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 いくらも美味しかったけどハンバーグが1番美味しかった。

 兄が一生懸命作ってくれたのが大きい、そういう愛情ってのは何倍にも満足感を高めてくれる。


「こんにちは」

「あ、絵梨香ちゃん」


 今日は誰にもなにも頼まれなかったから帰ろうとしたら校門の所で彼女が話しかけてきた。

 どうやら佑磨くんを待っていたというわけではないようだが、目的はなんだろう。


「あの、兄と出かけるという話をしたじゃないですか」

「あ、そうだね、佑磨くん行ってくれるって言ってたね」

「……その、別にデートというわけではないんですが……どんな服を着ていったらいいですかね」

「え、それ私に聞くの? 経験ないけど……」

「え!? あ、冗談ですよね、慣れない私に合わせてくれているだけですよね」


 ちがーう! 私こそそういう経験したことないから困っているんだって!

 それでも満足してくれそうにないので、実際に服を着てもらい意見を言わせてもううことにした。


「どうですか?」

「可愛い」

「これは」

「可愛い」

「な、ならこれは」

「可愛い! どれでも可愛いよ!」


 シンプルでも多少派手でも大胆でも、全部似合っているし可愛い。

 中学生という若さも影響している、私が同じことをしてもここまでキラキラにはならない。


「ちょっと着てみてくれませんか?」

「別にいいけど」


 というわけでお着替え。

 身長はそう離れているわけでもないことから、平気で着ることができてしまった。

 ただなぜだか胸ら辺がスカスカで……虚しい気持ちになったけれど。


「可愛いですっ」

「そうかな? 絵梨香ちゃんが着ていた時の方が良かったよ」

「……これでいいですかね」

「未経験ながらに言わせてもらうと、直感でいいんじゃないかな。難しく考えると悩んじゃうから、もう目を瞑ってどれにしようかな~って選ぶのがいいと思う」


 さすがにそういう意味で意識してくれることはないだろうけどね。

 でも、俺の妹ってこれだけ可愛かったか? となる可能性は0ではない。

 自分と出かけるためにお洒落してくれたというのもポイントが高い気がする。

 だつて私のために菜乃さんが気合い入れて来てくれたら嬉しいし……まあないんだけど。


「あの、兄が好きだとかは……」

「ないよ? だから安心してほしいかな」

「あ、安心って別にそういうつもりじゃ!?」

「ふふふ、迷惑をかけているわけじゃないし周りの意見なんかどうでもいいよ。いいんだよ、お兄ちゃんが好きでも」


 恐らくそんなこと言っておきながらどうせ家では仲良くしているというのがオチだろう。

 仮にそうじゃないとしても、上手くいかなくてちょっと羨ましいからそんなことを言ってしまうんだ。

 いいじゃん、仲良しで、いちいち言われる意味が分からない。


「私、兄が好きなんです……あっ、そういう意味じゃないですけどね! 優しくて、いつも一緒にいてくれるから……」

「私も兄のこと好きだよ」

「でも……実際一緒にいると恥ずかしくて上手く話せなくて……どうしても棘のある言い方になって、あーなんでこんな言い方しかできないんだろうってモヤモヤしています。しかも相手が同じ建物内にいるじゃないですか、そう考えると落ち着かなくて結構夜ふかしとかしちゃって……寝不足で先生に怒られたりするんですけど……」


 兄と上手くいられなくて夜ふかしとかそういうのはないな。

 喧嘩しても1時間後くらいには普通に一緒にテレビを見て笑うとかそんな感じだし。

 それにしても恥ずかしくて上手く話せないって、もう完全に恋する乙女だ。

 若い子は恋をしているというのに年上の私はこんな……良くない、停滞しすぎている。


「絵梨香、入っていいか?」

「えっ、あ、う、うん」


 あれ、いつの間にか帰ってきていたみたい。

 観察してみた限り、彼は放課後遅くまで残るタイプなので珍しかった。


「来てたのか」

「うん、お邪魔してます」

「おう。それでさ、今週の土曜日なんだが」

「う、うん」

「朝早くから行こうぜ、約束したんだからその日は朝から夜まで外にいようと思ってな」

「うん! 分かった!」


 おぉ、凄く嬉しそう。

 でも、朝から夜までってどういう風に過ごすつもりなんだろうか。


「金も俺が全部出してやるから」

「え、ちょっと怖いよ……なんか対応良すぎて」

「別にいいだろ、全部出せって言ってるわけじゃないんだから。――ん? つか詩奏音が着ている服、絵梨香のやつだな」

「あっ、勝手に着させてもらったんだ」

「結構大胆なことするやつなんだな。まあ返してやってくれよ? それ、お気に入りのやつだからな」


 ん? それは彼にとって、ということなのだろうか?

 もしそうだとしたら、それこそ大胆な発言をしていると思うんだけど。


「お、お気に入りって……お兄ちゃんにとって?」

「おう、それは絵梨香に1番似合っているからな」

「すみませんでしたすみませんでしたすみませんでした! いまから脱ぎます!」

「わあ!? ここで脱いだら駄目ですよ!」


 お邪魔なので出ていくことを決心。


「今日はありがとうございました」

「うん、土曜日楽しんでね」

「ありがとうございますっ、楽しんできます!」


 人のそれを応援している場合ではないんだが?

 ……そろそろ勇気を出して自分の方から誘ってみる必要があるのかもしれない。

 日曜日にどこかへと……菜乃さんと行きたいから。


「みう、まだ起きてんのかよ」

「うん……返事がこなくて」


 モヤモヤして夜ふかしって言っていた彼女の気持ちがよく分かった。

 19時くらいにメッセージを送ったのに、もう22時を越えているのに返事がこない。

 いや、今日も明日もまだ平日だから早く寝たいのかもしれないけど、YESかNOくらい返事はしてくれてもいいと思う。


「今日はもう諦めろ、社会人ってのは仕事から帰ってきたらゾンビみたいなもんなんだよ、疲れるんだ、返事すら億劫になる時だってある」

「分かった……」


 さっさと寝て起きたら多分きているはず。

 ……色々な感情と戦いつつも夜を切り抜けて朝までぐっすり寝た。

 だが、返事はこない。

 休み時間に確認、それからも授業確認授業確認――放課後になる前にさすがに察した。

 前に無理やり帰ってしまったことが影響してしまっていたんだろうって。


「みうみう、今日は元気ないね?」

「そう? 普通だよ。あ、練習なら付き合うよ」

「今日は普通にみんなで練習があるから。その後に自主練するつもりだけど……そうすると20時を越えちゃうからね、さすがに頼れないよ」

「いいよ、どうせ暇だし」

「え……うーん、でもなあ……やっぱりいいよ、申し訳ないからさっ、じゃあね!」


 なにかをして気を紛らわせたかったんだけど……。

 兄は会社の人と飲みに行くとか言っていたから、家に早く帰る理由もない。


「いやあ……どうすればいいんじゃあ……」


 教室からもあっという間に人が消えて、誰かがなにかを頼んでくれる気配もない。

 しょうがないから意味なく掃除でもすることにした。

 トイレ掃除とか床拭きとかやることは結構なんでもある。

 誰にも迷惑をかけることなく、それどころか気持ちいい環境で勉強できるんだから悪くないだろう。


「今日もですか?」

「はい、暇だったので」

「家に帰りたくないんですか?」

「やることないので、ちょっと時間をつぶしてから帰ろうかと」


 今日はまだ18時前だしチクチク小言を言われることもないはず。

 それでも奈緒先生はどこかに行くというわけでもなく教室に入っていった。

 私は最後の仕上げを開始。

 始めると楽しいし、中途半端は嫌いだから何事もしっかりとだ。


「お疲れ様でした」

「はい、ありがとうございます」


 ううむ、少しだけ雰囲気が暗い気がする。

 とはいえ、友達でもなんでもないんだから聞くことはしない。

 挨拶をして昇降口に向かう。

 別に重い足取りとか別れたくないとかそういうのはなかった。

 あったのは、なんであの教室でなにもせず私の椅子に座っていたのかという疑問。

 実は昔に通っていた時、あそこの席だったとか?

 0ではないだろうけれども……なんかスッキリしない。


「よう」

「はい、どうしましたか?」


 名前も顔も学年も知らない男の人。

 なぜかそのまま腕を捕まれどこかに連れて行かれようとしている。

 危ないことなんて起こらないって考えていた。

 だってここは学校内で、先生だって先程奈緒先生みたいに歩いているから。

 でも、そもそも人の少ない放課後の校舎内、どんどんと暗い方へ連れて行かれようとされているなんて考えたら不安になってきてしまった。

 だから慌てて足を止めて手も振り払おうとしたが、力が強くてできなくて……。


「待ってください、どこに連れて行くつもりですか?」


 現れたのは先程と違って怖い顔をした奈緒先生。教室にいたのにどうやって気づいたんだろうか。

 ちなみに、質問に対して「別に反対の校舎にだけど」と男の人は答えた。

 先生に敬語を使えないのは駄目、この時点で付いていく気なんか全部消えたのは言うまでもない。


「なんでですか? 美術室とかいまは用がない部屋しかありませんよね? そこだって鍵が閉まっていて開かないと思いますけど」

「いいじゃねえかよ、俺らは友達なんだから」

「お友達、なんですか? 詩奏音さん、その子の名前言えますか?」

「分からないです……いきなり引っ張られて」

「ちっ……」


 結局、私の腕から手を離してその人は暗い向こう側へと歩いていった。


「はあ……あなたはなにをやっているんですか」

「え、あ、ありがとうございました、なんか急に掴まれて……」


 怒りモードはまだ継続中のよう。

 暗かったり怒っていたり今日は忙しい人だ。

 

「知らない人に掴まれたんだとしたら、せめて叫ぶなりしてくださいよっ。いつだって誰かが助けてくれるわけではないんですよっ?」

「すみません……」

「はあ……あなたはもう特に事情がない限り残るのはやめなさい、分かりましたね?」

「別にそこまで子どもじゃあ……」

「私達からしたら子どもですよ!」

「ありががとうございましたっ、失礼します!」


 なんで今日はチクチク小言モードなんだ……。

 釈然としないものの、きちんとお礼を言えたところは評価してほしい。

 でもなあ、そうでなくても似た名前の人とのそれでモヤモヤモードなのにさあ……。


「……全然スッキリしなかったなあ」


 掃除した後にこんな気分でいるのは初めてだ。

 どうすればこの気持ちが晴れてくれるのだろうか。




「大吉……」

「なんだよ、こっちは家に帰っているところなんだが……」

「みうの相手……難しくない?」


 いきなり電話がかかってきたと思ったらそんなこと。

 難しいに決まっているだろ、なんたって教師と生徒なんだから。

 しかも嘘をついている状態であり、それを明かすわけにもいかないから多分解決しない。

 それでもみうは「菜乃さんと仲良くしたい」って口にした。

 奈緒だってしっかり仲良くするって口にしたと聞いたわけだが、まあ全部こいつが悪いな。


「もうバラしたらどうだ?」

「できるわけないじゃない……そんなことしたら……それに仲良くしたいって言われた時、教師と生徒だからって断っちゃったし」

「馬鹿だろお前」

「そうですよっ、馬鹿ですよ!」


 酒も全然飲めなかったから微妙な気持ちをこいつで発散しようと決めた。


「で、なんでいきなりそんな電話?」

「今日さ……あの子上級生に連れて行かれようとしていたのよ」

「は? それって……」

「ま、悪いことでしょうね多分。それを止めて、なんかイライラしてさあたしも……はあ」


 治安悪いな、俺らが通っていた時でもそんなのなかったぞ。

 つかあれだな、それどうせみうのことを追っていたんだろうなこいつ。

 1番悪いことをしていたのは奈緒自身だったってことだ。


「喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩? ……違うんじゃない? 断ったせいでそもそも距離を置かれているのよ」

「全部お前が悪いじゃねえか、日曜日だってお前が三貴を連れてくるから拗ねてたぞ」

「しょうがないじゃん……久しぶりに会えるってなったんだから。それに三貴はあんまり長くいられないって言ってたし、その後ちゃんといようと思っていたのに……」

「いや、俺が言うのもなんだが蔑ろにされていたら帰りたくもなるだろ」


 それで事実帰ったわけだし、もう信用しないとまで口にした。

 それはつまり奈緒のことを大切な存在だと扱っているだろう、なのにこいつはこれだからな。


「お前が距離を置いてんじゃねえのか? 教師と生徒だからーとか言ってよ」

「しょうがないじゃない……だって実際そうなんだし」

「土曜の夜か日曜日ぐらいしか会えないって辛いだろ」

「だから……学校ではなるべくいようとしているけど……あたしが言ったことのせいで……」


 自業自得としか言えねえ。

 どうせ俺がそう言ったところで「しょうがないじゃない」で終わるんだから意味がない。


「ハッキリしろ、仲良くなりてえのかそのままでいいのか」

「仲良くなりたいに決まっているじゃない。それに約束したんだから」

「で、お前はそんなあいつに怒って怒らせたと?」

「だって危ないじゃないっ、なのにあの子叫びもしないで連れて行かれようとしているからさ!」

「それはお前の言う通りだな。でもよ、気になってるやつから子ども扱いは嫌なんじゃねえのか?」


 なぜ恋愛なんてしたことのない俺がアドバイスなんて……。

 鬱憤を晴らすつもりがこれって、馬鹿なことをしているのは俺の方だな。


「気になってるって……みうがあたしを?」

「そうじゃなければ仲良くなりたいなんて言わねえだろ。つか……もう家に着くんだが」

「そのままにしてて」

「お前がいいならいいけどよ」


 そのままポケットにしまって家に入る。


「おかえり」

「おう、ただいま」

「あれ、酔ってないの?」

「全然飲めなかった、行く意味ないなあれじゃ。風呂溜ってるか?」

「うん、さっき入ってきたところだから」

「じゃあこれ、スマホ持っていてくれ」

「分かった、部屋に置いておくね」


 ま、これくらいは許せよ奈緒。

 このまま続けるならどうせバラさなければならないんだからな。

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