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蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
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36/37

亜耶

「翔太!どう言う事よ!」


苛ついた桜の声が、固まったままの翔太の沈黙を破った。


「えっ?……どうもこうも僕には全く」

ぼんやり佇む翔太に、桜は更に苛ついた。


「あんたに聞いてんじゃ無いわよ!その女の人に聞いてって言ってるの!」

桜は軽く翔太の背中を押した。


「ちょっ!やめろよ!」

翔太はよろけながら、体は意図せず前に出ていた。


決して桜の力が強かった訳では無く、翔太が蚊弱かった訳でも無いが、安易に亜耶に近付く勇気が無かった翔太は、桜の不意打ちに珍しく感情的になった。


「ったく……あ…あの、亜耶さん?じゃじゃぁ、仁絵さんは?仁絵さんは何処に居るんですか?」


亜耶の方を見ると、再び大粒の涙がポロポロと溢れ出していた。


やっと落ち着きを取り戻していた亜耶が、自分のせいで再び泣き出した事に翔太は焦りを感じた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!」

をひたすら連呼するしかなかった。


「何やってるのよ‼︎どうしたの?もう焦ったい!わたしにも見せて」


桜は翔太の手を掴み自分の肩に乗せると、意識を集中した。


桜の存在に気付いたのか、亜耶の身体が静かに霞んで行く。


翔太は慌てて叫んだ。


「仁絵さんの事が知りたくて、どうしてあんな事をしたのか?……あなたが……あなたがやらせたんですよね⁈」


亜耶は驚いた様に翔太を振り返り、首を振った。首を振りながら何度も

「違う!違う!」

と叫んだ。


「翔太…どう言う状況?」

「君が急に入って来るから、焦って直球投げちゃったじゃないか!」

「何よ!説明してよ!」

「まだ何も始まっちゃいないよ!そこで黙って聞いててよ!でも、少しだけ分かった事は……亜耶さんて、悪い人じゃないんじゃないのかなぁ…多分!」


そう話す翔太の声は嬉しそうだった。


「どう言う事?」


「僕が呼び止めると、ちゃんとそこに居てくれるし……」


「へー……」

桜は、翔太の思い込みじゃない?と感じながら、興味の無い返事をした。


「取り敢えず、君もそこでじっとしてて!」

「偉っそうに!」

桜は翔太を睨んだ。


翔太は亜耶に向かうと、出来るだけ静かに刺激しない様話し出した。


「でも……仁絵さんに扉の開け方教えたのは、あなたですよね?この世に戻って来る為に……あなたが教えたんじゃないんですか?」


亜耶は強く首を振った。

「わたしは……悪霊を呼んだだけではなく、悪魔を産んでしまったのかもしれません……」


「悪魔⁈……悪魔って……もしかして……仁絵さんの事?」


翔太は慎重に名前を呼んで確認した。


「怖かった!仁絵を身篭った事が分かった時、わたしはただ恐ろしかった。喜ぶ夫とは裏腹に、わたしは産む事を躊躇っていたんです。誰にも相談出来ず、夫にもも言えませんでした。一緒に守って行こうと、幸せそうに言われた時……産まない選択肢は奪われました。不安を拭えない日々を過ごし、お腹の子がどんどん大きくなって行く恐怖は……今でも蘇ります。

仁絵が産まれて印が無い事を確認した時、わたしは初めて、心底あの子の誕生を喜びました。

あの忌まわしい能力も、わたしを最後に終わらせると……心からほっとしたのです。

でも……あの子が普通の子とは違っている事に気付くのには、あまり時間はかかりませんでした。

仁絵は不思議な子で、時々先の話しをするのです。始めは何を言っているのか半信半疑でしたが……暫くして、言った通りの事が本当に起きるのです。

ただ、まだ小さい仁絵は、いつ何処でどんな風にと言う事は、言葉にはしませんでした。

あの日の事も、少し前からパパとママが死んでしまうと、泣く様になったんです。

出掛ける事を嫌がり、特に夫の実家に行く日は、火がついた様に泣き叫び激しく拒みました。

しかし、母親を案じる夫は必死に仁絵を宥め賺し、強硬に実家を訪れたのです。


やはり、仁絵の予言は当たってしまいました。


でも……あの日の事は、あの子が私達の身を案じてって言うのとは、少し違っていて、ただ……私の能力が欲しかったんです。

そして、どうしても私を生き返らせたかった。


わたしは、子供の頃の失敗から、仁絵には降霊の話は一切しませんでした。

なのに……大人になったあの子は、どこでどう言う風にか分かりませんが、わたしの事あの村の事をとても熱心に調べていました」


「でも……扉を開いた今、はっきり言って亜耶さんの力って必要ですか?」


「あの子が欲しい力は降霊では無く……悪霊を呼ぶ力!悪霊そのものなのです。わたしが子供の頃に呼んだあの悪霊を再び、この世界に降臨させようとしているのです」


「何の為に⁈」


「復讐……あの村で扱われた、わたし達の先祖の為」


「復讐するって……村はもう無くなってるし、村人だって全滅してるでしょ?誰に復讐するの?」


「当時赤ん坊だった者が僅かに……村の状況を知った外の人間が調査に入って保護したと……その子供達が大人になって子供を産んで、命を繋いでいる……それが許せないと」


「根深いわねぇ」

そう言って溜め息をつく桜。隣で翔太も頷いた。


「あの…仁絵さんは?……」

翔太は、恐る恐るもう1度尋ねた。


「あの子は……仁絵は……今、眠っています」


「眠ってる?……霊でも寝るって、そう言えば以前ガンコツ先生も寝てたって言ってたわね翔太!」


桜は少し興奮気味に、翔太の腕を叩いた。

翔太は無言で2.3回頷いた。


「扉を開く儀式に、自分の身体を生贄に使った事で、仁絵の魂の半分は消滅してしまったんです。残った半分の魂は弱々しく、起きている時間が日に日に少なくなっていました」


「悪霊は諦めたの?……それともあなたがまた?」


「わたしにはもう、悪霊を呼ぶ力等有りません。有りませんが……」


「それじゃ何故?仁絵さんはあなたを……」


「仁絵は先の見える子です。そんな事は重々分かっている筈。それでもわたしを必要とする理由は……わたしが目覚める事で、わたしが子供の頃に呼んだ悪霊が……目を覚ますとあの子は知っているのです」


「悪霊が目を覚ます?……あの村!」


「仁絵は最後の力で扉へと悪霊を呼び寄せ、悪霊と融合すると、悪霊の中で眠りにつきました。そして悪霊は扉を出入りする霊を餌にし力を蓄え、日に日に大きくなっています。行き場の無くした霊は、この家の中を彷徨って……」


「出入りする霊を餌に?ああ…それで!扉に近寄れずに戻れなくなってしまった霊達が、あの家で彷徨ってるのね。ふーん……そして、扉は悪霊の為だったって事か……」


「あの時僕が感じた邪悪な殺気は……悪霊⁈」


「今はじっと、その時が来るのを待っていると言っていました。でも……ああ…見つけてしまった……」

亜耶の顔が急に曇り出し、残念そうに俯いた。


「えっ⁈何、見つけたってどう言う事?今?今見つかったの?」

桜にしては珍しく、動揺している。


「見つけた!って……それヤバイんじゃないの?」

翔太は分かりやすく焦っている。


「おーい!」


階段の途中で文也が2人に声を掛けた。


「わっ‼︎」

翔太は思わず声を上げた!

声は出なかったものの、桜は肩をすくめ振り返った。


亜耶は一瞬で消えた。


「何?何何?どうした?」

思い掛けない2人の反応に、文也は精一杯小声で話しかけた。

階段の八分目辺りで申し訳なさそうに立ち竦み、上がって良いものか躊躇していた。


「ああ、荷物纏まった⁈」

桜は何も無かった様に、文也に声をかけた。

「取り敢えず、当分の荷物は」

「じゃあ、次は翔太の家ね!」

「…………」

翔太は無言で頷いたが、表情は暗かった。


桜は身軽に文也を追い越し、階段を降りて行った。

文也は翔太を気にしながらも、桜に続いた。


翔太は亜耶の居た場所を、もう1度振り返った。


「あ…かぃ……」


そこに亜耶の姿は無いが、亜耶の声が微かに……聞こえた気がした。


「亜耶さん?……」

呼んでみたが、姿を現さない。

気配もまるで無い。


翔太は階段を駆け降りた。


文也は最後の荷物を車に積み込んでいた。

桜は既に後部座席を陣取っている。

翔太も慌てて、桜の隣に乗り込む。


文也は玄関の戸締りを済ますと、慣れた感じで運転席に滑り込んだ。


久々の運転が嬉しいのか?それとも、先程の2人の様子に違和感を感じて、わざと明るく振る舞っているのか?

「レッツゴー‼︎」

聞いた事の無いテンションで、ハンドルを握り叫んだ。


不器用にはしゃぐ姿が、余計に翔太の不安を誘った


車がゆっくり走り出す。




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