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09

「みうみう……卒業だねぇ……」

「うん、早かったね」


 まだ長いなんて思っていたのに、気づいたら就職活動も修学旅行も最後の行事達も終了していた。

 卒業式も終わり、奈緒ではない担任の先生の最後のHRも終わり、私達はもう外にいる。


「みう」

「あ、佑磨くんと絵梨香ちゃん」

「卒業おめでとうございます……寂しいですけど、おめでたい日ですから泣きません!」

「ありがとっ、こっちもここで会えなくなるのは寂しいな」


 別に一緒のところを意識したわけではないが、佑磨くんがメインの方で私は事務員となった。

 だから少し不安じゃなかったりもしている、みうみうは上京して専門学校に行くと聞いた。


「ま、俺とみうは一緒のところだけどな」

「……お兄ちゃんには私がいるもん」

「別にそういうつもりじゃねえよ。それにみうは――っと、来たみたいだな」


 現れたのはあれからはあくまで教師を貫いた奈緒。


「うぅ……なんで最後は奈緒ちゃんじゃなかったのぉ……」

「そんなの知りませんよー、校長先生に言ってください」


 む、奏音が奈緒に抱きついている……。

 私だって2年の春にしたのが最後なのに。


「奈緒先生、仕事場では任せてください、みうは守りますよ」

「佑磨くん、なんで名前で呼んでいるんですか?」

「3年生になった時からずっと呼んでいますけどね。これで失礼します、お世話になりました」

「はい、これからも頑張ってくださいね」


 敬語似合わないな奈緒って。

 それでも結局最後までこのスタンスを崩そうとはしなかった。


「みうみう……私もココサクと約束があるから行くよぉ」

「うん、頑張ってね」

「そっちもね! 奈緒ちゃんもありがと!」

「はい、これからも頑張ってください」


 3人が去っても人気者の彼女の周りには沢山の人が。

 だから写真を撮ったり、楽しそうに会話をしている卒業生を眺めていた。


「よ」

「あ、大吉くんっ」

「泣いてなかったな、ドライだなー」

「いや、周りの子が泣いていたから泣かないようにしないとって心がけてた」


 それでも合唱は正直に言って酷いものだったけど。

 ああ、泣いてる……と思いながらずっと歌ってた。


「ちなみに俺は卒業式の時、腹減ったなって思っていたぞ」

「大吉くんよりマシ」

「奈緒は号泣だったし、三貴は満面の笑みだったな」


 それはそれで怖い気が、暗い顔をしているよりはいいけどね。


「大吉……さん」

「気持ち悪いからやめろ。どうした?」

「守ってくれてありがと……うございます」

「敬語はいらねえよ」

「そうもいかないでしょう……?」


 生徒がいるから気にしているんだ。

 そうだ、せっかくここまでお互いに頑張ってきたのだから無駄にしたくない。


「後で行きますね」

「マジですんのかよ」

「ここまで待ったんですよ? まだ待てと?」

「いや、そもそも母さんには言ってあるしな」

「はあ!? なに余計なことしてん……るんですか!?」


 大声に反応し周りの子、親が振り向く。

 奈緒は慌てて頭を下げてごほんとこの場を整えた。


「あと、お前の家に住ませることも全部言った」

「はあ……それでお母様はなんと?」

「『いいんじゃない?』以上」

「軽いですね……それでも不安なので今日行きますよ。誘拐したとか言われたくないですから」


 彼女は学生ほとんどに人気があるためまた色々と話し合うのに戻っていた。

 こちらは挨拶を済ましてから帰路に就き始める。


「佑磨と一緒なんだって? それなら安心だな」

「うん、不安はあんまりないよ」

 

 彼と友好関係が続いていれば絵梨香ちゃんと出会えるし悪くない。

 職場では休憩時間などをひとりで過ごさなくて良くなるかもしれない。


「ただいまー」

「おかえり」

「んー、来てほしかったなあ」

「ごめんなさい……腰が痛くて……」

「冗談だけどっ、卒業したよ!」

「知ってるっ」


 夕方までなにをして過ごそう。

 大吉くんと一緒に飲んで過ごしてもいいけど(もちろんジュース)、まだ時間も早いし……。


「みう、奈緒先生……奈緒ちゃんは?」

「うーん、みんなに捕まっているよ。下から上まで人気だから」

「いいわね、あなたとは違うわね」

「や、やだなー、年下からも好かれてるし」


 なんだかんだ言って桜ちゃん心ちゃんと仲良くなったから!

 全部サーブを拾ってあげたけどね、相手が強くなればなるほどこちらも強くなるのです。


「みう、付き合え付き合え」

「はーい。私はオレンジジュースで参戦だよ」

「なら俺はビールだな」

「いつもどおりじゃん!」

「そうとも言うなっ、あっはっは!」


 ――飲みすぎて夜ごはんが入らなくなった。

 夜になる前に奈緒がやって来て改めてお母さんに説明していたけれど、やはり「いいんじゃない?」と母は軽いものだった。

 あまりにも上手くいきすぎて「え、だ、大丈夫なの?」と奈緒に聞かれてしまうくらいには。


「奈緒!」

「みう!」

「「私のこと好き!?」」


 そんなの聞かれなくても好きに決まっている。

 もどかしい想いを抱えつつこれまで頑張ってきたんだ。

 今更ここで「やっぱりやめましょう」なんて言われたら、正直どこかに消えてしまいたくなるくらい。


「私は好きよ」

「私も! 今日を待ってた!」

「ふふふ、禁止していたビール飲んでもいい?」


 そう、付き合えるまでなぜか禁酒を始めた彼女。

 時々ヤバい顔色だったけど、いまとなってはあくまで普通だ。


「いいよっ」

「やった!」


 ――から10分後、


「もうだめぇ……」

「あらら、いつもどおりだね」


 彼女がすぐに酔うぐらい分かっていることだ。

 しかし今回は少し違って、そのまま寝転んでしまった。


「もう、風邪引いちゃうよ?」

「……みうが抱きしめてくれれば治る」

「じゃあはい」

「……おぇ、気持ち悪い」

「えぇ……」


 そりゃ凄く久しぶりなのに一気飲みなんかしたら駄目だよね。

 念の為に袋を持ってきたが、幸い吐くということはなかった。


「駄目だな奈緒は」

「私の名前はもうみう専用なの、結婚するの」

「はいはい、勝手にしてくれ」

「なら式はいつにする?」


 お母さんが食いつく。

 彼女は逆に「え、あ、あの……と、止めないんですか?」とまた狼狽えていた。


「止める必要はないじゃない、だって娘と結婚してくれるんでしょう?」

「母さん、まだ同性婚はできねえよ。同棲はできるけどな」

「ならみうは奈緒ちゃんに引き取ってもらおうかしら」

「ちょ……私が迷惑みたいに……」

「だって奈緒ちゃん奈緒ちゃん奈緒ちゃんってうるさかったものね、これで邪魔をしたら殺されてしまうかもしれないもの」


 一応常識があるしそんなことはしない。

 というか別にそこまで家を出たいとも考えていなかった。

 なんだかんだでお母さんや大吉くんと過ごすのは楽しいから。


「でも、たまには帰ってきなさいよ?」

「え、ちょ、出ていくことは決定事項なの?」

「奈緒ちゃんを見なさい」


 それで見てみたが……なんかよく分からない顔をしている。


「家に来てほしいって顔をしているでしょう?」

「え、大吉くんもそう見える?」

「いや、固まっているがそうは見えねえな。ただ、こいつはずっと言っていたからな、行ってやったらどうだ?」

「え、大吉くんも私が迷惑?」


 もしそうだとしたら悲しい。

 これでもずっと兄妹仲良くやってきた。

 そのほとんどは兄が優しいから成り立っていたわけだが、それでもこの仲良し度だけは自慢できる。

 でも、我慢を強いさせてしまっていたのなら……出ていくのが正しいのだろうか?


「なわけねえだろ。お前は可愛い妹だからな、お前がいなくなったら酒飲むのつまんねえだろ? だから本当は行ってほしくねえんだ。でもまあ、こいつ頑張ったからな」

「ちょっと……気軽に頭に触れないでよ」

「とまあ、みうと違って可愛気はねえけど、いいんじゃねえかって」


 お酒を飲む時につまらないとかってあるのだろうか……。

 ま、まあ、嫌がられているわけではないだろうから一安心。


「よし、荷物まとめるぞ」

「うん……」

「別にずっと会えないってわけじゃねえんだから気にすんな」

「うん」


 といっても寂しいことには変わらない。

 いや、確かに奈緒とは一緒にいたいよ? そのために2年生の春からずっと我慢していたんだし。

 それでもわざわざ同棲する必要ってあるのかなと、あまりない頭を悩ませてしまう。


「みう、あたしは来てほしいと思っているけどあんたが嫌なら……」

「嫌ではないんだよ? でも、大吉くんやお母さんが家の中にいない毎日が始まると思うと……」

「……あたしは本気よ、あんた――あなたと最期まで一緒にいたいと考えているわ」

「それってプロポーズ?」

「そうよ」


 兄が言うように距離があるわけではないしいつでも会える。

 が、これからはお仕事も始まるし奈緒の方は一緒に住みでもしない限り減ってしまうと……。

 あれだけ我慢したのに、それは大変良くない。


「……分かった、奈緒の家に行く」

「みうっ」

「うん、だって奈緒のこと好きだもん」

「あたしも好き!」

「おいおい、それは後でやってくれ。片付け……って、もうまとまってんな」


 そう、奈緒が大好きなお酒を禁止にして頑張っていたからある程度はまとめていたのだ。

 いらないものはどんどんと捨てて、いつかこうなるであろうことを想定しダンボールに。

 しかしそうなると分かった瞬間に先程のが出てきてちょっと困っていた、というところだろうか。


「なら車でもう行くか、流石にこれを持って運ぶのは辛いからな」

「うん」


 荷物を運んで全部車に詰め込んだら部屋が凄く広く見えた。

 ……2度と来られないというわけではない、だから寂しがる必要はないと心に叱る。


「じゃあ、お母さん」

「ええ」

「あれ、特にないの?」

「ないわよ、奈緒ちゃんのお家は近いし」

「あ、そう……行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 車に乗り込んで後ろを見ると荷物の山で外は見えなかった。


「行くぞ」

「うん、よろしくね」


 そういえばここだけの話だけど、私は大吉くんが運転しているところを見るのは初めてである。

 ところが特別怖いというわけでもなく、あっという間に奈緒の家に着いてしまった。


「おぇ……あんた運転荒すぎ」

「そうか? みうは平気そうだぞ?」

「それはあれよ、一応車で運んでもらっているから顔に出していないだけだけよ」


 ち、違うんだけど……とにかく荷物を運ばせてもらおう。


「ちなみにみうとあたしは同じ部屋で寝る予定だからね」

「一緒に住むんだからそうだろ」

「ま、分かっているならいいけど」


 しかし主な荷物は1階に置かせてもらうことになった。

 そこまで量があるというわけではないが、色々なことを考えての選択らしい。


「それじゃあな、みうのこと頼むぞ」

「任せなさい。まあ……あんがとね」

「おう、みうもな」

「うん! ありがとっ、それじゃあね!」


 今更ながらに卒業したんだって気持ちが出てくる。

 学生だった時とあんまり変わった気はしないけれど。


「もう20時ね」

「うん、早いね」


 今日卒業式だったと忘れそうになるくらい。

 こうして奈緒の家に住むことになったのが大きいか。


「……本当はもうぐちゃぐちゃにしたかったんだけど、なんか満足しちゃった」

「私が成人になるまで待つってこと?」

「よく考えたら卒業した瞬間に襲おうとするなんて良くないでしょ?」

「そうかな?」

「……でも、これだけはさせて」


 抱きしめられたら――あの時のドキドキが戻ってきた。

 多分奈緒にも聞こえてる、仮に聞こえてなくてもドクンドクンと鼓動の強さは伝わっていると思う。


「……我慢してたからヤバいかも」

「奇遇ね、あたしもよ」


 ……とにかく至近距離で顔を見るなんてことにならなければ大丈夫。

 思い切り彼女を抱きしめて、とにかくこの良くない気持ちを片付ける。


「おかしいわよね、この日をずっと待っていたのに」

「いざその日になったら迷うとかってあるよ」

「さっきのみうみたいに?」

「うん」


 学校に行くことはできない。

 その間に彼女に興味を抱く人がでてきたら?


「卒業したくなかった……」

「なんで」

「だって……学校で奈緒に人が近づくかもしれない、人気者だから」

「仮にそうだとしても本当の意味で隣にいてほしいのはみうよ」

「ほんと?」

「ええ」


 なら、その証拠がほしい。

 そうすれば不安にならなくて済む、というほどではないにしても落ち着けるから。


「して」

「……それってキス?」

「そうすればちょっとは安心できる」

「あたしは別にいいけど……」


 卒業したと言っても未成年で、相手は成人女性及び教師。

 色々とゴチャゴチャしすぎていてなんとなく駄目なことを求めている気すらするけど。


「心配ならお母さんに聞こうか? 奈緒とキスしていいかって」

「え、き、聞けるの?」

「うん、じゃあ聞くね」


 付き合っているのなら恥ずかしいことではないため電話で直接確認。


「お母さん、奈緒とキスしていい?」

「……いきなり電話をかけてきたと思ったら急にそんなこと?」

「いや、保護者の同意がいるのかなって」

「好きにしなさい、ただし外ではしないこと。あと、いちいち聞いてこなくていいからね」

「そんなことしないよ。うん、ありがと!」


 よし、これで大丈夫。


「家限定だけど許可もらったよ」

「……あんた勇気があるのね」

「いや、私も真剣だから。だからあれからはちゃんとしたよ。IDだって登録解除したし、外で会うこともやめたし、学校でだって普通の生徒を貫いた。あくまで奈緒が受け持つクラスの生徒って感じでね。3年生の時は担任の先生が奈緒じゃなくて残念だったけどさ、だからこそ卒業後が楽しみだなって思ってたからね。でも……不安なら20まで待つ?」


 その方が堂々とできる。

 それに仮に奈緒が人気でもあそこまで言ってくれた人を疑う必要はない。

 逆に私が我慢して成人まではピュアな時間を過ごせばいい。


「分かった、それなら成人になるまで待つよ」

「えっ、あっ……そう」

「うん、これは奈緒のためだから」


 20歳になればオールフリー。

 他人に迷惑をかけなければ咎められるようなことは一切ない。


「……ま、一緒に住めてるだけでも十分よね」

「そうだよ、だっておはようもおやすみも言えるんだよ?」

「そういえばそうよね。うん、十分なことだわ」

「そう。でもさ、お仕事が終わったらすぐに帰ってきてよ?」

「あんたこそ早く帰ってきなさいよ?」

「大丈夫!」

「ふっ、ならあたしも大丈夫よ!」


 とはいえ、


「抱きしめるぐらいはいいよね? 性行為じゃないっ」

「そうね、付き合っているならこれくらいするわよね」


 ――ま、そもそも抱き合ったままだったんだけど。

 たった2年くらい小学生から探し続けたあの日々よりは断然短い。 

 なんてことはない、この温もりが側にあるのならそれでいい。


「あなたのことが好きです、付き合ってください」

「え、付き合ってなかったの? あ、そういうこと……あたしも好きよ、付き合ってあげる」

「うんっ」


 ……うーん、でも長いなあ。

 それでもちゃんと我慢できた方がその時に嬉しいはずだから。

 こうして一緒にいられたり抱きしめていられればそれでいいなと心から思ったのだった。

読んでくれてありがとう。


創作なんだからキスなりそれ以上でもなんでもさせればいいと思うんだけどね。

どうしても書く時に調べて……良くないかと思ってしまう微妙さ。

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