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04

「あ、待って!」

「うん? どうしたの?」

「お礼、渡してなかったなって。ケーキだから今日食べてね、ありがとね!」

「だからお礼は……あ、もう行っちゃった」


 まだ学校が始まったばかりだし悪くなっちゃうよこれ。

 このまま放置しておくとちょっと怖いな、だからって堂々と教室で食べるわけにも……。


「詩奏音さん、その中身ってなんですか?」

「えっと、クラスメイトからケーキを貰いまして」

「それなら冷やしておきましょうか? 職員室に冷蔵庫がありますけど」

「あのっ、これ寿々花先生が貰ってくれませんか? お礼をしてほしくてしたわけではないので」

「ふぅ、謙虚なのはいいと思いますけど、せっかくくれたものをそういうことはしない方がいいと思いますけど」

「……なら冷蔵庫に」

「分かりました」


 なんだろうな、こっちの言うことなんて全く聞いてくれない。

 それなのに話しかけてばかりくる、なにが目的なんだろうか。


「あ、みうみう!」

「はあ……」

「えぇ!? 大きなため息をつかれた!」


 今度からは頼んでもいいけどお礼を言ったり、したりしないでと言えばいいかな。

 そうすればここまで微妙な気持ちにならなくて済むから。


「ふぅ……」

「どうした詩奏音」

「あ、佑磨くん」


 もしかして佑磨くんも?

 袋を持っているし嫌な予感がする。


「俺はこの飲み物をやろうと持ってきたんだが」

「やめて、そういうつもりじゃないって言ったよね?」

「じゃあ……これはどうすればいいんだ?」

「他の子にあげたらいいよ。私はね、ただあなた達を利用しているだけなの。だからいいんだよ、働いて当然くらいで考えていてくれれば」

「なら俺がこれを渡しても文句言うな」

「あ、もう……」


 お人好しでいたって格好良くなんかない。

 彼こそ誰にもアピールしたりしないで頑張ったのに。


「どうぞっ、これはあなたの労力への対価です」

「おい、俺はお前にやったんだが?」

「私はあなたの頑張りに対してこれを渡しています」

「はあ……頑固だなお前も」

「そっちこそ、私はいらないって言ったのに」


 1度私の物になったのならあげる権利もある。

 こうして貰ったりしてしまうとそれが当たり前になってしまうから嫌なんだ。

 優しくされると勘違いしてしまう、最悪なことに終わってからしかそれに気づけない。


「みうちゃん!」

「うん、どうしたの?」

「なんで昨日先に帰っちゃったの!」


 だって部活のお仲間さんがいるのに素人がいる意味はないだろう。

 あ、でも……結局中途半端なことをしてしまったということだ。

 しまった……これも結局翌日とか時間が経たないと気づけないんだから質が悪い。


「ごめんなさい……引き受けておいて中途半端に……」

「それはいいけどさ、こっちはみうちゃんを利用するだけ利用してお礼をしない悪い人間みたいじゃん」

「お礼なんかいらないよ、もう始まるから」

「うん……」


 菜乃さんだったらガツンと言ってくれる気がする。

 中途半端なことをするなと、ハッキリと。

 その後の休み時間を利用してメッセージを送らせてもらう。

 さすがに調子に乗りすぎた、とにかくいまは叱ってほしい。


「あれ、今日はお休みなのかな」


 すぐに『いいよ』と返信が。

 お礼を告げてどこで会うかを聞いたら『なら今度はファミレスで』と菜乃さんが。

 良かった、お洒落なお店で叱られたらかなり凹むし。

 今度の日曜日の16時に集合することになった。

 私はいまからワクワクとソワソワが止まらなかった。




「こんばんは」

「はい、今日はすみません」

「別にいいわよ。大吉は?」

「家でゆっくりしています、今日はふたりきりが良かったので」


 適当に注文を済ませて、だけどまだ切り出したりはしなかった。

 せめてごはんを食べてから、ジュースを飲んでくるのを待つ。


「あ、お酒は気にせず飲んでくださいね」

「いいの? それなら頼もうかしら」


 そうすれば叱ってくれる。

 お酒を飲むとすぐに酔う人なのでそれを狙っているのだ。

 運ばれてきたごはんを食べて、お酒でベロンベロンになった時がチャンス。


「あの、叱ってくれませんか?」

「はいぃ? ……ん、やだ、みうは悪いことはしてないし……」

「そこをなんとかお願いします!」

「はぁ……なんで叱られたいの?」

「私が調子に乗っているからです」


 簡単に説明。菜乃さんは「えー」とか「あー」とか分かっているのか分かっていないのかよく分からない声を出していた。


「は? あんたなんにも悪いことしてないじゃん」

「そんなことないですよっ、引き受けておきながら途中で帰ったんですよ?」

「それだって部内の仲間が来たからでしょ? それまではちゃんと協力してるじゃん、というかいいことしかしてないじゃん」


 違うんだよ……そういうことを言われたいために今日呼んだわけじゃない。


「叱ってくださいっ」

「嫌だ、だって理由がないし。それにお酒が不味くなる」

「……じゃあ来てもらった意味がないです」

「こっちに来な」

「はい……」


 横に座るといきなり抱きしめられた。

 なんだろう、なんでみんなそういうことばかり。


「あんたはいいことしてるよ、気にする必要ない」

「そうじゃなくて……」

「なんでそんなお礼を言われるのが嫌なの?」

「純粋に手伝っているわけではありませんから」

「でもあんたは見返りを要求しないじゃない」


 だからそれは手伝いたいという気持ちでしていないからだ。


「こら」

「え?」

「あのね、お礼をしたいって気持ちをあんたはなんだと思っているの? 仮にそう考えているんだとしても、せめて受け取って家で家族にあげるなりすればいいじゃない。あんたは踏みにじっているのよ?」

「……私はそもそもしてくれなくていいと言っていますけど」

「利用するだけ利用したみたいな形になって嫌でしょうが。なんでそれが分からないのよ」


 駄目だ、このことに関しては延々平行線。

 ここは普通に認めて、後はしっかりと口にしていけばいい。


「みう、それが受け取れないのなら手伝うなんてやめなさい」

「ええ……普通逆じゃないですか? 見返りのために行動するのはやめろって言うところだと……」

「……じゃあ受け取ったらあたしがあんたと仲良くしてあげる」

「え、いいんですか!?」

「ははは、これには食いつくのね」

「あ……もう」


 寿々花先生を見習ってほしい。

 でも、こればかりは聞かなかったフリはできない。

 お礼を受け取ることであの子達が喜ぶのであれば、お互いにウインウインと言えるのでは?


「あの……もう抱きしめるのやめてください」

「やーだ、まだ返事聞いてないし」

「分かりました……でも、約束守ってくださいよ!?」

「うん、守るよ絶対に」

「あ……もう、格好つけないでください」


 ……ああ、寿々花先生とは無理だからって菜乃さんを利用するなんて悪い人間だ。

 それでもこれは本人の言ってくれたこと、そのために私は今度から行動しよう。


「ビールおいちい……」

「せっかく格好良かったのに……」

「はあ……みうぅ……もう帰る?」

「はい、帰りましょうか」


 あ、だけど酔っている状態の時に歩かせたりなんかしたら危ないか。


「手、握っておきますね」

「あーい……あ、このままあんたの家に連れてって」


 え、一緒の部屋で寝てこの前酷い目にあったんだけど。

 簡単に言うと服を着てくれなくて裸体のままベッドに侵入された。

 もうドキドキしてしょうがなくて、寝ることができなくて困っていた。


「ひっぐっ……ビールぅ」

「なんで今日はすぐに治っていないんですか?」

「それはぁ……あんたを信用しているからぁ」

「はいはい……お世辞はやめてください」


 とにかく怪我されないようにさっさと運ぼう。




 約束を守ってお礼は受け取ることにした。

 だが、さすがに口にしたりはしない、くれると言うのなら受け取るという話で。

 しかし、結局菜乃さんと会えるのは土曜日の夜から日曜日にかけてなのであんまり意味がない気が。


「また付き合ってよみうみう……」

「うん、今度こそちゃんと球拾いするよ」


 これって……嘘では?

 絶対に守るとか格好良く言ってくれたのに、こっちは守っているのに会えるのそれだけって……。

 いやまあ相手は社会人なんだから都合が合わないのは分かるけど、普段メッセージぐらいくれてもいいのに。


「みうちゃん!」

「おっけー!」


 考え事をしながらでも対応ができるが、いまはこちら優先しよう。


「こんちはー」

「こんにちは」


 またあのふたり。確か大きい子が桜ちゃんで、小さい子の方が心ちゃんだっけ。

 今日は帰らないように、けれど目立たないように隅で彼女達を眺めることにした。

 そういえばこのバレー部、全然活動していないようだけど大丈夫なのだろうか。


「桜、サーブ打ってみて」

「別にいいが……」

「みうちゃんはそっちね」

「分かった」

「おいおい、素人に取らせるのかよ?」


 彼女は「大丈夫だよ」と無根拠に言って自分はコートから出た。

 1対1で桜ちゃんと向き合う、ちゃん付けしているのは後輩だからだ。


「ま、怪我しないように危なさそうなら避けろ、よっとぉ!」


 かなりの速度で飛んできたボールの勢いを殺す。

 残念ながら相手のコートに戻ってしまったものの、ミスよりはマシではないだろうか。


「さっすがみうみうだね!」

「う、嘘だろ……あいつ経験者なのか?」

「ううん、ないと思う」


 兄とよくやっていたんだよなあ、それでも最後までトスはできなかったけれど。

 あと、案外運動能力は悪くない、ポンコツになるのは緊張している時だけ。


「球拾いはするからいっぱい打ってよ」

「ぐっ……むかつく!」

「え」

「こーら、協力してくれてるんだから」


 とにかくこれ以上は発言しないで怪我のないようボールを回収することに。

 黙々と拾っては見ているだけの心ちゃんに渡すのが楽しい。

 心ちゃんは彼女達に渡し、正にいい流れが出来上がっている。


「休憩!」

「おう」


 まだ30分も経っていないんだけど……サーブだけというのも単調で疲れるのかな?

 

「心ちゃんは打たなくていいの?」

「はい、普段みなさんと練習させていただいていますから」

「じゃあこのふたりは……」

「バレー馬鹿、といったところでしょうか」

「わー、自主練をして偉いなー」


 意外と口が悪い……信用しているからこそなんだろうけども。

 なにかを言うと煽りと捉えられる可能性があるため、黙って休憩中のふたりを見ておくことにした。


「おい」

「うん?」

「名前は?」

「みう」

「……ボール、拾ってくれてありがとよ」

「うん。速くて凄いね、奏音さんのコントロールと組み合わさったらもっとヤバい」

 

 なにも言わないつもりがつい思っていることを……案外出やすいんだなあ……。


「でも、もう帰れ、暗くなるぞ」

「分かった、心配してくれてありがと!」

「ふんっ、次に来た時は絶対にレシーブできないからな!」


 努力して磨いているサーブを初心者に平気で拾われたら複雑か。

 今回はちゃんと奏音さんにも確認してから体育館をあとにした。


「詩奏音さん」

「あ、寿々花先生」


 最近よく校舎外で出会う。

 職員室で頑張る以外にもお仕事があるんだろう。

 

「いまから帰るところですか?」

「はい、お手伝いも終えたので」

「あの、もう少しだけ待っていてくれませんか、19時過ぎまで」

「暇ですからいいですけど……と言いたいところですが、前みたいになるなら……」

「なりませんっ」


 ああいう思いを抱えたまま過ごすのは辛い。

 悪口を言われることはもうなんともないのに、どうして拒絶はあそこまで傷つくのか。

 ピシャリと言われてビクッと肩が跳ねる。

 一緒に帰る以外は有りえない、みたいな感じで。

 

「……じゃあ講堂の入り口前に座って待っていますね」

「はい、なるべくすぐに来ますので!」



 どうしたんだろう、実は生徒と帰るのが気に入ったとか?

 こうして夜に一緒に帰っているとちょっとドキドキする。

 年上の女性――しかも先生とだなんて。


「あ、連絡しておかないと」


 またお母さんに怒られるのは嫌だ。

 基本的に優しい人ではあるが、できれば怒られない方がいい。


「お待たせしました」

「はい、それでは行きましょうか」


 ……なんかデートしているみたい。

「ごめん、遅れちゃった」からの「いま来たところだよ」って。


「でもいいんでしょうか」

「一緒に帰ること? 暗いのにひとりで帰らせる方が問題だと思いますけど」

「それでも部活居残り組とかはこれより遅い時間になりますよね?」

「……全てを対応はできませんよ。けれど、詩奏音さんとはこうして出会ったわけですから」


 先生にとってかなりリスクのある行動だと思うのだ。

 だから、本当なら断ってひとりで帰るのが正解だった。

 なのに先生の真剣な顔及び圧が強かったのでそのまま受け入れるしかできなくて……。

 

「最近の詩奏音さん、いいと思いますよ」

「ありがとうございます」

「担任として安心できます」


 ……そんなこと言ったって仲良くはなれない。

 じゃあなんのために言うのか、一緒に帰ろうとする意味は?


「そういえば……大吉さんはお元気ですか?」

「え、知っているんですか?」

「はい、同級生ですからね。大吉さんは面白い方でしたよ、恋よりもごはん! という人でした」


 大吉くんらしい。

 え、この話題を出すということは兄ことが好きだったのだろうか。

 でも兄はそんな調子で、先生の恋心には気づいてくれなかった、と。


「兄が好きなら……まだチャンスありますよ?」

「え? ああ……そういうのはないですよ、大吉さんはモテていたんですが全部断っていまして」

「それって寿々花先生が告白してくれるのを待っていたんじゃ……」

「ありませんよ、私は昔から同性の方が好きなんです。残念ながら理解してくれる人がいないんですけどね」


 同性が好き、となると気になる人のひとりくらいはもういるのかもしれない。

 寿々花――奈緒先生のお気に入りの人ってどんな感じの人なんだろう。


「同じく大吉くんのお友達に同性が好きだと言う人がいますけど」

「珍しいですね、出会ってみたいです」

「それじゃあ今週の日曜日にでも会いますか?」

「……ごめんなさい、日曜日はちょっと……」

「あ、いえ、それならしょうがないですよね」


 人にオススメしている場合じゃないんだよなあ。

 こっちは無理すぎて探すのすら放棄しているくらいなのに。

 もう忘れてしまった方が幸せな気がする、奈緒先生の言うようにそんなの忘れているだろうし。

 仮に出会ってもいきなりお礼を言われたら警戒されるのが関の山だ。


「あ、私はこっちなので」

「はい、気をつけてくださいね」


 ん? 本当になんで一緒に帰りたがったんだろう。

 奈緒先生は相変わらず分からない人だ、勘違いしないように気をつけておかなければ。

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