


足が悲鳴を上げている。

膝の軟骨がすり減り、大腿骨がきしむ音が、頭蓋骨に直接響く。

撃鉄靴パイル・ブーツの反動。

それは、俺の肉体を破壊しながら進む、諸刃の剣だった。


けれど。

その痛みさえも、今の俺には心地よい燃料だった。


(届く……!)


目の前。

ほんの数メートル先に、驚愕に目を見開く騎士の顔がある。


彼の放った重力魔法『ブラック・ホール』は、俺の残像をかすめ、虚しく空気を削り取っていた。

魔法使いの弱点。

それは、魔法を構築し、照準を合わせるまでの「タイムラグ」だ。

音速に近いこの速度の前では、彼の思考速度さえも止まって見える。


「な……馬鹿、な……!?」


騎士の唇が動くのが見えた。

物理法則を無視した機動。

魔力を持たない「ゴミ」が、エリート騎士のふところに飛び込んだ瞬間。


俺は、右手に握った魔剣を振りかぶった。


「もらったぁぁぁぁッ!!」


裂帛れっぱくの気合い。

全身の運動エネルギーを、剣の一点に乗せる。


騎士が反応する。

さすがは白銀騎士団。

思考が追いつかなくても、鍛え上げられた身体が自動的に防御行動を取る。


「シールドッ!!」


騎士が叫ぶと同時に、彼の前に透明な壁が出現した。

六角形の光が重なり合う、多重魔法障壁。

戦車砲すら防ぐと言われる、鉄壁の守り。


普通の剣なら、触れた瞬間に砕け散るだろう。

だが。


俺が持っているのは、そんな上品な代物じゃない。


ズドォォォンッ!!


激突。

剣が障壁に触れた瞬間、甲高い音が鳴り響いた。


硬い。

コンクリートの壁を金属バットで殴ったような、強烈な反動が手に返ってくる。


(防がれたか?)


いや、違う。


『……いただきます』


剣が、わらった。


パリンッ……!


音がした。

ガラスが割れるような、繊細で、残酷な音。


障壁が、剣の接触点から急速に「食われて」いく。

白い包帯が脈打ち、障壁を構成する魔力を掃除機のように吸い込んでいく。

光の壁に、ぽっかりと大穴が開く。


「な……障壁が、消滅……!?」


騎士の目が、恐怖に染まる。

自分の常識が、目の前で崩れ去っていく音を聞いているのだ。


俺は、その穴に剣をねじ込んだ。

障壁の向こう側。

無防備になった騎士の鎧へ。


「砕けろッ!!」


ガゴォォォォォンッ!!


鈍い破壊音。

剣の腹が、騎士の胸板を直撃した。


「が、はッ……!?」


騎士の身体がくの字に折れる。

磨き上げられた白銀の鎧が、内側からの衝撃でひしゃげ、歪む。

肺の中の空気が強制的に吐き出され、騎士の足が地面から浮く。


吹っ飛ぶ。

そう思った。


しかし。


ガシッ。


騎士の左手が、俺の剣を掴んでいた。


「……ぬ、ぅぅぅッ!!」


騎士が、血を吐きながら俺をにらみつける。

鎧の下から、ギチギチと筋肉が膨張する音が聞こえる。

身体強化魔法。

打撃の瞬間、魔力で身体を鋼鉄のように硬化させ、衝撃に耐えたのだ。


「舐めるな……下層民がァッ!!」


騎士がえる。

その全身から、青白いオーラが噴き出す。

圧倒的な魔力圧プレッシャー

それが物理的な風圧となって、俺を押し返そうとする。


(力が……違う!)


俺は歯を食いしばった。

押し負ける。

勢いで突っ込んだが、静止状態での力比べになれば、魔法で強化された騎士には勝てない。


騎士が、右手の槍を引く。

至近距離からの突き。

避けられない。


「死ねェッ!!」


槍が放たれる。

銀色の閃光が、俺の喉元に迫る。


その時。


カシュン。


乾いた音が、俺たちの頭上から聞こえた。


「――そこよ」


少女の声。

冷徹で、計算高い、エンジニアの声。


俺と騎士の間。

天井の配管の隙間から、何かが落ちてきた。


それは、手のひらサイズの小さな金属球だった。

表面には無数の穴が空いており、そこから赤い光が点滅している。


騎士の視線が、一瞬だけそれに吸い寄せられる。


「なんだ、これは……」


「プレゼントよ」


遠くで、キナが指を鳴らす音が聞こえた。


パチン。


カッ!!!!


金属球が炸裂した。

爆発ではない。

それは、「音」の暴力だった。


キィィィィィィィィィンッ!!!!


高周波。

人間の可聴域を遥かに超えた、脳髄を直接かき回すような超音波の嵐。

さらに、強烈な閃光ストロボが、暗い通路を焼き尽くすように点滅する。


「が、ぁぁぁぁぁぁッ!?」


騎士が絶叫し、槍を取り落とした。

両手で耳を塞ぎ、のたうち回る。

平衡感覚を司る三半規管が破壊され、立っていることすらできなくなったのだ。


「スタングレネード・改。……魔法使いは耳が良いから、よく効くでしょ?」


キナの声が響く。

俺は、ニヤリと笑った。

俺には効かない。

なぜなら、突入前にキナから「耳栓」を渡されていたからだ。


「ナイスだ、相棒」


俺は、よろめく騎士を見下ろした。

勝負あった。

強固な鎧も、魔法障壁も、内側からの撹乱かくらんには無力だ。


「貴様ら……卑怯な……!」


騎士が、涙を流しながらうめく。

プライドの高いエリート騎士にとって、こんな「おもちゃ」で無力化されることは、死ぬよりも屈辱だろう。


「卑怯?」


俺は剣を構え直した。

包帯の隙間から、緑色の光が漏れる。

アビス・ワームから奪った魔力と、さっきの障壁から食らった魔力。

それが今、臨界点で混ざり合っている。


「魔法で一方的に殴るのは綺麗で、知恵を使って殴るのは卑怯か?」


俺は一歩、踏み出す。


「なら、もっと卑怯な手を見せてやるよ」


俺は、左足のブーツのかかとを、地面に打ち付けた。


カチリ。


撃鉄が落ちる。

爆薬が点火する。

しかし今度は、飛ぶためじゃない。

この場で、回転するための推進力。


「消えろッ!!」


ドォン!!


左足を中心に、俺の身体がコマのように回転する。

遠心力。

爆発力。

そして、魔剣の質量。

すべてを乗せた、横薙ぎの一閃。


「が……」


騎士が顔を上げる。

その目に映ったのは、迫り来る白い死神の鎌。


ズバァァァァァァァンッ!!!!


剣が、騎士のわき腹を捉えた。

鎧が紙のように裂ける。

魔力強化された筋肉が断裂する。

そして、その奥にある肋骨が粉々に砕け散る。


「ガ、ハッ……!!」


騎士の身体が、ボールのように吹き飛んだ。

通路の壁に激突し、さらにバウンドして、配管の山に突っ込む。


ガシャガシャガシャッ……。


鉄パイプが崩れ落ち、騎士を埋める。

土煙が舞う。

静寂が戻る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


俺は、剣を杖にして、その場に膝をついた。

限界だった。

足の感覚がない。

ブーツの中で、皮膚がけて血が出ているのが分かる。

体温も下がりきって、視界が白くかすんでいる。


でも、立っている。

俺は、勝ったのだ。


「……やった」


小さな呟き。

それが、次第に実感を帯びてくる。


騎士に勝った。

魔法使いに勝った。

この世界の「理不尽」の象徴を、俺たちの手でねじ伏せたんだ。


カツ、カツ、カツ。


軽い足音が近づいてくる。

キナだ。

彼女は崩れた瓦礫の山を乗り越え、俺の元へとやってきた。


「あんた……無茶苦茶ね」


キナが、呆れたように笑う。

その顔はすすだらけだが、瞳だけは興奮で輝いている。


「あんな至近距離で爆破するなんて。足、無事?」


「……たぶんな。感覚がねぇけど」


「あとで見てあげる。……それより」


キナが、埋もれた騎士の方を指差した。


「トドメ、刺さないの?」


俺は、瓦礫の山を見た。

騎士の手が、だらりと力なく垂れ下がっている。

微かに胸が上下している。生きている。


「……いい」


俺は剣を鞘(包帯)に収めた。


「殺したら、こいつらと同じになる」


それに、死ぬよりも辛いだろう。

下層のゴミに負けて、おめおめと生き恥を晒すことの方が。


「ふーん。甘ちゃん」


キナは肩をすくめたが、その表情はどこか嬉しそうだった。


「ま、いいわ。部品パーツにするには損傷が激しすぎるしね」


彼女は俺の前に立ち、右手の義手を差し出した。

無骨で、油臭い、鉄の手。


「ねえ、あんた名前は?」


そういえば、まだ名乗っていなかった。

俺は、泥だらけの手で、その冷たい鉄の手を握り返した。


「ニルス」


「ニルス。……うん、悪くない響きね」


キナが、ニカっと笑う。


「私はキナ。世界一の『解体屋クラッシャー』よ」


「解体屋?」


「そ。世界の仕組みをバラして、あっと言わせるのが私の仕事」


彼女は、俺の魔剣を指差した。


「あんたのその剣と、私の技術があれば……このクソったれなバベルだって、解体できると思わない?」


その言葉に、俺の心臓がドクンと跳ねた。

バベルを、解体する。

ヘリオスがいる上層を。

俺たちを閉じ込めるこの世界を。


「……ああ」


俺は、強く頷いた。

握り合った手から、微かな熱が伝わってくる気がした。

それは体温ではない。

同じ怒りと、同じ夢を持つ者同士の、魂の熱さだった。


「できるさ。俺たちなら」


「決まりね! じゃあ、まずはここからズラかるわよ。増援が来たら面倒だもの」


「どこへ行く?」


「決まってるでしょ。私のアジトよ。……とびきりの『修理』をしてあげる」


キナがウインクし、歩き出す。

俺は、痛む足を引きずりながら、その小さな背中を追った。


路地の向こう。

天井の隙間から、第0層には似つかわしくない、一筋の光が差し込んでいるのが見えた。


それは、新しい物語の始まりを告げる、夜明けの光だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、 下の【☆☆☆☆☆】評価や、ブックマークをいただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ