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08

「この前はごめんねみうちゃんっ、今日はあなたがメインだから!」


 土曜日の夜、またこの前のメンバーで集まることになった。

 とはいえ、小洒落たお店ではなくファミリーレストランのため気が楽と言える。

 でも、メインとはどういうことだろうかと悩んでいたら、


「これ食べて」

「ほらこっちも」

「若いんだからいっぱい食べないと!」


 と、怒号の勢いで食べさせてくる三貴さん。

 おまけにお酒に酔うと菜乃さん――あ、奈緒さんみたいになると分かった。


「ふふふ、いい抱き心地ー」

「あ、ありがとうございます」


 ちなみに大吉くんはこの後に直接奈緒さんの家に来ることになっているため現在不在。


「ビールおいちい……」

「みうちゃん……」

「えぇ……」


 食事よりもお酒を飲むことの方が優先のようだ。

 私はお小遣いを貰ってきているので注文したハンバーグセットをせっせと食べていた。

 時々ちょうだいと言われるのでその度に差し出していた結果、あっという間に終わってしまったが。


「奈緒さん? 三貴さん?」

「うぅ……みう、だきしめさせてぇ」

「……いいですけど、帰ってからにしてください」

「あ……そういえば裸の付き合いをするって話だったわよね」

「い、意味深な言い方はやめてください! もうっ」


 他にもお客さんはいっぱいいるんだから。

 三貴さんはいち早く反応して、「なにそのやらしい話ぃ」とかブツブツ呟いているし……。


「ほら三貴、しっかりする」

「奈緒ちゃんが早すぎるだけぇ……」

「ちょっと早いけどもう帰ろうか」

「はい、あ、三貴さんは支えておきますよ」

「いやいい、あんまりあんたとベタベタしてほしくないし」


 ……あれからというもの、独占欲を働かせるようになった。

 他の子のお手伝いをしようとしたりしたら、「ぶぅ」と小さい声で文句を言ってくる。

 求めてくれるのはありがたいけど、距離感が近すぎて怪しまれないか不安だ。


「三貴さん行きますよ」

「ぅん……支えておくれぇ」


 奈緒さんにはああ言われたが怪我をされたくない。

 なのであまり力になれているのかは分からないが支えておくことに。


「あっ、だから別にいいのに」

「そういうわけにもいきませんよ」


 今日はこのままみんなお泊りの予定なので奈緒さんの家を目指す。

 でもこのまま連れ込むとちょっとイケないことをしているみたいで背徳感。

 

「遅えよ」

「あんたね、なんで家主よりも先に来てんの」

「無茶言うなよ……」


 それにしても男の子ひとりと女の子3人って大丈夫かな。

 兄のことは信用しているけれど……ま、奈緒さんだったら負けないか。


「お邪魔します」

「おぇ……気持ち悪い」

「吐くならトイレに」

「あーい……」


 ――たった2杯でよくそこまで酔えるなあ……。

 あと奈緒さんは謎の回復能力、実は酔ったフリだったりして、ふふふ。


「あんたなにニヤニヤしてんの?」

「あ……なんでもないです」


 大吉くんが遠慮なく入っていったリビングであろう場所に続こうとしたら、「あんたはこっちだから」と早速お風呂場に連れ込まれてしまった。


「え、ここでも飲むんですか?」

「当たり前でしょ、家は安息の地なんだから」


 で、飲むとすぐに酔ってしまうと。

 で、裸な分、抱きつかれた時の精神的疲労が大きいと。

 そもそも一緒にいるだけでドキドキするのに、裸の付き合いなんて早い気がする。


「みう……あんたなんでさっき三貴に抱きしめさせてたのよ」

「いやあれは素面ではないですから……」

「嫌ではないとしても『やめてください』くらい言いなさいよ」

「……あの、抱きつかれると正直……」

「なーに? ドキドキしちゃう?」


 お酒を飲んでいるのに全然普通だ。

 やっぱり演技だったのか? もしそうだとしたらとんでもない悪い人になっちゃうけど。

 だって弱っているところを見せて相手をその気にさせた後、「残念、素面でしたー」と煽りそう。


「ま、これ以上はしないよ」

「あ……」

「そんな寂しそうな顔をしてもだめ、奈緒って呼んでくれたら手ぐらいは繋いであげる」


 ……そういえばこの人先生だった。

 その人の家に泊まって一緒にお風呂に入ってるって不味いよね……。

 でも、あくまで大吉くんに付いてきただけだし、そこにたまたま奈緒さんがいただけだから!


「奈緒」

「なに?」

「奈緒っ」

「だからなによ」


 ここぞという約束を守ってくれない。

 そりゃ人間なんだからできないこともあるけど、直前に発言したことくらい守ってほしかった。

 

「手は!?」

「ここ」

「もう意地悪っ」

「……やめなさい」

「え? うん……」


 奈緒は立ち上がる。

 正直色々丸見えだから隠しておいてほしいけど、ちょっと怖い……。


「そうじゃなくて……手を出しそうになるから」


 同意であったとしてもやっぱりバレたら犯罪?

 そういう事件も聞いたことあるし、成人になるまでは謙虚に生活しておいた方が良さそうだ。


「ごめんなさい、全然考えないで」

「ま、手ぐらいだったらいいでしょ。でも、一緒にお風呂は……刺激が強いからだめ」

「はい」

「ここでは敬語はやめなさい、奈緒のままでいいから」

「うん……」


 リビングに戻るとお詫びとしてプリンをくれた。

 なんか高そうだったから申し訳ないので分けて食べることに。


「大吉、寝るなら布団敷いて寝なさい」

「……あ、俺にもプリンくれ」

「ふぅ、落ち着いた。大吉くん、だらけ過ぎだよ」

「あ……おう、そうだな」


 三貴さんの言うことは聞くみたい。

 好きだと言っていたのは決して嘘ではないのかも。


「みう、ちょっと来て」

「うん」


 付いていくとそこは奈緒の寝室だった。

 押入れから布団を取り出し、「ベッドあるけど今日は一緒に床で寝よ」と誘ってくる。


「もう転ぶの?」

「うん……昨日仕事を張り切りすぎて眠たいのよ……ほら」

「お邪魔します」


 下のふたりはいいんだろうか。 

 けれど誘ってくれているからあまり密着しない程度に寝転んだ。


「なにそんな遠慮してんの」

「あ、じゃあもうちょっと」


 近寄ると暖かさがより増した。

 ギュッと握ると「甘えん坊ね」と彼女が笑った。


「はい、約束通り繋いであげる」

「うん」


 あくまで裸だと危なくなるけど、服を着ている状態ならただの年上に甘える年下の構図だ。


「豆電球でいいでしょ?」

「うん」

「ね、こっち向いて」

「うん」

「……うんしか言えないのか!」

「ひぇ!? う、うん、だってそれ以外になんて言えばいいの?」


 なにも否定せずにいたのに……なんの不満があったのだろうか。

 敬語だってしっかりやめた、もちろんここ限定ではあるけれど。


「来たよー……大吉くんは下で寝たー」

「三貴はあたしのベッドで寝て」

「はーい」


 よし、これで奈緒さんに怒られることもない。

 ――かと思っていたのだが、こちらにグイと顔を近づけると続きを言ってきた。


「せっかく敬語をやめたんだからもっと普通にしなさいよ」

「え、でもあれ以外にどう反応すれば?」

「あんた……」

「うん?」

「……可愛い」

「えっ!?」

「しーっ、三貴が起きるでしょうがっ」


 そもそもまだ起きていると思うけど。

 一応小声を意識しているけど……同じ部屋で喋っていたら誰だって気づく。


「奈緒はみうちゃんのことが好きなの?」

「ぶふぅ!?」

「わぁ!? 唾がぁっ!?」

「あ、ごめん。起きていたのね三貴」

「だっていま来たばっかりだし」


 ここはなにも喋らないでいるのがベストだろう。

 これはあくまで友達との会話、同年代ではないのだから沈黙が正しい。


「奈緒はみうちゃんが好きなの?」

「なに名前呼び捨てにしてんのよ。ま、そうよ、悪い?」

「でもさ、みうちゃんは生徒でしょ? 卒業まで待つの?」

「……そうよ」

「でもさ、お風呂場で襲おうとしていたでしょ?」

「……違うわよ」

「ま、私はいいと思うけどねー……おやすみー」


 卒業までだとかなりの時間を要するなあ……。

 正直に言っていますぐにでも奈緒が求めてくれるならそうしたいんだけど。

 すぅすぅと眠りだす三貴さん。

 彼女もまたお仕事が忙しかったのかもしれない、某キャラクターのような早さ。 


「みう、ごめん拭くわ」

「大丈夫、もう拭ったから」

「ごめんなさい」

「いいよ、大丈夫」


 ――ちょっと心が危ういため反対を向く。

 彼女もこちらの行動を咎めるようなことをしな――こちらの頭部をグイと無理矢理引っ張る彼女。


「い、痛い痛いっ」

「……わざわざ向こう向かなくていいでしょ」

「ちょっとね……心が危うくて」

「心が危うい?」


 だって正直に言って好きな人と一緒に寝ているんだよ?

 手は先程ので離してあるけど、先生と寝ているという要素もかなり影響している。


「……奇遇ね、あたしも同じ。だって好きなあんたが横で寝ているのよ? でも……一応教師だしこれ以上は辞めてからじゃないとできない。それが苦しいなら……一緒にいるのはやめなさい」

「……キスとかは無理ってこと?」

「まあ、そもそも付き合っていないしね」


 教師をやっている以上付き合うことはできない。

 一緒にいても苦しい気持ちになるだけ――本当なら諦めた方が間違いなくいい。


「卒業するまで待ちます、あなたは大切な人ですから。先に奈緒が飽きないか心配だけど」


 でも小学校低学年からずっと探していた人なんだ、それに比べれば遥かに少ない。


「そ……おやすみ」

「うん、おやすみ」


 反対を向こうと寝ようとしたらまた掴まれたので向き合ったまま寝たのだった。




 抱きしめたい、キスしたい、その先は――まだいいけど。

 みうが寝ている間にそのまましてしまうのはとても楽なことだ。

 それでもあたしは一応教師、これ以上はできない。


「奈緒」

「あんた昼夜逆転生活なの?」

「いや、ちょっと下で飲もうぜ」

「分かった、行くから先言ってて」


 良かった、あのまま見ていたら間違いなく……ま、できなかったけど。


「ほら、来る前に買っておいたんだ」

「ちょっと高いやつじゃない。いまは思い切り酔いたかったから助かったわ」

「ん? どうした?」

「はあ……ちょっとね」


 教師になっていなければみうと出会えていなかったというわけでもない。

 大吉とは連絡を取り合っていたんだから、一緒にいる過程で出会えたことだろう。

 でも、学校でなければこうなったかは分からない。

 教師と生徒だからこそいまの状況が出来上がった形もある。


「教師、辞めようかしら」

「そんなにすぐ辞められるのか? 次の働き場所は?」

「分かんない」

「ふっ、本当に辞める気があるのなら辞めるって断言するだろ」


 そりゃそうだ、こんな仕事簡単に辞められるわけがない。

 今更他を探すのは面倒くさいし、なによりみうが待ってくれるって言った。


「でも……キスしたいのよ」

「すればいいんじゃね?」

「未成年に手を出したら犯罪よ、それで男子教師が捕まっていたじゃない」


 海外なんかでは女教師が男子生徒に手を出して捕まったことも知ってる。

 同意があればいいというわけではない、なによりここで手を出すのはみうを裏切ることになる。

 大人ならあとほぼ2年くらい耐えてみせろ――って、思っているんだけど……。


「内緒でキスしているやつとかいそうだけどな。それとも俺らがチクると思っているのか?」

「生徒に手を出した20代の女寿々花奈緒が――なんて言われたくないわよ。卒業するまで待つ……キスしたい!」


 我慢する、みうのためにも。

 外で会うのも今後面倒くさいことになると嫌だからやめる。

 ID交換だけはしておいて、毎晩電話とかしておけば多分耐えられる。

 あくまで寿々花奈緒と詩奏音みうという教師と生徒の関係でいないと。


「……大吉、あたしがあの子と正式に付き合えるまで頼んだわよ」

「おう、兄だからな」


 不安なのはみうが逆に飽きないかというところか。

 しつこくない程度にしっかりやり取りを交わしていれば大丈夫だと思いたい。


「卒業した瞬間にプロポーズするわ」

「付き合うんじゃなくて結婚かよ」

「そうよ」


 ま、それくらいのつもりで責任を取るつもりだった。

 卒業したら家に来てもらいたいくらい、みうのお母さんにも挨拶をする。


「その頃にはあんたにも彼女ができているのかしらね」

「ねえな、飯が恋人だ」

「あははっ、あんたらしい!」


 しかしこっちはそうもいかない。

 あの子にとってあたしがそれっぽい存在だったように、あたしにとってもそうなのよ。

 だからこそ何回も直してほしいところを指摘してきた、諦めず毎日ずっと。

 その結果、恐らく苦手だと思われただろうけど、昔のあたしがきっかけを用意してくれていた。

 大丈夫、あたしと違ってあの子は嘘をつかない。

 信じて教師を続ければいい、そうすればなにも問題はないのだから。


「ビールが美味しいわ」

「今日は酔わねえんだな」

「酔ったらあんたに襲われるじゃない」

「襲わねえよ」

「ま、襲われないけどねー」


 襲われるのならあの子から。

 そこまで待たせれば襲ってくれるかしら?

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